就寝前の軽食は、睡眠の質や回復に影響するのか? 米国の女子大学生サッカー選手を調査
就寝前に軽い食事を摂取しても、睡眠時間や睡眠の質に影響はなく、また運動負荷からのリカバリーにも差は生じないのではないかとする研究結果が報告された。全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)ディビジョンIの女子サッカー選手を対象に、ウェアラブルデバイスを用いて1年間にわたり観察した結果であり、国際スポーツ栄養学会の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に論文が掲載された。
就寝前の食事の影響を、女性アスリート対象に調査
適切な栄養素の摂取と睡眠の双方が、運動負荷後の回復を促し、翌日以降のパフォーマンスを支えたり、怪我のリスクを抑制すると考えられる。また、就寝前に適量の食事を摂取することで、睡眠の質が向上したり、タンパク質を摂取した場合には睡眠中の筋タンパク質合成が増加する可能性も報告されている。ただ、それらの研究報告の結果は一貫性が十分でなく、睡眠の質への影響については、摂取する量や内容次第でむしろ低下する可能性も示されている。
さらに重要なこととして、それらの知見の多くが男性アスリート対象研究から得られたものであり、女性アスリートにも同じことが言えるとは限らない。これを背景としてこの論文の著者らは、対象を女性のみに限定したうえで、就寝前の食事が睡眠や回復に及ぼす影響を検討した。著者によると、女性アスリートを対象にこのような目的で行った長期間の観察研究は、これが初めてとのことだ。
14人の女子選手の睡眠と就寝前の食事を1年間観察
この研究は、全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)のディビジョンI所属の女子サッカー選手14名に、睡眠や回復に関連するパラメーターを取得可能なウェアラブルデバイスを1日24時間着用し、1年間生活してもらうという方法で行われた。
用いられたウェアラブルデバイスは、おもに睡眠状態を測定するアクチグラフィー、および、心拍数や心拍変動、呼吸数などを測定するためのフォトプレチスモグラフィー(光電式容積脈波記録計)。これらにより、睡眠時間や睡眠の質(中途覚醒の頻度や時間)、安静時心拍数と心拍変動から算出するリカバリー(回復)スコアなどを評価した。リカバリースコアは、安静時心拍数が低値で心拍変動が高値であることなどから算出されるスコアであり、0~100%の範囲で表され、スコアが高いほど回復が促進される状態と判定される。
就寝前の摂食については、就床の2時間前以降に何かを摂取したか否か、摂取した場合は何を食べたかをサプリメントも含めて種類と量を記録し、3日ごとにアプリケーションを通じて報告したもらった。
就寝前のタンパク質摂取量のみが、非有意ながら回復スコアに負の影響
14人の選手は年齢が20.8±1.4歳、BMI22.7±0.5で、6人が経口避妊薬を使用していた。就寝前の摂取エネルギー量は330±284kcalと標準偏差が大きかった。栄養素別では、タンパク質7.6±7.3g、脂質12±10.5g、炭水化物46.2±40.5gであり、食品としては、ポップコーン、チーズスティック、ヨーグルト、アイスクリーム、クッキー、デザートなどが多かった。
就寝前の食事の摂取量で全体を2群に分けて、睡眠や回復の差を検討
就寝前の食事と睡眠や回復との関連は、摂取エネルギー量および主要栄養素の摂取量の50パーセンタイルで全体を二分したうえで、群間差を比較するという手法で検討された。その結果、摂取エネルギー量、タンパク質・脂質・炭水化物の摂取量の高低は、睡眠時間、中途覚醒時間、安静時心拍数、心拍変動、リカバリースコアのいずれについても、統計的に有意な差につながっていなかった。つまり、就寝前の摂取量の多寡やその栄養素は、睡眠時間や睡眠の質、睡眠中の回復と関連がなかった。
ただ、就寝前のタンパク質摂取量の多寡で二分した場合に、摂取量の多い群(15.6±7.5g)は少ない群(2.2±1.3g)に比べてリカバリースコアが、わずかに有意水準未満ながら低く(p=0.057)、回復が遅延している可能性のあることが示唆された。
この点について著者らは既報研究に基づく考察として、「就寝前のタンパク質摂取量がそれほど多くなかったため、有意な影響が認められなかったのではないか」と述べている。また一般論として、就寝前のタンパク質摂取量の増加は、アルコール摂取と関連していることがあり、飲酒行動に伴う睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下という影響、または心拍数や心拍変動などから算出されるリカバリースコアの低下といった影響が生じる可能性もあることを指摘している。
結果解釈上のいくつかの限界点
著者らは本研究の限界点として、把握した食行動が就床2時間前以降に限られ、1日の摂取エネルギー量や栄養素バランスが不明であること、睡眠に影響を及ぼすことが知られているグリセミックインデックスやいくつかの微量栄養素の摂取量を評価していないこと、月経周期を考慮していないこと、ウェアラブルデバイスを24時間、1年間着用することの遵守率が高いとは言えず、データ欠落が少なくなかったことなどを挙げ、今後のさらなる研究の必要性を指摘している。
そのような限界点はあるものの、論文の結論では「ディビジョンIの女子サッカー選手では、睡眠前の栄養摂取による睡眠や回復への影響は認められなかった」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Pre-sleep feeding, sleep quality, and markers of recovery in division I NCAA female soccer players」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2023 Dec;20(1):2236055〕
原文はこちら(Informa UK)