鶏肉で高強度筋トレの動脈硬化度の増加が抑制され、高齢女性の筋肉量・筋力・筋肉の質が改善する
高齢女性のサルコペニア予防のための高強度レジスタンストレーニングによる介入の際に、鶏肉摂取を加えると、動脈硬化関連指標への負の影響が抑制されるとする研究結果が報告された。立命館大学スポーツ健康科学部の家光素行氏らによる無作為化ランダム化比較試験(RCT)の結果であり、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に論文が掲載された。
高強度の筋トレによる高齢者の血管への負の影響の懸念を抑えるには
サルコペニア(加齢に伴う筋量、筋力、筋機能の低下)の予防のためにレジスタンストレーニングが有効であることについては、既に強固なエビデンスが存在する。しかしその一方で、高強度のレジスタンストレーニングは、脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)などの動脈硬化関連指標に負の影響を及ぼし得ることが報告されている。そのため高齢者に対しては、サルコペニアの予防と動脈硬化の予防を両立させる戦略が求められる。
一方、サルコペニアに対する栄養介入ではタンパク質の摂取が重要視されており、さらに、動物性のグルタミン酸、ロイシン、チロシンなどのアミノ酸の摂取量が多いほどPWVなどの指標が良好という関連も報告されている。なかでも鶏肉は、脂肪含有量が少なく良質なタンパク源と位置づけられている。
これらの知見を背景として家光氏らは、高強度レジスタンストレーニングと鶏肉摂取の平行介入により、高齢者の動脈硬化リスクを高めずにサルコペニアリスクを抑制できるのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。
閉経後女性対象のRCTで並行介入の有用性を検討
この研究の参加者は、おもに滋賀県内に配布される新聞広告により募集された閉経後女性93人。60歳未満、レジスタンストレーニングに支障のある関節疾患、肝疾患、腎疾患、心疾患、婦人科疾患、精神疾患などを有する人は除外されている。参加者の約半数は習慣的に有酸素性運動をしていたが、レジスタンストレーニングを行っているのは5%未満だった。
全体を無作為に、レジスタンストレーニング(RT)群、高タンパク食(HP)群、並行介入(RT+HP)群、対照群という4群に割り付け、12週間介入した。なお、研究期間中は、介入による変更以外に食習慣や運動習慣を変えないよう指示した。
介入方法について
高強度レジスタンストレーニング介入(対象はRT群とRT+HP群)は、経験豊富なトレーナーの監督下で12週間にわたり隔日で週3回実施された。負荷強度は1RM(one repetition maximum〈1回だけ施行可能な最大負荷量〉)の70%の強度とした。計36回のセッションへの参加率が90%以下の場合は、解析から除外した。
高タンパク食介入(対象はHP群とRT+HP群)には、蒸し鶏胸肉(164kcal、タンパク質22.5g)を用い、12週間にわたり隔日で週3回摂取してもらった(RT+HP群ではトレーニングセッション終了の30分以内に摂取)。計36回の摂取機会のうち、摂取回数が90%以下の場合は、解析から除外した。なお、RT群とCON群には、同等のエネルギー量で炭水化物が豊富な食品を、昼食と夕食の間の軽食として摂取してもらった。
鶏肉摂取で高強度レジスタンストレーニングの負の影響が抑制される
介入中に12人が脱落し、解析対象は81人となった。各群の人数と平均年齢は以下のとおり。RT群20人、66.9±5.0歳、HP群22人、67.0±5.3歳、RT+HP群18人、67.2±5.5歳、対照群21人、67.6±6.4歳。
ベースラインにおいて、この4群間の年齢、身長、体重、血圧、心拍数、血中脂質、腎機能(血清クレアチニン)、筋肉量(大腿前面筋厚、大腿後面筋厚、大腿四頭筋断面積)、筋力(脚伸展・屈曲の1RM)、筋肉の質(大腿直筋・外側広筋・大腿四頭筋のエコー強度〈筋輝度〉)、動脈硬化進展マーカー(cfPWV、stiffness β)、動脈硬化の進展に関与する因子(アンジオテンシンII、エンドセリン-1、血中レニン活性)などはすべて有意差がなかった。
また、介入前後の体重の変化率も、4群間で有意差がなかった。
筋肉への介入効果
筋肉関連指標の介入前後での変化率を対照群と比較すると、HP群は大腿後面筋厚のみ有意に上昇していた。
RT群は、大腿後面筋厚のほかにも大腿前面筋厚が対照群より大きく上昇し、大腿直筋・外側広筋・大腿四頭筋の超音波による筋輝度(筋内の線維や脂肪量)が有意に大きく低下(改善)し、さらにHP群との比較でも、それらの変化率が有意に大きかった。
RT+HP群はRT群と同様に、大腿後面筋厚、大腿前面筋厚が対照群より大きく上昇し、かつ、大腿四頭筋断面積も有意に大きく上昇していた。また、大腿直筋・外側広筋・大腿四頭筋の超音波による筋輝度が有意に大きく改善していた。
なお、筋力(脚伸展・屈曲の1RM)は、RT群とRT+HP群で介入後に有意に上昇していた。ただし筋力の変化率はRT群とRT+HP群の間に有意差がなかった。
動脈硬化進展マーカーへの介入の影響
cfPWVの介入前後の変化率は、RT群のみ動脈硬化度の増加(悪化)を意味する変化であり、他の3群との間に有意差が認められた。つまり、レジスタンストレーニング単独介入で生じたと考えられる動脈硬化度の増加が、鶏肉摂取により抑制されていた。
stiffness βの変化率についても同様に、RT群は増加(悪化)であり、他の3群との間に有意差が認められた。RT+HP群も増加の変化ではあったが上昇幅はわずかであり、低下の変化であったHP群との群間差の有意性は境界域(p=0.05)にとどまっていた。
動脈硬化リスク因子への介入の影響
血圧、心拍数、血中脂質、および、血中エンドセリン-1濃度、血中レニン活性の変化率は、いずれも群間差が非有意だった。
一方、アンジオテンシンIIの血中濃度は、RT群のみ介入後にベースライン値の約2倍に上昇しており、わずかな変化だった他の3群との間に有意差が認められた。つまり、高強度レジスタンストレーニング単独介入で生じたと考えられる動脈硬化度の増加作用が、習慣的な鶏肉摂取により抑制されていた。
以上より論文の結論は、「12週間の中~高強度レジスタンストレーニングは、高齢女性の動脈硬化とアンジオテンシンIIレベルを増加させる。しかし、高タンパク食品である蒸し鶏の胸肉の摂取を並行して行うと、高強度レジスタンストレーニング誘発性の動脈硬化度の増加作用が打ち消される。両者の組み合わせは、高齢女性に対する新しい運動・栄養療法として活用できるのではないか」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of resistance training and chicken intake on vascular and muscle health in elderly women」。〔J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2025 Feb;16(1):10.1002/jcsm.13572〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)