高齢者が誰かと一緒に食事を摂ることで低栄養リスクを抑制できる可能性
高齢者のエネルギー摂取量は食事の同伴者数がいる場合に高く、また米や肉、油脂、野菜、果物の摂取量も有意に多いといった関連があり、同伴者の存在が低栄養リスク抑制に働いている可能性が報告された。大阪公立大学大学院生活科学研究科の鵜川重和氏らが、地域住民対象研究のデータを解析した結果であり、「Nutrients」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。
加齢による影響を除外できる研究デザインで検討
高齢者の栄養素摂取量が減少しがちな理由として、味覚の低下、疾患および疾患に対する治療薬、老年期うつなどの影響とともに、単身世帯の増加を背景とする“孤食”も挙げられる。国内において高齢者の単身または夫婦のみの世帯の割合は、1986年には31.3%であったものが、2022年には63.9%と倍以上に増加している。
これまでに、食事の席の同伴者の有無と摂取量との関連については複数の報告がある。ただし、高齢者を対象とした研究は多くなく、また交絡因子の調整が十分でないことから、明確なエビデンスは確立されていない。さらに、同伴者の有無によって、どのような食品群の摂取量に差が生じているのかは、ほとんど明らかにされていない。
以上を背景として鵜川氏らは、愛知県日進市で行われた、都市郊外の地域在住高齢者対象疫学研究(New Integrated Suburban Seniority Investigation;NISSIN)のデータを用いて、これらの点を検討した。NISSINは、1996~2005年にわたり毎年、翌年に65歳の誕生日を迎え高齢者となる集団を登録するという年齢別コホート研究であり、研究参加時点で年齢範囲が限定されている。そのため、加齢に伴う同伴者の減少や摂取量の低下などの程度は、研究参加者間の差が少ない集団と想定され、それらの影響をあまり受けずに、同伴者の有無や多寡と摂取量との関連を解析できる。
同伴者の有無や多寡と栄養素や食品群の摂取量との関係が明らかに
解析対象はNISSINに参加した64~65歳の地域在住高齢者のうち、データ欠落やエネルギー摂取量が極端な人(性別の平均値から3標準偏差以上の乖離)を除外した2,865人(男性50.0%)。健診受診時に、平日の夕食を一緒に食べる人の平均的な人数を質問し、また食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)により食品および栄養素の摂取量を評価した。このほか、健診やアンケートによって、BMI、教育歴、居住環境(独居/同居)、喫煙・飲酒・運動(歩行)習慣、抑うつ、手段的日常生活動作(IADL)、高血圧・糖尿病・脂質異常症・癌の既往といった交絡因子に関する情報を把握した。
その結果、夕食における同伴者数は、0人(本人のみの孤食)が6.8%、1人が65.3%、2人以上が27.9%だった。参加者全体の1日のエネルギー摂取量は1,882±570kcalであり、主要栄養素の摂取量は、タンパク質72.2±26.7g、脂質52.8±21.9g、炭水化物255.1±79.8gだった。
食事の同伴者数が多いほどエネルギー摂取量が多い
前記の交絡因子をすべて調整した解析の結果、1日のエネルギー摂取量は、同伴者なし群に比べて同伴者が2人以上の群は143.85kcal(95%CI;30.05~257.65)有意に多く、また同伴者が多いほどエネルギー摂取量が高いという有意な関連が認められた(傾向性p=0.01)。
同様の解析で、脂質の摂取量は同伴者なし群に比べて同伴者が1人の群は4.39g(0.21~8.58)、同伴者が2人以上の群は6.78g(2.44~11.12)、それぞれ有意に多く、同伴者が多いほど脂質摂取量が多いという有意な関連が認められた(傾向性p=0.002)。
タンパク質については、同伴者が1人の群は5.50g(0.42~10.59)、同伴者が2人以上の群は6.32g(1.05~11.59)、それぞれ有意に多く、また炭水化物は同伴者が2人以上の群で17.43g(1.48~33.37)有意に多かった(タンパク質と炭水化物の傾向性は有意水準未満)。
食事の同伴者数が多いほど米や肉、油脂、野菜、果物の摂取量が多い
次に、同伴者の有無や人数と摂取している食品群との関連を解析すると、前記の交絡因子をすべて調整後、米(傾向性p=0.003)、肉、油脂類(いずれも傾向性p<0.001)、果物(傾向性p=0.01)は、同伴者が多いほど摂取量が多いという有意な関連が認められた。
これら以外にも傾向性は非有意ながら、同伴者なし群に比べて、きのこ類(同伴者1人群で2.11g、2人以上群で2.48g)、牛乳・乳製品(同伴者1人群で37.45g)、緑黄色野菜(同24.77g)、緑黄色以外の野菜(同伴者2人以上群で13.84g)、それぞれ1日の摂取量が有意に多いという違いが観察された。
著者らは、本研究が横断研究のため因果関係は不明なこと、食事の同伴者数は夕食についてのみ評価した一方で摂取量は1日全体で評価していることなどを限界として挙げている。そのうえで、「2人以上の同伴者と食事を摂っている高齢者は、米、油脂、肉、果物、緑黄色野菜以外の野菜、きのこ類という食品群、および、タンパク質、脂質、炭水化物という栄養素の摂取量が増え、エネルギー摂取量が多いことが明らかになった。これは、高齢者が同伴者とともに食事をすることによって、食事の質が改善し低栄養リスクが低下する可能性を示唆している」と結論づけている。
なお、同伴者がいることで摂取量が増えることのメカニズムとしては、先行研究の報告を基に、「食事の時間が長くなったり、摂食速度が速くなったりするためではないか」との考察が加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Association of Dining Companionship with Energy and Nutrient Intake Among Community-Dwelling Japanese Older Adults」。〔Nutrients. 2024 Dec 26;17(1):37〕
原文はこちら(MDPI)