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釣りでメンタルヘルスが改善する可能性を示唆 英国の成人男性、約1,700人調査

2023年10月03日

釣りは日本でも古くから趣味として根付いているが、近年はスポーツとしての釣り「スポーツフィッシング」の人口も少なくない。その釣りが、メンタル面のトラブルを防ぐように働いている可能性を示唆する研究結果が報告された。英国人男性を対象とする横断研究で、釣りをしている人には、うつや希死念慮、自傷行為の既往のある人が有意に少なかったという。

釣りでメンタルヘルスが改善する可能性を示唆 英国の成人男性、約1,700人を調査

釣りのメンタルへの影響を定量的に検討

釣りは先進諸国で人気のあるレジャーであり、その目的は単に釣果を狙うだけでなく、釣りという行為をスポーツとして楽しみ、釣り上げた魚はそのまま放流する「キャッチ&リリース」というスタイルでも普及している。先進国全体で人口の約11%が釣りを楽しんでいるというデータがあり、本研究が行われた英国でも多くの人々が趣味としている。

釣りをスポーツとして捉えた場合、小児から高齢者にわたる幅広い年齢層が、いずれもハンデキャップなし、またはわずかなハンデキャップをクリアすれば参加可能という特徴を持つ。また一般的に釣りは自然豊かな環境で行われ、ストレス解消に役立つと考えられる。実際に釣りによるストレス解消効果を示した定性的研究の結果も報告されている。ただし、その効果を定量的に検討した報告はほとんどみられない。

英国成人男性約1,700人を対象に調査

この研究は、英国でInstagram、Facebook、Twitterを通じて募集された、18歳以上の一般成人を対象とするアンケートによる横断研究として実施された。アンケートの主な質問項目は、年齢や就業状況、世帯収入、喫煙・飲酒習慣などの人口統計学的因子に関する内容と、釣りを行っているか否か、行っている場合はその頻度と1回あたりの時間、および精神疾患の既往、メンタルヘルス状態など。メンタルヘルス状態の把握には、主観的幸福感やうつ・不安のレベルについて、臨床で用いられている後述の評価指標を用いた。

アンケートの回答者は1,792人で、そのうち女性が40人含まれていたが、サンプル数が不十分であるため除外し、成人男性のみの1,752人を対象として解析した。解析対象者の主な特徴は以下のとおり。

婚姻状況は既婚62.9%、未婚で同居17.7%、独身11.9%、離別5.5%、死別1.4%など。就業状況は被雇用者50.6%、退職後29.3%、自営業10.7%など。喫煙者は18.6%で、習慣的飲酒者は66.0%。精神疾患の既往は、過去に診断された疾患の有無を問う形式で把握したところ、不安症16.1%、うつ病23.2%、双極性障害0.9%、統合失調症0.4%であり、希死念慮の既往は30.3%、自殺未遂の既往は6.8%だった。

1,746人が釣りの経験を有しており、その頻度は毎日0.1%、週5~6回0.7%、週3~4回6.0%、週1~2回37.9%、2週に1度25.6%で、それらの合計が70.3%であり、残りは月1回以下の頻度だった。1回あたりの時間は1時間未満が0.1%、1~2時間が0.7%、3~4時間が13.1%、5時間以上が85.7%で、全体の98%は3時間以上だった。

釣りの頻度が高いほどメンタルの状態が良好な可能性

釣りの頻度や1回あたりの時間と精神疾患の既往およびメンタルヘルス状態との関連の解析に際しては、年齢の影響が統計学的に調節された。

釣りの頻度の低さが精神疾患のオッズ比の高さと関連

その解析の結果、釣りの頻度が低いことが、精神疾患や希死念慮の既往などとの有意な関連が認められた。詳細は以下のとおり。

釣りの頻度が2週間に1回未満の場合、うつ病(OR1.172〈95%CI;1.078~1.273〉)、希死念慮(OR1.162〈1.072~1.260〉)、自傷行為(OR1.166〈1.034~1.314〉)のオッズ比が有意に高かった。不安症や双極性障害、自殺未遂の既往は釣りの頻度と有意な関連がなかった。

その一方、釣り1回あたりの時間については3時間未満の場合に、希死念慮の既往のオッズ比が有意に低く(OR0.678〈0.521~0.882〉)、その他の精神疾患や自殺未遂、自傷行為の既往との関連は非有意だった。

釣りの頻度が低いほど幸福感が低く、不安・うつレベルは高い

ワーウィックエジンバラ精神的幸福スケール(Warwick–Edinburgh Mental Well-being Scale;WEMWBS)で評価した主観的幸福感のスコアは中央値25点(四分位範囲21~28)だった。WEMWBSスコアは点数が高いほど幸福感が高いことを意味する。釣りを行う間隔の長さ(釣りの頻度が低いこと)とWEMWBSスコアとの間に有意な負の相関が認められた。つまり、釣りを頻繁に行っているほど主観的幸福感が高かった(β=-0.507〈-0.690~-0.324〉)。

ベック抑うつ尺度(Beck Depression Inventory;BDI)で評価した抑うつのスコアは中央値7点(3~15)だった。BDIスコアは点数が高いほど抑うつレベルが高いことを意味する。釣りを行う間隔の長さとBDIスコアとの間に有意な正の相関が認められた。つまり、釣りを頻繁に行っているほど抑うつレベルが低かった(β=0.881〈0.541~1.220〉)。

ベック不安尺度(Beck Anxiety Inventory;BAI)で評価した不安のスコアは中央値5点(1~13)だった。BAIスコアは点数が高いほど不安レベルが高いことを意味する。釣りを行う間隔の長さとBAIスコアとの間に有意な正の相関が認められた。つまり、釣りを頻繁に行っているほど不安レベルが低かった(β=0.556〈0.157~0.954〉)。

自然の中での身体活動がメンタルにプラスに働く可能性

以上の結果に基づき著者らは、本研究が横断研究であり因果関係は不明であるとしたうえで、「メンタルヘルス上の問題を抱えている人に対して釣りを勧めることは、身体活動量を増やし、かつ、自然環境の中で時間を過ごすことによるストレス解消効果という二つの経路を介して、状況の改善につながるように働くのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Mental Health and Recreational Angling in UK Adult Males: A Cross-Sectional Study」。〔Epidemiologia (Basel). 2023 Jul 13;4(3):298-308〕
原文はこちら(MDPI)

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