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歯周病があるアスリートはパフォーマンスが低下する 口腔健康の重要性を示唆するメタ解析

歯周病を有することがスポーツパフォーマンスとどう関係しているかを、システマティックレビューとメタ解析により検討した結果が報告された。歯周病がある場合、アスリート本人がパフォーマンスの低下を認識することのオッズ比が1.55であり、有意に高いという。

歯周病があるアスリートはパフォーマンスが低下する 口腔健康の重要性を示唆

歯周病は慢性の炎症性疾患で全身に影響が及ぶ

歯周病は歯の支持組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨など)への慢性感染症で、世界の人口に最も蔓延している口腔疾患かつ感染症ということも可能。デンタルフロス使用時の出血や歯肉の腫れなどの歯周病の兆候は、30歳以上の約半数にみられると報告されており、高齢者では歯の動揺や喪失につながる。しかし、ほとんどの場合、う蝕(虫歯)と違って痛みを生じないため、進行し喪失直前に至るまで軽視されがちな疾患である。

また、歯周病は口腔疾患だが近年、全身疾患との関連が明らかになってきており、C反応性蛋白(CRP)や腫瘍壊死因子α(TNF-α)などの炎症バイオマーカーの高値で把握される全身性炎症との関連も示唆されている。歯周病による歯の喪失がQOLを低下させるだけでなく、慢性疾患の治療にも影響を及ぼすことが指摘されており、さらにアスリート対象の研究では、パフォーマンス低下や怪我の再発リスクの上昇などとの関連が示唆されている。

アスリートのパフォーマンスに対する歯周病の影響はそれほど大きなものではないのかもしれない。しかし、わずかな記録の差が成績を隔てる世界では、たとえわずかなであっても対処可能なマイナス要因は対処すべきと言える。

以上を背景として、今回紹介する論文の著者らは、歯周病がスポーツアスリートのパフォーマンスに及ぼす影響をシステマティックレビューとメタ解析により検討した。

文献検索について

PRISMAガイドライン(システマティックレビューのガイドライン)に基づき、PubMed、Scopus、Web of Scienceなどの文献データベースを用いて、2022年4月までに収載されたこのトピックに関する横断研究、コホート研究、症例対照研究の報告を検索。アスリートの行っている競技は制限しなかった。また、OpenGreyやGoogle Scholarを用いて灰色文献(伝統的な商業ルートでは入手困難な情報)も収集した。総説、ガイドライン、動物実験の報告などは除外した。

796報がヒットし重複削除後に2名の研究者がタイトルと要約に基づきスクリーニングを実施。14報を全文精査の対象として最終的に8件の研究報告が適格と判断された。なお、採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。また、解析に必要なデータの欠落やバイアスリスクについての疑義がある場合、最大で連続5週間にわたり論文著者に連絡をとり、解決を試みた。

8件中6件の研究が歯周病とパフォーマンスとの有意な関連を報告

8件の研究はすべて横断研究であり、研究参加者は16~47歳の範囲で、行っている競技は陸上、ボクシング、ホッケー、水泳、水球、柔道、バレーボール、射撃、サッカー、重量挙げ、フェンシング、アーチェリー、ハンドボール、ビーチバレー、テコンドー、レスリング、サイクリング、バスケットボール、カヌー、体操、馬術、セーリング、卓球、ボート、バドミントンなど多岐に及んでいた。

歯周病の重症度は、ポケットの深さ、プロービング時の出血、歯肉炎指数(gingival index;GI)、自己申告による症状などで評価されていた。

パフォーマンスを自己評価で判定した3件の研究をメタ解析

8件の研究のうち6件は、歯周病とスポーツパフォーマンスとの間に関連があると結論づけ、2件は関連なしと結論づけていた。論文では8件の研究に基づく定性的な解析を加えたうえで、3件の研究に基づく定量的解析の結果を述べている。ここでは定量的解析の結果について取り上げる。

8件の研究のうち5件は、それぞれ異なるパフォーマンス指標を用いていたことから、メタ解析の対象から除外された。残り3件は、自己報告によって、パフォーマンスへの影響を評価していた。それらのうち2件は同じ研究グループから報告されたものだが、研究対象が異なるため、それぞれ別のデータとしてメタ解析を行った。

3件の個々の研究は、いずれも歯周病を有するアスリートでパフォーマンス低下のオッズ比が1を上回っていたものの、すべて有意水準に至っていなかった。ところが3件を統合した解析からは、有意な結果が示された。

具体的には、3件の研究の参加者のうち、歯周病のあるアスリートは331人であり、そのうち240人(72.5%)がパフォーマンスの低下を自己申告していた。それに対して歯周病のないアスリートは396人であり、そのうち238人(60.1%)がパフォーマンスの低下を自己申告していた。これをオッズ比で表すと1.55(95%CI;1.04~2.31)となり、有意だった。なお、データの不均一性を表すI2統計量は0%であり、研究間の結果の異質性はかなり低いことを表していた。

この結果に基づき著者らは、「歯周病とアスリートのスポーツパフォーマンスの自己認識の低下との関連性が明らかになった。アスリートの口腔健康に関する行動変容を促すこと、および、アスリートの歯周病管理プログラムの開発などの予防歯科ケアの重要性を強調するものと言える。今後は、より大きなサンプルサイズで交絡因子を調整したうえで、パフォーマンスの客観的評価による解析が必要とされる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Periodontal disease and sports performance: a systematic review and meta-analysis」。〔Res Sports Med. 2023 Jul 27;1-20〕
原文はこちら(Informa UK)

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