スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

米国スポーツ医学会2024ハイライト「10の質問/10人のエキスパート」セッションのエッセンス

本年5月に米国・ボストンで開催された、米国スポーツ医学会2024年年次総会のハイライトセッション、栄養や運動の専門団体である「Professionals in Nutrition for Exercise and Sport;PINES」主催の「10Questions/10Experts(10の質問/10人のエキスパート)」のレポートが、国際スポーツ栄養学会のジャーナル「International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism」に掲載された。同年7月のパリ五輪開催を控え、スポーツ栄養学における10項目の「myths(神話)」に対して、指定された演者が3分以内に、承認(confirmed)、否認(busted)、保留(equivocal)のいずれかを明確にするというセッション。一部を紹介する。

米国スポーツ医学会2024ハイライト「10の質問/10人のエキスパート」セッションのエッセンス

オリンピックのロードサイクリングで、1時間あたり100gの炭水化物摂取は推奨されるか?

炭水化物補給が持久力パフォーマンスにプラスの影響を与えることは古くから知られていて、30~90g/時でパフォーマンスが向上し、さらに筋肉は1時間あたり120~140gの炭水化物を吸収できる可能性が報告されている。であれば、1時間あたり100gを超える炭水化物も有益の可能性があるが、アスリートによっては消化器症状発現のリスクが生じ、メリットが相殺される。

エキスパートの回答

回答は承認、否認、保留ともなり得る。承認は、レースに参加している他の競技者が水のみを摂取している場合であり、保留は他の競技者が炭水化物摂取量を最大限とはしていない場合で、否認はレース中に重大な消化器障害が引き起こされた場合。

今後、消化吸収のすぐれたブドウ糖・果糖混合物や、胃腸不耐性を最小限に抑えるハイドロゲル技術、炭水化物摂取の負荷への耐性を強化し得るトレーニング法の確立などにより、この質問の回答は変化する。

遺伝子検査はフットボールにおけるカフェイン摂取戦略の個別化に役立つか?

カフェインは、スポーツサプリメントとして人気があり、パフォーマンスを高めるために使われている。一部のアスリートは他のアスリートよりも、カフェインの影響に敏感なことが示唆されている。カフェイン摂取によるパフォーマンス向上のメリットを、すべての人が得られるわけではないことも示唆されており、その違いに摂取したカフェインの代謝にかかわる遺伝子型の違いが関与していると考えられていて、アスリートの約45%はカフェインを速く代謝し、45%は中程度のスピードで代謝して、10%は緩徐に代謝する。この差がパフォーマンス向上効果にどのように影響するかについては議論が定まっていない。

エキスパートの回答

このmyths(神話)は否認される。現在の科学的エビデンスは、遺伝子型がカフェインのパフォーマンス向上効果に大きく影響することを裏付けていない。カフェインのパフォーマンス上の利点は特定の遺伝子とは無関係であるように見えるため、アスリートは「カフェインの遺伝子型判定」にコストを費やす必要はない。

尿比重はバスケットボールのパフォーマンス低下を予測できるか?

バスケットボール選手の半数以上が低水分状態で試合を開始しており、尿検査を行って水分補給を評価しなければ、パフォーマンスが低下するのではないかとの指摘がある。実際、複数の研究で、選手の52~80%が低水分状態(尿比重が1.020を超過)であると報告されている。ただし、このカットオフ値に基づく水分摂取戦略が最適なアプローチかどうかは不明。

エキスパートの回答

この神話は当たっているとは言えず、部分的に否定される。アスリートが一般的に推奨されるカットオフ値を超える尿比重だからといって、それが必ずしも水分不足を示しているとは限らない。

運動前の低水分状態がパフォーマンスに悪影響を及ぼす割合は、文献で報告されているよりも低いと考えられる。その理由の一つは、アスリートは体格が大きく筋肉質であり体内のクレアチン貯蔵量が多いため、より多くのクレアチニンを生成し、尿比重は通常よりも高いことが多い。さらに、黒人やアフリカ系アメリカ人は、水分摂取量に関係なく、白人よりも尿比重が高い。ただし、水分補給をしっかり行えばパフォーマンスが向上するアスリートも、確かに存在すると考えられる。

格闘技アスリートは、GLP-1受容体作動薬を使用して体重を下げるべきか?

グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(glucagon-like peptide-1 receptor agonist;GLP-1RA)は、血糖降下薬として登場後に減量薬として追加承認され、安定供給に支障が生じるほど需要が高まっている。GLP-1受容体作動薬によって、比較的容易に減量が可能となる。体重別階級のある競技に参加している格闘技アスリートは、減量のために長年苦心してきている。なぜ、GLP-1RAを使わないのだろうか?

エキスパートの回答

回答は保留される。この神話はもっともらしくはあるが、さらなる研究が必要である。

GLP-1RAを含む減量薬は、アスリート集団でのスポーツ栄養学的な研究がまだ行われていない。体重減少に伴い骨格筋が失われる可能性があり、また骨へも有害な影響を与える可能性があるのではないかとの疑問も生じる。エビデンスはないが、GLP-1RAベースの抗肥満治療によってサルコペニアや身体的フレイルが惹起される可能性もある。アスリート集団におけるオゼンピックをはじめとした減量薬使用による筋肉減少と機能的転帰に関する研究の、早急な実施が求められる。

上記のほかに、「重炭酸塩をハイドロゲル製品として摂取するとマラソンにメリットがあるか?」、「水分不足の選手は、1,500mトラック競技のパフォーマンスを向上させるために、もっと水分を摂るべきか?」、「プラセボ効果は10kmトラックのパフォーマンスに影響を与えるか?」、「テニスの審判は砕いた氷を摂取することで、暑い中でもより良い判断を下せるようになる?」、「バレーボールにおける腱や靭帯の損傷を軽減するために、コラーゲンサプリメントは役立つか?」、「女性アスリートは月経周期にあわせてトレーニングや食事を計画すべきか?」という問いかけとエキスパートの回答がまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Summary of the 2024 Professionals in Nutrition for Exercise and Sport “10 Questions/10 Experts” Session—Hot Topics for the Paris Olympic Games」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2024 Nov 13:1-8〕
原文はこちら(Human Kinetics)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024後期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ