高地トレーニング中の重炭酸塩摂取の効果は? 氷河トレッキングでの無作為化比較試験
高地トレーニングの最中に重炭酸塩を摂取することで、パフォーマンスへの効果はみられないものの、尿pHと血中重炭酸濃度が有意に高くなるというデータが報告された。スイスのアルプスで7日間のトレッキング中に行われた研究であり、トレッキング中に嫌気性パフォーマンステストも実施している。
高地トレーニングは、身体を低酸素条件に適応させることで、より高度が低く酸素濃度が高い場所での運動パフォーマンスの向上を図るトレーニング法。高地トレーニングの最中は低酸素負荷により呼吸性アルカローシスが惹起される。これは高度順応の望ましいプロセスとされるが、その代償として生じる血中重炭酸塩濃度の低下から、一時的なパフォーマンス低下につながる可能性がある。これに対して重炭酸塩の摂取が緩衝的に働くと考えられる。
7日間の氷河トレッキング中に重炭酸塩を摂取
検討対象は、特別な訓練を受けていない成人ボランティア14名。このうち2名は後述のトレッキング中の高山病、他の2名は整形外科的事象のため計4名が脱落し、残りの10名の参加者のデータを解析対象とした。参加者は登山やランニングの妨げとなる筋骨格の障害がなく、健康であり、ふだんは海抜高度で暮らしていた。
全体を無作為に、重炭酸塩を摂取する群とプラセボを摂取する群(対照群)、各群5名ずつの2群に群分けした。両群ともに男性4名、女性1名で、年齢は重炭酸塩群25.0±3.2歳、対照群23.2±2.3歳、BMIは同順に22.8±1.7、22.8±1.0。
スイスのアルプスにおいて、7日間にわたる標高3,030~4,554mの氷河トレッキングを行い、その間、重炭酸塩群は毎日0.3g/kg/日、対照群は同量のプラセボを摂取し、ベースライン時(海抜高度)とトレッキング3日目(標高3,425m)に嫌気性パフォーマンスを施行したほか、採尿および耳朶からの採血と体重測定、体調に関する自記式アンケートを連日実施した。なお、消化器症状による不快感を訴え、それが重炭酸塩またはプラセボの摂取によるものと考えられる場合、用量を0.15g/kg/日に減量した。
パフォーマンスには有意差なし
嫌気性パフォーマンス
ベースライン時からトレッキング最中に行われた嫌気性パフォーマンステストの結果の変化量は、以下のとおりで群間差はなかった。
- ピークパワー(重炭酸塩群-42.0±68.3N vs 対照群-36.0±36.3N、p=0.866)
- 平均パワー(-46.0±47.0 vs -59.5±38.9、p=0.634)
- 疲労指数(fatigue index:17.0±19.8 vs 22.5±5.2%、p=0.575)
- 乳酸値(-0.7±1.9 vs -0.8±1.5mmol/L、p=0.935)
血液ガス
ベースライン時からトレッキング最中に行われた血液ガスパラメータの変化量のうち、ΔpHに有意な群間差かみられた(重炭酸塩群0.06±0.38 vs 対照群-0.02±0.05,p<0.05)。
尿pH
尿pHは2群間で大きな差がみられた。
まず、時間効果をみると、重炭酸塩群ではトレッキングの初日から4日目にかけて、ベースライン時より有意に高値に維持されていた。一方、対照群はトレッキング期間中、ベースラインからの有意な変動はみなれなかった。
群間差をみると、トレッキング3日目~7日目の下山日まで、重炭酸塩群が対照群に比し有意にpHが高い状態が続いていた。
体重や体調
体重や体調に関しては、群間差および時間効果は認められなかった。
以上の結果からの考察として著者らは、嫌気性パフォーマンステストの結果に有意な群間差が認められなかったことについて、重炭酸塩摂取による消化器症状がメリットを相殺した可能性について触れている。トレッキング期間中、重炭酸塩摂取を割り当てられていた群の多くの参加者が、重炭酸塩摂取後に何かしらの消化器症状を訴えていたという。本研究では消化器症状を訴えた場合、重炭酸塩を半量(0.15g/kg/日)にしたが、0.20g/kg/日と、減量の幅を抑えたほうが良い結果につながった可能性を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of daily ingestion of sodium bicarbonate on acid-base status and anaerobic performance during an altitude sojourn at high altitude: a randomized controlled trial」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2020 Apr 19;17(1):22〕
原文はこちら(Springer Nature)