日常的な緑茶・コーヒー摂取と鉄貯蔵に関する新たな知見 日本人1万人以上を精査
国内の一般住民1万人以上を対象として、緑茶やコーヒーの摂取量と体内の鉄貯蔵量との関連を検討した研究結果が報告された。男性では緑茶やコーヒーの摂取量が多いほど鉄貯蔵量を表す血清フェリチンが低く、女性の場合は閉経前/閉経後で異なる関連が認められたという。医薬基盤・健康・栄養研究所身体活動研究部の南里妃名子氏らの研究によるもので、「Frontiers in Nutrition」に論文が掲載された。
緑茶やコーヒーの摂取を相互に考慮したうえで、貯蔵鉄への影響を検討
鉄は生命活動にとって重要な微量栄養素であり、とくに造血にとって不可欠で、鉄欠乏による貧血は閉経前女性の主要な健康問題の一つ。その反面、体内における過剰な鉄貯蔵は慢性疾患や死亡リスクを高める可能性が指摘されている。
日常的な緑茶やコーヒーの摂取は、これらの疾患に対して予防的に働くことが知られているが、そのメカニズムの 1 つとして、これらの摂取により腸内での鉄の吸収を阻害することで体内の鉄貯蔵量を減少させ、酸化ストレスを軽減する可能性が考えられている。しかしながら、それらの摂取と貯蔵鉄との関連を検討した過去の研究結果は、必ずしも一貫しているとは言えない。一貫性欠如の理由として、緑茶またはコーヒーの摂取量のみで関連を評価していて両者の相互作用が調整されていないことや、サンプルサイズが小さいこと、女性の貯蔵鉄に大きな影響を及ぼす閉経が考慮されていないことなどが考えられる。
以上を背景として南里氏らは、国内の一般住民の大規模サンプルを用いて、性別および女性については閉経前/後に群分けし、緑茶・コーヒー以外からの鉄分摂取など多くの因子を考慮したうえで、それらの摂取量と貯蔵鉄のマーカーである血清フェリチン値との関連を検討した。
J-MICC Study佐賀フィールドのデータを解析
この研究には、2005年から文部科学省科学研究費助成事業として進められている、生活習慣と遺伝素因の相互作用に関する研究「日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)」の佐賀地区におけるデータが解析に用いられた。2005~2007年に行った佐賀県内の住民対象アンケートの回答者1万2,068人から、慢性炎症を来す疾患(心血管疾患、がん、肝疾患、腎不全など)の既往者、摂取エネルギー量が極端に少ない/多い人、およびデータ欠落者を除外し、1万435人(男性40.9%、閉経前女性20.4%、閉経後女性38.8%)を解析対象とした。
栄養素摂取量は、食事摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)により把握。緑茶やコーヒーの摂取はほとんど飲まない、1杯未満、1~2杯、3杯以上という4群に分類した。
女性は閉経前/後で用量反応関係が異なる結果
血清フェリチン値の中央値は、男性115.0μg/L、閉経前女性13.7μg/L、閉経後女性63.7μg/Lだった。
緑茶摂取量別に該当者の特徴を、男性、閉経前女性、閉経後女性という3群ごとに比較すると、すべての群で、緑茶摂取量が多いほど高齢で、エネルギー摂取量、鉄およびビタミンC摂取量が多く、コーヒーを1日1杯以上飲む習慣のある人の割合が低いという、有意な傾向性が認められた。
緑茶やコーヒーの摂取量と血清フェリチンとの関連
緑茶やコーヒーの摂取量と血清フェリチン値との関連は、以下の3種類のモデルで検討した。モデル1は年齢、BMI、エネルギー摂取量、飲酒・喫煙・身体活動習慣、および、緑茶摂取量との関連の解析ではコーヒー摂取量、コーヒー摂取量との関連の解析では緑茶摂取量を調整。モデル2はモデル1に食事由来の鉄摂取量を調整因子に追加。モデル3はモデル2に加えて、鉄吸収を促進するとされているビタミンCの摂取量を調整した。
解析の結果、以下のように、閉経前女性におけるコーヒー摂取量との関連を除いて、緑茶やコーヒーの摂取量が多いほど血清フェリチンが低いという有意な負の関連が認められた。 緑茶摂取量とフェリチン値の関連:
男性ではモデル1~3すべて有意であり、モデル3の傾向性p値は0.016。閉経前女性ではモデル1は非有意ながら、モデル2と3では有意であり、モデル3の傾向性p値は0.010。閉経後女性はモデル1~3すべて有意であり、モデル3の傾向性p値は0.001未満。 コーヒー摂取量とフェリチン値との関連:
男性ではモデル1~3すべて有意であり、モデル3の傾向性p値は0.004。閉経前女性はモデル1~3すべてが非有意。閉経後女性はモデル1~3すべて有意であり、モデル3の傾向性p値は0.023。
緑茶やコーヒーの摂取と鉄欠乏との関連
次に、血清フェリチン12μg/L未満を鉄欠乏と定義すると、男性の2.9%、閉経前女性の46.1%、閉経後女性の3.5%がこれに該当した。
緑茶またはコーヒーを「ほとんど飲まない」群を基準として、前記の交絡因子を調整後に鉄欠乏に該当するオッズ比を算出すると、閉経後女性において、コーヒー摂取量が1日に3杯以上の場合に有意なオッズ比上昇が認められ(OR2.20〈95%CI;1.06~4.56〉)、傾向性も有意だった(傾向性p=0.004)。
また、閉経後女性では、緑茶の摂取量と鉄欠乏との関連の傾向性も有意だった(傾向性p=0.049)。ただし、緑茶の摂取量のカテゴリー別にみたオッズ比は、1日に3杯以上の場合も含めて、すべて非有意だった。
一方、男性や閉経前女性では、緑茶やコーヒーの摂取量と鉄欠乏の関連は、すべて非有意だった。
女性ではエストロゲンレベルや食事由来の鉄摂取量が強く関与している可能性
まとめると、緑茶やコーヒーの摂取量が多いことは、男性および閉経後女性の血清フェリチン低値と関連していて、またコーヒーを1日3杯以上飲む閉経後女性は、鉄欠乏のリスクが高い可能性が示された。
閉経後女性でのみ、コーヒー摂取量と鉄欠乏との関連が有意であったことについて著者らは、「閉経後にはエストロゲンレベルの低下に伴い、腸からの鉄吸収を抑制するように働くヘプシジン産生が増加して、食事由来の鉄の生物学的利用能が低下することが報告されている。閉経後の女性において、へプシジン分泌の増加の加えてコーヒーの過剰摂取によって食事からの鉄吸収が阻害されることで鉄欠乏のリスクを高める可能性があるのではないか」との考察を述べている。
また、閉経前女性において、緑茶摂取と血清フェリチン値との関連が、調整因子に鉄摂取量を含んでいないモデル1で非有意、鉄摂取量を調整したモデル2や3では有意であったことから、「閉経前女性においては食事由来の鉄摂取量がこの関連に影響を及ぼしている可能性がある」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between green tea and coffee consumption and body iron storage in Japanese men and women: a cross-sectional study from the J-MICC Study Saga」。〔Front Nutr. 2023 Aug 10;10:1249702〕
原文はこちら(Frontiers Media)