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現地でもテレビやスマホでも、スポーツ観戦は身体も心も健康にしてくれる可能性

スポーツを行うのではなく、観戦することも、メンタルヘルスや生活習慣に良い影響を与えている可能性を示唆するデータが報告された。追跡期間1年の縦断的解析の結果、現地観戦をしていた人はもちろん、テレビなどで観戦していた人も、複数の健康関連指標が良好だったという。公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の研究によるもので、「Preventive Medicine」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

現地でもテレビでも、スポーツ観戦するだけでメンタルヘルスや生活習慣に良い影響が生じる可能性

研究の概要:スポーツを「観戦」するだけでも健康に良い影響が生じる可能性

この研究では、「明治安田ライフスタイル研究(Meiji Yasuda LifeStyle study;MYLSスタディ)」※1の一環として、スポーツ観戦の頻度とさまざまな健康状態や生活習慣との長期的な関連が検討された。分析の結果、現地観戦でもテレビ等のメディアでの観戦でも、スポーツ観戦頻度が高い人ほど、1年後のメンタルヘルスや生活習慣が良好であることがわかった。一方で、メディアでの観戦頻度が高い人ほど、高血圧や糖尿病などのリスクが高い傾向がみられた。メディアでの観戦による潜在的な健康リスクには注意が必要だが、スポーツを観ることで、良好なメンタルヘルスや生活習慣が得られる可能性が示された。

※1 明治安田ライフスタイル研究:明治安田新宿健診センターを拠点として、運動や座りすぎを中心とした生活習慣が健康に与える影響の解明を目的に行われているコホート研究。

研究の背景:スポーツ観戦と健康との関連のエビデンスはほとんどなかった

スポーツ実施が健康に好影響を与えることを検証したエビデンスは数多くある。一方、「スポーツを観ること」の健康への影響を調べたこれまでの研究は、横断研究※2や短期的な介入研究であり、“スポーツを観たから健康になった”のか、“健康だからスポーツを観ている”のかは不明だった。また、スポーツ観戦という習慣を持つことが、健康に対してどのような長期的影響があるのかはわかっていなかった。

※2 横断研究:ある時点での生活習慣やその他の要因と、疾病などの健康状態を同時に調査する研究手法。原因と結果が逆転する可能性があり、因果関係の特定は困難。

一方で、国民の約70%もの人が何らかのかたちで東京2020オリンピック・パラリンピックを観たといわれており(株式会社アイスタット調べ)、多くの人がアスリートの優れた技術や情熱に心を動かされ、スポーツ観戦に熱中している。スポーツ観戦により爽快感を味わった、ストレス解消になった、という経験がある方も多いと考えられる。

そこで研究グループでは、スポーツ観戦の影響を包括的に理解するために、縦断的な研究デザインを用いて、スポーツ観戦の頻度と、20項目もの健康状態や生活習慣との長期的な関係性を検討した。

対象と方法:六千人以上を1年間追跡して、交絡因子を調整し検討

この研究は、2017~2019年度にMYLSスタディに参加した6,327人(勤労者4,851人を含む)を対象とした縦断研究※3

現地、あるいはメディアでのスポーツ観戦頻度は、質問票により調査した。健康状態や生活習慣の指標として、生活習慣(食習慣、運動習慣など)、身体的健康(健康診断データ)、精神的健康(心理的ストレス、幸福感、ワーク・エンゲイジメント※4)など計20項目を調査した。

※3 縦断研究:生活習慣などの潜在的な原因を調査した後で、その結果としての疾病などの健康状態を時間をかけて追跡調査し、因果関係を推定する研究手法。
※4 ワーク・エンゲイジメント:仕事への活力や熱意など、仕事に対するポジティブな感情(心理状態)を指す。

スポーツ観戦頻度と、健康状態や生活習慣の関連性を分析する際は、追跡を開始する1年前の年齢、性、配偶者の有無、世帯構成、教育歴、暮らし向き、職業、服薬状況、スポーツ観戦頻度、健康状態や生活習慣の影響を統計学的に調整した。

結果:現地観戦・メディア観戦ともに健康にプラス。ただしメディア観戦には注意点も

分析の結果、現地でのスポーツ観戦頻度が高い人ほど、1年後に心理的高ストレス状態や脂質異常症になるリスクが低く、生活習慣の改善に対して無関心になるリスクが低いことが明らかになった(図1)。

図1 現地でのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性

現地でのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性

(出典:明治安田厚生事業団)

また、メディアでのスポーツ観戦頻度が高い人ほど、1年後に身体活動不足や朝食欠食になるリスクが低く、幸福感が高いことがわかった。その一方で、高血圧や糖尿病、高BMIとなるリスクは高い可能性が示された(図2)。

図2 メディアでのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性

メディアでのスポーツ観戦頻度と健康状態、生活習慣との関連性

(出典:明治安田厚生事業団)

このほかに、勤労者では、現地やメディアでスポーツ観戦をしている人はしていない人と比較して、1年後のワーク・エンゲイジメントが高いことがわかった。

著者のコメント

「本研究では、世界で初めてスポーツ観戦の頻度と20項目もの健康状態や生活習慣との縦断的な関連を検討した。その結果、現地観戦でもメディアでの観戦でも、スポーツを観ることで良好なメンタルヘルスや生活習慣が得られる可能性が示された。一方で、メディアでの観戦には肥満や生活習慣病のリスクが潜んでいる可能性も示唆された。

今回の結果から、スポーツを観て心が動かされたり、爽快感を味わったりすることが、メンタルヘルスに好影響を与える可能性が見出された。さらに、スポーツ観戦が『自分も身体を動かそう』などという動機付けにつながり、健康への意識が高まった結果、生活習慣が整った可能性も推察される。一方、メディアでのスポーツ観戦頻度が高い人の健康リスクが見出された点については、座ったままで飲食をしながらのスポーツ観戦、いわゆる“カウチポテト”の影響もあるかもしれない。今後はどのようなスポーツ観戦が、なぜ心身の健康に影響を与えるのかについて、より多角的に研究を継続していく予定」。

プレスリリース

スポーツを観るとこころが元気に!現地観戦はもちろんメディア観戦でも ―世界初!スポーツ観戦の長期的な健康効果を解明―(明治安田厚生事業団)

文献情報

原題のタイトルは、「Association of watching sports games with subsequent health and well-being among adults in Japan: an outcome-wide longitudinal approach」。〔Prev Med. 2024 Oct 20:189:108154〕
原文はこちら(Elsevier)

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