小児~成人期にスポーツクラブ所属経験のある男性は、中年期以降もテストステロン値が高い
小学生のころから生涯を通じてスポーツクラブに所属していた経験が多い男性は、中年期以降になっても、男性ホルモンであるテストステロンが比較的高いレベルに維持されていることを示唆するデータが報告された。市立輪島病院泌尿器科の加藤佑樹氏らの研究であり、「Health science reports」に論文が掲載された。近年、低テストステロン血症は男性の代謝性疾患や老年症候群、メンタルヘルス不調のリスク因子と位置づけられるようになってきている。今回の研究は横断研究のため因果関係は不明だが、今後の研究次第では、幼少期からのスポーツ参加が加齢に伴うテストステロン低下を抑制することを介し、高齢期の健康上のメリットにつながることが示されるかもしれない。
生涯にわたる運動習慣とテストステロン値との関連は、ほとんどわかっていない
男性のテストステロンレベルは年齢とともに低下する。これまでの研究で、テストステロンレベルの低下は、勃起不全のほかに、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧、心血管疾患、骨粗鬆症、うつ、認知機能低下などのリスクと関連していることが報告されている。そのため、低テストステロン血症が確認され、それに伴う臨床症状が認められる場合には、「加齢男性性腺機能低下(late-onset hypogonadism;LOH)症候群」(いわゆる男性更年期障害)」と診断し、テストステロン補充療法による治療が検討される。
一方、低テストステロン血症の加齢以外のリスク因子として、喫煙・飲酒習慣とともに、運動不足が挙げられる。さらに、6~12週間程度の短期間の運動介入によってテストステロンレベルが上昇するとする研究報告もみられる。ただし、若年期からの運動習慣の有無と中年期以降のテストステロンレベルとの関連は、ほとんど研究されておらず不明。加藤氏らは、長年にわたる運動習慣が、加齢に伴う低テストステロン血症リスクを抑制する可能性を想定し、以下の横断的検討を行った。
LOH症候群が疑われた外来患者を対象に横断的解析
この研究の対象は、2007~2009年の金沢大学附属病院の外来男性患者のうち、心血管代謝性疾患を有し、LOH症候群診断のため遊離テストステロン(free testosterone;FT)が測定されており、運動習慣に関するアンケートに回答していた1,609人。主な特徴は、年齢が中央値61歳(四分位範囲54~69)、BMIは同23.7(21.9~25.7)で、FT値は8.3pg/mL(6.4~10.3)であり、高血圧が49.4%、脂質異常症が31.8%、2型糖尿病が27.5%。
スポーツクラブ所属回数で生涯の運動習慣を評価
研究参加者の運動習慣については、小学校、中学校、高校、大学、成人期、および現在(調査回答時点)という6時点において、スポーツクラブに所属していたか否かを質問し、「所属していた」との答の数で評価した。その結果、中央値は1(四分位範囲1~3)であり、全体の28%が、6時点のうち1時点でのみスポーツクラブに所属していた。1に次いで多く選択されたのは0(スポーツクラブへの所属経験なし)であり、22%を占めていた。
また、211人(13.1%)は調査回答時点でもスポーツクラブに所属していた。この群の生涯でのスポーツクラブへの所属回数は3が最多で23%であり、次いで4が20%を占めていて、3以上が全体の64%に及んだ。この点について著者らは、「中年期以降にスポーツクラブに所属している人は、若年期からスポーツを継続的に行っていた人が多いことを示唆している」と述べている。
生涯の運動習慣は、低テストステロン血症の負の関連因子
国内の以前の低テストステロン血症の診断基準(FT<8.5pg/mL)で二分すると(今年度に低テストステロン血症についての新しいガイドラインが発行された)、52.1%が低テストステロン血症に該当した。低テストステロン血症群はそうでない群に比較して、高齢で(中央値66 vs 58歳)、高血圧や脂質異常症、2型糖尿病の有病率が有意に高かった(すべてp<0.01)。
スポーツクラブへの所属経験は、低テストステロン血症群のほうが有意に少なかった(中央値1 vs 2、p<0.01)。なお、BMIは有意差がなかった。
スポーツクラブ所属回数が2以上で有意な関連
次に、低テストステロン血症に関連する因子を多変量解析で検討。その結果、年齢(OR1.065〈95%CI;1.052~1.079〉)、高血圧(OR3.489〈2.728~4.462〉)、2型糖尿病(OR3.035〈2.296~4.01〉)、脂質異常症(OR2.039〈1.558~2.668〉)は、それぞれ独立した有意な正の関連因子であることがわかった。
運動習慣については、生涯でのスポーツクラブ所属回数が2以上の場合に、OR0.886(0.802~0.980)であり、有意な負の関連因子であることがわかった。BMIは有意な関連がなかった。
著者らは本研究の限界点として、スポーツクラブの所属回数のみで生涯の運動習慣を評価しており、運動の種類や強度などが不明であること、考慮した共変量が少なく、喫煙や飲酒習慣、婚姻状況などの残余交絡の影響が想定されることなどを挙げている。そのうえで、「生涯にわたり多くの期間にスポーツクラブに所属していることが、日本人男性のLOH症候群の独立した負の関連因子だった。この結果は、幼少期からのスポーツへの参加が、後年のテストステロンレベルに影響を与える可能性を示唆している」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Relation between athletic club affiliation from school age and future serum free testosterone levels in Japan: A cross-sectional study」。〔Health Sci Rep. 2023 Aug 17;6(8):e1496〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)