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女性アスリートのトレーニング習慣や月経などが、睡眠中のエネルギー消費や徐波睡眠に影響するメカニズム 筑波大学

女性アスリートでは、日常的なトレーニング習慣の有無、月経の有無、月経周期などの要因が、睡眠中のエネルギー消費量や深い睡眠のステージ(徐波睡眠)に対して影響を与えることが明らかにされた。また、このような影響は、各要因の程度に応じて異なるという。筑波大学の研究グループの研究によるもので、「iScience」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

女性アスリートのトレーニング習慣や月経などが、睡眠中のエネルギー消費や徐波睡眠に影響するメカニズム 筑波大学

研究の概要:月経の有無・月経周期、アスリートか否かで睡眠が異なる

睡眠は、ヒトの生命維持に重要な役割を担っている。この研究では、女性アスリートについて、日常的なトレーニング習慣や生殖機能の違いが、睡眠中のエネルギー消費量や睡眠ステージに異なる現象を生じさせており、これらの現象はすべて、睡眠中の深い睡眠のステージ(徐波睡眠、SWS)に関係して生じている可能性を見いだした。とくに、月経の有無と月経周期の違いによって、睡眠中のエネルギー消費量や睡眠ステージの変動パターンが異なることが明らかとなった。

さらに、月経周期での比較においては、日常的なトレーニング習慣を有するアスリートとそうではない一般女性とで生じる現象が異なり、ランナーのみが、睡眠中のエネルギー消費量と徐波睡眠のエネルギー消費量が卵胞期より黄体期で高値を示すことが明らかとなった。このことは、一言で生殖機能の違いといっても、その程度や運動習慣の有無で、睡眠中のエネルギー消費量や睡眠ステージに生じる現象が異なることを示唆している。

研究の背景:ランナーの体重に対する睡眠の影響を探る

体重とパフォーマンスが関係する競技では、アスリートは長期間にわたり低い体重を維持し続けるという特徴がある。このような競技の女性アスリートでは、月経不順や無月経を伴っている割合が高く、そのメカニズムの解明や生殖機能の抑制への対応策が求められている。

体重管理には、食事やトレーニングだけでなく、睡眠パターンも影響を与える要因として知られているが、睡眠中のエネルギー消費量は、月経周期で異なる可能性が報告されている。

睡眠は、疲労回復や免疫機能といった生理機能に貢献しており、とくに深い睡眠と称される徐波睡眠(slow wave sleep;SWS)は、成長ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、メラトニンといった多数のホルモン分泌と関連を示すことからも、徐波睡眠がヒトの生理機能にとって重要であることは明らか。徐波睡眠は、睡眠ステージの中で最も低いエネルギー消費量を示し、さらに定期的な運動により持続時間が延長される。しかし、日常的なトレーニング習慣をもつアスリートにおいて、月経や睡眠中のエネルギー消費量の変動への複合的な影響は依然として明らかでない。

そこで本研究では、女性にフォーカスし、日常的なトレーニング習慣や生殖機能(月経の有無、月経周期)などの各要因と、睡眠中のエネルギー消費量および徐波睡眠の関係を比較し、これらの要因がもたらす睡眠中のエネルギー消費量と睡眠ステージへの影響を明らかにした。

研究内容と成果:トレーニング習慣が徐波睡眠に影響を及ぼす

本研究では、女性ランナー17名(無月経8名、月経あり9名)、男性ランナー9名、一般健常女性10名、一般健常男性10名を対象とした。1週間にわたって自由生活下における身体活動量および食事状況の調査を行い、最終日にエネルギー消費量測定室に宿泊して、睡眠ポリグラフ(脳波計)により、睡眠中のエネルギー消費量と睡眠ステージを経時的に評価した(図1)。

図1 本研究で行なった実験の概要図

本研究で行なった実験の概要図

本研究では、1週間にわたって自由生活下における身体活動量および食事状況の調査を行い、最終日にエネルギー消費量測定室であるメタボリックチャンバー(ヒューマンカロリーメーター)に宿泊した。ヒューマンカロリーメーター滞在中は、マスクなどの拘束物は不要で、睡眠ポリグラフ(脳波計)を装着することができる。これにより、睡眠中のエネルギー消費量と睡眠ステージを経時的に同時評価し、睡眠ステージごとのエネルギー消費量の違いを明らかにすることができる。
(出典:筑波大学)

その結果、日常的なトレーニング習慣は徐波睡眠の持続時間に影響を与えないものの、徐波睡眠の現れ方に影響を及ぼし、これが睡眠中のエネルギー消費量の変動の違いを生じさせている可能性が示唆された。また、月経周期の違いは、日常的なトレーニング習慣をもたない人においては、徐波睡眠の持続時間や発現の仕方、睡眠中のエネルギー消費量に影響を及ぼさないが、日常的なトレーニング習慣のあるアスリートでは、徐波睡眠のエネルギー消費量、さらには睡眠時代謝が、卵胞期より黄体期で高値を示すことがわかった。従って、日常的なトレーニング習慣のある女性アスリートでは、徐波睡眠のエネルギー消費量への月経周期による影響が顕著に現れる可能性が示唆された。

また、睡眠時代謝の算出に該当する移動平均の最低値を示す3時間が、卵胞期と黄体期ともに徐波睡眠の第3ピークのタイミングと重複していたことから、このようなアスリートの月経周期による睡眠時代謝の違いは、就寝前の身体活動の影響をほぼ受けない覚醒に近い時間帯で発現する徐波睡眠の影響によるものと考えられる。

さらに、性別での比較では、日常的なトレーニング習慣をもたない人においては、睡眠中のエネルギー消費量の変動にのみ違いがみられたのに対して、アスリートでは、エネルギー消費量の変化の仕方に加え、男性ランナーの方が女性ランナー(無月経、月経あり)より有意に高値を示した。すなわち、徐波睡眠に影響を与える最初の要因は日常的なトレーニング習慣であり、次いで月経周期や生殖機能の抑制(無月経)が続いていると推察される。

今後の展開:女性アスリートの月経異常と睡眠との関連

本研究では、女性の日常的なトレーニング習慣、月経機能(有無、周期)などの要因の違いが、それぞれ睡眠中のエネルギー代謝変動に異なる影響を及ぼしており、これらが徐波睡眠に関連して生じている可能性が示された。研究グループでは、「今後さらに、これらの要因が睡眠中のエネルギー消費量の差異をもたらすメカニズムを、徐波睡眠と関連する働きから明らかにしていきたい。それにより、女性アスリートの月経異常の予防および治療に向けた対応策の構築につながると期待される」としている。

プレスリリース

女性アスリートのトレーニング習慣は睡眠に特有の影響を及ぼす(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Energy expenditure and slow-wave sleep in runners: focusing on reproductive function, chronic training, and sex」。〔iScience. 2025 Feb 21;28(2):111717〕
原文はこちら(Elsevier)

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