筋トレとお風呂の関連を調査 湯船につかる、シャワーのみ、温度などの要素と筋肉の関係を検討
短期間の筋力トレーニング中、湯船(36°Cと40°Cの2パターン)に浸かる入浴をするか、シャワーで済ませるかという三つの条件で、筋力や筋機能、心血管機能に差が生じるのかを検討した結果が報告された。中京大学大学院スポーツ科学研究科の渡邊航平教授と竹田良祐特任助教らの研究であり、「Physiological Reports」に論文が掲載された。40°Cの湯船への入浴は快適感が高く、かつ主観的な回復が有意に促進されることが示されたほか、筋力がより大きく向上する傾向が観察されたという。
入浴やシャワー浴は、筋トレによる心血管系への負担を軽減し、健康効果を高めるか?
筋力トレーニングが体組成や骨密度、関節機能、代謝の維持・改善につながることは広く知られている。ただし、負荷が強すぎる場合には筋疲労が遷延し、トレーニングの反復回数が減って、メリットが減弱してしまう。また、収縮期血圧や脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)などの動脈硬化関連指標に負の影響を及ぼし得ることが報告されている。
一方、冷水または温水への浸漬は筋疲労の回復促進法の一つとして定着しており、また温浴を含む温熱療法は心血管機能に対して保護的に働くことがメタ解析の結果として示されている。これらの知見から、家庭内で容易に実行できる入浴という行為が、筋トレに伴う疲労の回復や筋トレ効果の拡大、心血管系リスクの抑制につながる可能性が想定される。以上の理論的な背景の下、渡邊教授監修のもと、竹田氏らが入浴の効果を検証する以下の検討を行った。
若年男性をシャワー浴、低温浴、適温浴の3群に分けて、筋トレの急性反応を比較
研究対象は、筋骨格系疾患や心血管代謝疾患などの既往がない健康な31人の若年男性(20.8±0.5歳)。現喫煙者、BMI30超、ふだん筋トレを行っている人は除外されている。なお、後述のように湯船の湯の温度を一定に保つ必要があったため、自動温度調節機能のある浴槽を備えた家屋に住んでいる人を対象とした。
介入方法について
ベースラインの最大随意等尺性収縮(maximum voluntary isometric contraction;MVIC)トルクに群間差が生じないように配慮したうえで、シャワー浴のみ群(対照群〈10人〉)、36°Cの湯船に浸かる群(低温入浴群〈10人〉)、40°Cの湯船に浸かる群(適温入浴群〈11人〉)の3群に分類。2週間の慣熟期間(その習慣に慣れるための期間)に引き続き、2週間の筋トレ介入を行った。3群間に年齢や身長、体重、介入前の四肢骨格筋量に有意差はなかった。
なお、湯船の36°Cおよび40°Cという温度は、前者は心血管に影響を及ぼさない温度、後者は平均的な入浴温度という先行研究の報告に基づき設定した。また、シャワーを浴びる時間および湯船に浸かる時間はいずれも10分間とし、入浴の時間帯は任意とした。
筋トレには等尺性膝関節伸展運動を用い、最大発揮筋力の60%の強度で5秒運動、5秒休息×10回を1セットとして、2分間のインターバルで3セットの計30回を2週間以内に5回課した。このプロトコルは、筋トレによる筋肥大の影響を抑制しつつ、急性適応を把握し得る手法として採用した。
評価項目について
介入効果は、筋力の指標としてMVICトルクの変化、筋機能の指標として電気刺激で誘発した不随意等尺性収縮トルクの変化、心血管機能の指標としてPWVや心拍数、平均血圧を評価した。このうち、不随意等尺性収縮は10Hzと100Hzで刺激した反応の比を計算し、その値が高いほど筋機能が高いと評価した。
このほか、入浴の快適度や筋トレによる疲労の回復について、アンケートにより主観的な評価の回答を得た。前者は-3(非常に不快)、-2(不快)、-1(やや不快)、0(どちらでもない)、1(やや快適)、2(快適)、3(非常に快適)から選択してもらい、後者は0(回復なし)、1(わずかな回復あり)、2(回復あり)、3(顕著な回復あり)から選択してもらった。
なお、これらの評価の24時間前からは激しい運動、12時間前からはアルコールとカフェインの摂取を禁止した。では、結果をみていこう。
40°Cの入浴で筋力増強がサポートされ、回復が促進される可能性
筋力の変化は3群間で非有意ながら、適温入浴群の効果量が大
まず、筋力に対する影響は、3群間で有意差は認められなかった。ただし、効果量(partialη2)は、対照群が0.156であり小、低温入浴群は0.307で中、適温入浴群は0.450で大と判定された。つまり、筋トレによる筋力増強効果は適温入浴群でもっとも高かった。筋機能に関しては対照群でのみ有意に上昇していた(筋トレの前後での比較でp=0.020)。つまり、筋トレに対する急性の適応は、シャワー浴でのみ生じていた。
湯船に浸かる入浴では筋トレに対する急性の適応が観察されなかったことの理由として、論文内では先行研究の知見を援用し、「温水浴によって筋のダメージが軽減されたことが、短期間の運動負荷による急性適応反応を減弱させたのではないか」との考察が加えられている。
心血管機能は3群いずれも変化なし
次に、心血管機能の指標として評価したPWVや心拍数、平均血圧に関しては、3群すべてで有意な変化が観察されず、群間差もみられなかった。
筋トレの負荷で心血管機能に有意な負の影響が生じなかった理由として、研究対象が心血管リスクの低い若年者であったこと、筋トレの強度が強くなく、また急性反応をみるという目的から介入期間が短期であったことが考えられるという。
快適さや主観的な回復は適温入浴が優れる
続いて入浴の快適さについては、シャワー浴群が0.25±1.58、低温入浴群が-1.17±2.14、適温入浴群が1.55±1.69であり、適温入浴群は低温入浴群より有意に快適と評価されていた。また、筋トレ後の主観的な回復の程度は同順に、0.75±1.04、0.67±0.82、1.36±0.50であり、適温入浴群は低温入浴群より有意に回復が速いと評価されていた。
まとめると、自宅での入浴、とくに40°Cでの入浴は筋トレの筋力増強を促す傾向が認められ、主観的な回復を促進した。一方で筋肉の機能に対する短期的な正の影響は、シャワー浴でのみ認められた。心血管機能に関しては、本研究では筋トレの前後で変化がなく、入浴やシャワー浴にかかわらず悪影響は認められなかった。
著者らは、このトピックに関する今後の研究課題として、運動負荷をより強めたり、入浴のタイミングを一致させたりしたうえでの検討の必要性を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of home-based hot bathing on exercise-induced adaptations associated with short-term resistance exercise training in young men」。〔Physiol Rep. 2025 Feb;13(3):e70188〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)