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パラスポーツでのドーピング行為と知識・認識 選手とコーチへの調査で明らかになったこと

パラリンピック選手とそのコーチを対象に、ドーピングの認識、知識などを調査した結果が発表された。ドーピングに関する教育レベルは概して良好と判断されるという。欧州4カ国での調査の報告。

パラスポーツでのドーピング行為と知識・認識 選手とコーチへの調査で明らかになったこと

パラリンピアンのドーピングリスクの実像は?

パラリンピックスポーツではオリンピックに比べて全体の規模は小さいが、ドーピング行為の発生が報告されている。世界アンチ・ドーピング機関(World Anti-Doping Agency;WADA)の年次報告によると、パラアスリートのアンチ・ドーピング規則違反(Anti-Doping Rule Violations;ADRVs)は毎年数十件であり、検査件数に対する割合は1%前後で推移している。ただし、絶対数が少ないとは言え増加傾向が認められ、またオリンピック選手と同様に、この数値は過小評価されていると考えられ、実際のドーピング行為はより多く発生している可能性がある。

パラリンピック競技におけるドーピングに関する研究は、これまでのところほとんど行われてきていない。わずかに最近、パラスポーツのドーピング行為のリスク因子を検討した定性的研究の結果が報告され、そのリスク因子は健常者スポーツと同様に、知識と教育の欠如、競技成績のプレッシャーなどであることが示唆されている。

今回紹介する論文の研究では、パラスポーツでのドーピング対策の実像により肉薄するため、選手とコーチに対するアンケートを用いた多国籍調査が実施された。

約160人のパラアスリートとそのコーチの回答を解析

この研究のためのアンケート調査は、ドイツ語、英語、フランス語で作られ、英国、ドイツ、オーストリア、スイスにて、オンラインで実施された。各国のパラスポーツ団体やクラブに連絡をとり回答を呼びかけるとともに、ソーシャルメディア上に情報を公開している選手やコーチには直接連絡して回答協力を依頼した。回答は匿名で受け付けた。

アンケートへの回答の適格基準は、選手については、18歳以上で国際パラリンピック委員会(International Paralympic Committee;IPC)が承認しているスポーツの選手であり、IPCのパラリンピック選手の定義を満たし5年以上、国内・国際大会に出場していてアンチ・ドーピング検査の対象となっている選手。コーチについては、上記の条件を満たすパラアスリートを5人以上、5年以上指導した経験を有する、各スポーツ連盟により認定された資格をもつコーチ。

有効回答と判断され解析対象となったのは、パラ選手126人とコーチ35人だった。

解析対象選手とコーチの特徴

126人のアスリートのうち女性が36.5%であり、この値は国による有意差はなかった。一方、年齢は国によって有意に異なり、ドイツの28.8±8.2歳からオーストリアの36.86±13.2歳の範囲に分布し、全体では32.0±10.6歳だった。行っている競技は、国際パラリンピック委員会(IPC)が承認している28競技のうち21競技が含まれていた。競技レベルは国際レベルが94.4%でパラリンピック出場経験者が63.5%。障害のタイプは筋力低下42.1%、四肢欠損16.7%、視覚障害7.1%であり、出生時からの障害が49.2%、後天性の障害が50.0%。

一方、コーチは35人中、女性が5人、平均年齢は48.7±13.4歳、現在のレベルでの経験年数が11.2±6.0年だった。

ドーピング行為とその責任の所在の認識、ドーピングの意欲

アンケートに記された行為がドーピング行為に該当するか否かを7段階のリッカートスコア(全く不同意が1、極めて強い同意が7)で回答を得た。その結果の一部をみると、「WADA禁止リストに記載されている物質または方法を行う行為」は、選手が5.1、コーチは4.2点、「障害グレード分類に関する不正」は同順に4.7、4.2点と比較的高く、試合前の「カフェイン摂取」は2.7、2.6点だった。

ドーピングはだれの責任かとの質問には、「アスリート」とすることへの同意が選手は75.5、コーチは74.3%、「コーチ」とすることへの同意は同順に37.6、41.8%、「その他のサポートスタッフ」は30.5、33.1%だった。

ドーピングを行う意欲の程度を5点のリッカートスコアで選手に問うと、平均は1.16±0.51であり、これは性別や国、パラリンピック出場経験の有無、障害が出生時からか後天性かによる有意差はなかった。競技別の比較は各競技のサンプル数が少数に限られ行えなかった。

何パーセントの選手がドーピングをしていると思うか?

さまざまなカテゴリーの健常アスリート、パラアスリートのうち、どの程度の選手がドーピング行為を行っていると思うかとの質問に対して、以下のような回答が得られた。

オリンピック競技を国際レベルで戦っているアスリートのドーピング行為の頻度は、パラ選手は30.6、コーチは31.2%と考えていた。パラリンピック競技を国際レベルで戦っているアスリートのドーピング行為の頻度については、同順に19.8、23.3%と考えられていた。

以下同様に、パワー系競技(例えば重量挙げ)を国際レベルで戦っているパラアスリートのドーピング行為の頻度は、28.9、34.8%、自分の国のパラアスリートのドーピング行為の頻度は、19.4、15.1%、自分が行っているパラリンピック競技のドーピング行為の頻度は、8.8、16.4%と考えられていた。

このほかに、アンチ・ドーピングに関する情報の入手経路の調査から、各国のアンチ・ドーピング機関(National Anti-Doping Organisations;NADO)を選手の67.5、コーチの82.9%が挙げ、WADAは同順に46.0、51.4%が挙げたことなどが報告されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Doping in Paralympic sport: perceptions, responsibility and anti-doping education experiences from the perspective of Paralympic athletes and parasport coaches」。〔Front Sports Act Living. 2023 Jul 7;5:1166139〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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