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睡眠時間を11~27%増やすとパフォーマンスが上がる? 系統的レビューからの示唆

アスリートの睡眠とパフォーマンスとの関連を検討した研究結果のシステマティックレビュー論文が報告された。7時間睡眠の場合に睡眠時間を46~113分増やすことや、睡眠不足の翌日は20分昼寝することが、パフォーマンスの維持または向上につながる可能性が示されたという。

睡眠時間を11~27%増やすとパフォーマンスが上がる? 系統的レビューからの示唆

アスリートの睡眠不足はパフォーマンスを下げる

睡眠はヒトの健康と幸福感にとって不可欠な生物学的欲求に基づく行動であり、睡眠時間が少ないことや睡眠の質が低いことは、免疫系や内分泌代謝、認知機能、および身体機能に悪影響を与える。アスリートに関して睡眠は、試合やトレーニングのストレスからの回復にとって最も重要な要素であると認識されている。

睡眠時間をどの程度確保することが適切なのかは介入研究が困難であることから不明ではあるが、観察研究などのデータを根拠に約8時間の睡眠が推奨されることが多い。それに対してアスリートの睡眠時間は7時間未満であるとする複数の報告がある。アスリートの睡眠時間が不足しがちな理由として、早朝または夜間のトレーニング、心理的ストレス、試合のための移動と不慣れな環境での睡眠、近年の過密化する試合スケジュール、トレーニングや試合参加以外の社会的需要(スポンサーシップ)への対応などが挙げられる。

アスリートの睡眠をサポートするための介入方法として、睡眠衛生の改善と栄養介入が行われることが多い。これまでにもそれらの介入による効果を検討した研究を対象としたシステマティックレビューが行われているが、最新のものでも5年以上前の報告であり、その報告以降にも、アスリートの睡眠に関する知見の蓄積が続いている。これを背景としてこの論文の著者らは、最新の報告も対象に含めたシステマティックレビューにより、エビデンスのアップデートを試みた。

文献検索について

PRISMAガイドライン(システマティックレビューのガイドライン)に基づき、PubMed、SPORTDiscus、Web of Scienceという3件の文献データベースを用いてこのトピックに関する英語で発表されている文献の検索を2022年5月に実施。包括基準は、

  1. 研究参加者がスポーツアスリートであり、
  2. 睡眠の改善を目的とした介入を実施し、
  3. 少なくとも1種類以上の客観的なパフォーマンス・回復指標で介入効果を検討していること。

審判や兵士対象の研究、評価指標が主観的な判断のみの研究、睡眠薬を用いた介入研究は除外した。

一次検索で1,584報がヒットし重複削除後の1,117報を2人の研究者がタイトルと要約に基づき独立してスクリーニング。残った61報を全文精査の対象とし、参考文献のハンドサーチから1報を追加して、最終的に25件の研究報告を解析対象とした。なお、採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により合意を得た。

2011年以降の知見からの推奨事項

抽出された25件はすべて2011~21年の間に発表された介入研究であり、クロスオーバー試験が60%、無作為化比較試験が8%、非無作為化試験が32%。研究参加者は9~31人であり、年齢は13~33歳。行っている競技は17種類で、11件の研究はチームスポーツが含まれ、13件には個人スポーツが含まれていた。また、17件は男性アスリートのみを対象、3件は女性アスリートのみ対象、5件は男性と女性を対象としていた。競技レベルは広い範囲に分布しており、エリートレベル対象研究が3件、高度なトレーニングを行っている非エリート対象研究が4件含まれていた。

この研究では、これらの報告を基に、睡眠介入による認知機能への影響と、身体パフォーマンスへの影響、回復に対する影響という視点で考察している。研究に用いられた介入は、睡眠環境の改善、昼寝、カフェイン摂取と昼寝の組み合わせ、睡眠時間延長、電子機器の使用制限、冷水浸漬、マインドフルネスなど。それらの研究結果から著者らは、キーポイントとして以下のように知見を整理している。

キーポイント

  • 昼寝や夜間の睡眠によって睡眠時間の合計を増やすと、身体的および/または認知的パフォーマンスにプラスの影響が生じる可能性がある。
  • 毎晩約7時間睡眠する習慣があるアスリートの場合、睡眠時間を46~113分(11~27%)延長することが、将来の睡眠延長プログラムの一般的な推奨事項となる可能性がある。
  • 20~90分の昼寝は、前夜の睡眠時間が日常的な範囲だった場合の日中のパフォーマンスを向上し、また前夜の睡眠時間がふだんよりも少なかった場合の日中のパフォーマンス低下を抑制する。

なお、昼寝の時間について、前夜の睡眠時間が日常的な範囲の場合は、短時間よりも長時間のほうがパフォーマンス改善が大きい可能性がある反面、長時間の昼寝(とくに90分以上)によって睡眠慣性(寝覚めの悪さ)が生じやすくなることから、昼寝終了からパフォーマンスが要求される状態までの時間をより長く(少なくとも30分)確保する必要が生じるという。前夜が日常よりも短時間睡眠だった場合は、昼寝の時間が短時間(例えば20分)でも、パフォーマンスをベースラインレベル(ふだんどおり)にするという点では、長時間の昼寝(90分)と効果は同等と考えられるとのことだ。

また、アスリートに必要とされる睡眠時間は9~10時間の可能性があること、ただし習慣的な睡眠時間がこれより短いアスリートがこれを満たそうとすると、中途覚醒が増加することもある点に留意が必要になることといった考察も述べられている。

論文にはこのほかに、アスリートの睡眠習慣をモニタリングし改善するための手順も提案されている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Impact of Sleep Interventions on Athletic Performance: A Systematic Review」。〔Sports Med Open. 2023 Jul 18;9(1):58〕
原文はこちら(Springer Nature)

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