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サッカー選手のパフォーマンスが最大化する環境温度は? 低温による負の影響も無視できない

ロシアのプレミアリーグでプレーしているエリートレベルのサッカー選手の試合中の走行距離と、環境温度との関連を解析した結果が報告された。環境温度のスポーツパフォーマンスへの影響というと、高温によるマイナスの影響について多くの研究がなされているが、低温もまた負の影響があることが浮き彫りにされている。

サッカー選手のパフォーマンスが最大化する環境温度は? 低温による負の影響も無視できない

寒さによるパフォーマンスの影響を検討

暑熱環境でのスポーツパフォーマンスの低下をいかに抑制するかという研究報告は枚挙にいとまがない。例えば2021年の東京2020は近代オリンピック史上、最も暑い環境で開催されることが予測されたことから、各国代表選手にとって、その環境への適応が大きな課題とされた。また、新型コロナウイルス感染症パンデミック中であったことから、日本国内での事前合宿をほとんど行えなかったことも、暑熱馴化を困難にしたことが報告されている。

夏季五輪で行われるスポーツは、夏季に行う必要性のある競技ではないことが、このような課題を生じさせる原因とも言えなくもないが、一方、冬季五輪で行われる競技はウインタースポーツであることもあって、環境温度の影響を考察した研究が相対的に少ない。また、夏季と冬季も含めて通年で行われている競技については、これまでのところ暑熱環境への対策がクローズアップされることが多く、寒冷環境への対策の必要性はあまり検討されていない。低緯度地域と高緯度地域、平野部と高地など、世界中のさまざまな地域で行われているサッカーも、多様な環境温度で行われているスポーツだが、やはり寒冷環境のストレスについては暑熱環境ほどの知見が蓄積されていない。

今回紹介する論文は、このような状況を背景として、主として寒冷ストレスの影響に主眼を置いて、エリートレベルのサッカー選手のパフォーマンスを評価したもの。

ロシアでのプレミアリーグ5年間の全公式戦データを利用

この研究には、2016/17~2020/21年のロシアのサッカープレミアリーグ5年間の公式戦に参加した24チームの全試合、1,200試合のデータが用いられた。試合中に2台のカメラで撮影された映像を解析し、1試合でのピッチ上の全選手の移動距離の合計、走行(4.0~5.5m/秒)距離の合計、高速走行(5.5~7.0m/秒)の距離の合計、およびスプリント走行(7.0m/秒超)の距離の合計という四つのパラメーターを算出。これをパフォーマンスの指標とした。

環境温度は気象センター発表の公式データを利用した。試合開始時の平均環境温度は、11.7±10.2°Cだった。

低温では高速・スプリント走行に影響が生じる

映像解析から質のよいデータを得られなかった試合などを除外し、1,146試合、2,292件のデータを解析対象とした。

環境温度を-5°C以下から20°C以上を5~10°C刻みで6群に分類すると、サンプル数は以下のように分布していた。-5°C以下は134件(5.8%)、-4~0°Cは222件(9.7%)、1~5°Cは322件(14.0%)、6~10°Cは372件(16.2%)、11~20°Cは726件(31.7%)、20°C超は516件(22.5%)。

各環境温度での1試合、1チームのピッチ上の全選手の移動距離、走行距離、高速走行距離、スプリント走行距離は、以下のとおり。

移動距離と走行距離は高温環境で短い

移動距離と走行距離は環境温度が-5~10°Cの間では有意な差が認められず、10°C以上では距離が短縮していた。

移動距離

1試合あたり1チームのピッチ上の全選手の移動距離は、-5°C以下では114.9±4.8km、-4~0°Cは114.3±5.1km、1~5°Cは114.5±4.7km、6~10°Cは114.6±4.6kmで、これらは11~20°Cおよび20°C超の環境温度での試合より、有意に長かった。また、11~20°Cは113.7±4.8kmで、20°C超の112.3±5.5kmより有意に長かった。

走行距離

1試合あたり1チームのピッチ上の全選手の4.0~5.5m/秒での走行距離は、-5°C以下では20.0±1.8km、-4~0°Cは20.0±2.0km、1~5°Cは20.1±1.8km、6~10°Cは20.0±2.0kmで、これらは11~20°Cおよび20°C超の環境温度での試合より、有意に長かった。また、11~20°Cは19.3±1.8kmで、20°C超の18.3±1.8kmより有意に長かった。

氷点下では-1°Cごとにスプリント走行距離が1.6%短縮

高速走行とスプリント走行距離については、高温環境と低温環境双方で短い傾向があった。

高速走行距離

1試合あたり1チームのピッチ上の全選手の5.5~7.0m/秒での走行距離は、-5°C以下では7.7±0.9kmであり、これは20°C超の7.2±0.9kmより有意に長かった。ただし、-4~0°Cでは7.9±0.9km、1~5°Cは7.9±0.9km、6~10°Cは7.9±1.0kmであって、これらは20°C超だけでなく、11~20°Cの7.7±0.9kmとの比較でも有意に長かった。

スプリント走行距離

1試合あたり1チームのピッチ上の全選手の7.0m/秒超での走行距離は、-5°C以下では1.1±0.4kmであり、これは20°C超を除くすべての環境温度よりも有意に短かった。-4~0°Cでは1.2±0.4km、1~5°Cは1.2±0.3km、6~10°Cは1.3±0.4km、11~20°Cは1.3±0.4kmであって、これらは20°C超の1.1±0.4kmより有意に長く、かつ上述のように、-5°C以下との比較でも有意に長かった。

環境温度が氷点下の場合、-1°C低いごとにスプリント走行の距離は19.2m(1.6%)短縮するという関連が認められた。

以上より著者らは、「環境温度が氷点下の場合、とくに-5°C以下の環境は、エリートサッカー選手の試合でのパフォーマンス低下に関連していることが明らかになった。この結果は、寒冷環境でスポーツを行うアスリートのサポートスタッフにとっても重要な知見と考えられる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「The relationship between ambient temperature and match running performance of elite soccer players」。〔PLoS One. 2023 Jul 11;18(7):e0288494〕
原文はこちら(PLOS)

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