40歳前後の日本人女性では、食事の多様性が高いほど血清脂質値が良好 男性では関連が認められず
30代後半から40代前半という比較的若年の日本人を対象とする縦断研究の結果、女性では食事の多様性が高いほど、血清脂質値が相対的に良好な状態へと変化することが報告された。一方で男性では有意な関連が認められないという。徳島大学医学部医科栄養学科の中本真理子氏らの研究によるもので、「European Journal of Clinical Nutrition」に論文が掲載された。
中高年層より若い世代の食事と血清脂質の関連を調査
日本を含む先進諸国における主要な死因である心血管疾患は、おもに脂質異常症等による動脈硬化によって生じる。動脈硬化性疾患のリスクは食事スタイルと密接な関連があり、食事の多様性が高い場合に心血管代謝リスクが低いという報告もある。しかしそれらのエビデンスの多くは中高年者対象の研究に基づくものであり、若年層での食事の多様性と血清脂質値との関連は明らかでない。
これらを背景に著者らは、徳島県で行われている就労者対象の食事と健康に関する縦断研究のデータを用いた検討を行った。解析対象は、同縦断研究の第5波(2012~13年に登録された20~63歳のコホート)の1,398人から、ベースライン時点で脂質異常症を有していた人、追跡調査に一度も参加していない人、および解析に必要なデータの欠落者などを除外した745人。食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire;FFQ)を用いて、過去1カ月の食事摂取量を把握した。
解析対象の68.2%が男性であり、年齢は後述のQUANTIDDスコアに基づく分類の各群の平均が36~42歳の範囲であって、中高年以前の世代が中心だった。
ベースラインでは食事の多様性(QUANTIDDスコア)と血清脂質に有意な関連なし
食事の多様性については、片野田らにより開発された「食事の多様性に関する定量的指標(Quantitative Index for Dietary Diversity;QUANTIDD)」という指標を用いて評価した。このスコアは0~1の範囲で、スコアが高いほど多様性が高いと判定する。本研究では性別のQUANTIDDスコアの三分位数に基づき3群に群分け解析を行った。
その結果、ベースライン時点の横断的解析では、食事の多様性が高い群ほど、性別を問わず穀類の摂取量が少なく、いも類、緑黄色野菜、海藻・きのこ、豆、魚、肉の摂取量が多い傾向があった。また、食事の多様性が高い群ほど、性別にかかわらず、高齢で、エネルギー摂取量が多く、習慣的飲酒者が多いという有意差があり、また男性では身体活動量が多く、教育歴が長く、現喫煙者率は低いという有意差も認められた。一方、BMIは男性、女性ともに有意差がなかった。
血清脂質値に関しては、女性の善玉コレステロール(HDL-C)のみ、食事の多様性が高いほど高いという有意な関連がみられたが、悪玉コレステロール(LDL-C)、中性脂肪(TG)、非善玉コレステロール(non-HDL-C)、および総コレステロール(TC)は有意差がなく、男性についてはすべて有意差がなかった。
追跡期間中の血清脂質とベースラインの食事の多様性の関連
本研究では、男性は累積平均4.9回の調査に参加し、累積平均2.8年の追跡期間、女性は累積平均4.8回の調査に参加し、累積平均2.9年の調査期間だった。
ベースライン時から追跡期間中に測定された血清脂質値の累積平均を算出し、年齢、BMI、喫煙習慣、身体活動量、アルコール摂取量、エネルギー摂取量、教育歴、追跡期間の影響を統計学的に調整して、ベースライン時点の食事の多様性との関連を検討。すると女性では、食事の多様性が高いほど追跡期間中の血清脂質値が良好という関連が生じていた。関連の傾向性P値は、LDL-Cは0.028、TGは0.029、non-HDL-Cは0.026(TCは0.157、HDL-Cは0.290で非有意)。
次に、FFQに基づく主成分分析により特定された、「健康的パターン」、「西洋型パターン」、「甘味パターン」という三つの食習慣パターンをそれぞれ交絡因子として追加した解析を実施。すると、健康的パターンを追加した場合に、HDL-C、TG、non-HDL-Cとの関連が非有意となったが、それら以外は依然として有意な関連が保たれていた。
以上は女性の解析結果だが、一方の男性についてはベースラインで関連が非有意であったのと同様に、追跡期間中の血清脂質値も食事の多様性との関連が非有意のままだった。
男性は食事の多様性が高くても、生活習慣が全体的にあまり良くない?
著者らは本研究の限界点として、縦断研究ではあるが追跡期間が約3年と長くないこと、追跡期間中の食習慣の変化が把握されていないことなどを挙げたうえで、「比較的若い日本人女性就労者では、食事の多様性がその後の血清脂質に好ましい影響を及ぼし得るのではないか」と結論づけている。
なお、女性において多くの有意な影響が観察されたのに対して、男性では全く有意な影響が認められないという性差が生じたメカニズムについて、男性は女性よりも非健康的な生活習慣であることが多いためではないかとの考察が加えられている。本研究においても、男性は現喫煙者率が高く、肉やアルコールの摂取量が多く、野菜・果物の摂取量は少なかった。それらを食事の多様性(QUANTIDDスコア)の三分位で比較した場合に、スコアが高い群では有意に健康的という結果ではあるものの、全体として女性よりも非健康的だった。例えば、QUANTIDDスコア第3三分位群の現喫煙者率は、女性は6.3%であるのに対して男性は29.6%だった。
文献情報
原題のタイトルは、「Longitudinal associations between dietary diversity and serum lipid markers in Japanese workers」。〔Eur J Clin Nutr. 2024 Nov 13. doi: 10.1038/s41430-024-01540-7〕
原文はこちら(Springer Nature)