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高血圧患者に対する強力な減塩指導の有効性を検証 タイで行われたクラスター無作為化比較試験

高血圧患者の塩分摂取量を減らすため、塩分計による食事中の塩分濃度の自己モニタリングを含む、強力な食事指導介入によって、ナトリウム摂取量が減り収縮期血圧に有意差が生じたとする研究データが、タイから報告された。

高血圧患者に対する強力な減塩指導の有効性を検証 タイで行われたクラスター無作為化比較試験

食環境の変更を伴う介入による減塩効果の新たなエビデンス

食塩摂取が血圧を押し上げるように働き、高血圧の発症や管理不良、それを介した脳心血管疾患リスクの上昇につながることは、既に世界的に広く知られている。しかし、日本を含む東アジアの国々では伝統的に食塩摂取量が多く、古くからさまざまな対策がなされているが、依然として国民の食塩摂取量が高止まりしている。

本研究が実施されたタイも、国民のナトリウム摂取量の平均が3,636mg/日(食塩換算約9.3g)と世界保健機関の推奨(2,000mg/日未満)を大きく超過している。近年、人々の食塩摂取量を今以上に減らすには、単なる減塩教育では限界があり、食環境の変更を伴う複合的な介入が必要と考えられるようになってきている。これらを背景として、タイの高血圧患者を対象とするクラスターランダム化比較試験が実施された。

食品供給業者や塩分摂取量のモニタリングを含む複合介入の効果を実証

この研究は、タイ国内の異なるコミュニティーで医療を提供している6医療機関、12のクラスター(村)が参加して実施された。研究参加者は高血圧(130/80mmHg以上)に該当する18~70歳の地域住民で、末期腎不全、妊娠中・授乳中、過去2週間以内に降圧薬・利尿薬の処方が開始された患者は除外されている。12のクラスターを無作為に2群に分け、1群は一般的な健康教育のみを行う群(対照群)、他の1群は集中的な介入を行う群(強化介入群)とした。介入期間は12週間だった。

集中的な介入は、徹底した食事教育、食事の見直し、食環境の変化、塩分摂取量のセルフモニタリングという4項目で構成されていた。それぞれについて詳述すると、食事教育は看護師と栄養士による教育が、ベースラインに2時間、介入4週目と8週目に1時間実施。食事の見直しは家庭での食事を低塩レシピに変更するための指導。食環境の変化は、当該地域に食品を供給している業者への教育と奨励。塩分摂取量のモニタリングは、塩分計を支給し、少なくとも週に3回は食品中の塩分量を測定し記録することとした。

ベースラインでは2群間の食塩摂取量、血圧に有意差なし

研究参加者は240人で、このうち219人(強化介入群111人、対照群108人)が追跡調査を受けた。介入前のベースラインにおいて、年齢(ともに平均約60.0歳)、性別の分布に有意差はなく、24時間尿中ナトリウム排泄量は、強化介入群が中央値3,565mg/日、対照群は3,312mg/日で有意差がなく、また血圧の平均値は同順に143.6/82.1mmHg、142.2/81.4mmHgであり、有意差がなかった。なお、強化介入群では初等教育終了者が少なかったものの、学士号取得者は多かった。また、強化介入群では体重、BMI、ウエスト周囲径が高いという有意差が認められた。

12週間の介入で強化介入群ではナトリウム排泄量が有意に減少し、SBPが有意に低下

主要評価項目として設定されていた、12週間の介入前後での24時間尿中ナトリウム排泄量の群間差は-276mg/日であり、これは統計的に有意ではなかった(p=0.194)。しかし、介入前後での変化を個別にみた場合、強化介入群は3,565mg/日から3,128mg/日へと有意に減少していたのに対して(p=0.004)、対照群は3,312mg/日から3,036mg/日へ非有意な変化にとどまっていた(p=0.267)。

血圧については、介入群で収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP)が13.5±14.2mmHg低下したのに対し、対照群では9.5±12.8mmHgの低下であり、群間差は-4.0mmHgであって、これは統計的に有意だった(p=0.030)。また、この群間差はベースライン時の変数(年齢、性別、BMI、ウエスト周囲長、教育歴)を調整した後でも引き続き有意だった(p=0.021)。拡張期血圧(diastolic blood pressure;DBP)は、変動幅の群間差が1.62mmHgであり、非有意だった(p=0.164)。

なお、BMIは介入前後で強化介入群が0.03、対照群は0.23低下していたが、群間差は非有意だった(p=0.09)。このことから、SBPで認められた変動幅の群間差は、体重減少に起因するものではないと考えられた。

強化介入群では行動に関するスコアが有意に改善

以上のほかに本研究では、食塩摂取に関する知識、態度、行動の変化が評価されていた。その結果は、知識(p=0.204)や態度(p=0.460)のスコアには有意差はみられなかったが、行動に関するスコアは介入群でより大きく改善しており、群間に有意差が認められた(p=0.035)。

論文の結論は、「徹底的な食生活教育、食品の見直し、地域社会の環境変化、塩分計の利用を組み合わせた介入により、一般的な食事指導のみに比べて、収縮期血圧が有意に低下し、尿中ナトリウム排泄量が減少する傾向がみられた。これらの結果は、高血圧患者の食塩摂取量を減らすための包括的なアプローチを実施することが、地域社会における塩分摂取量の抑制と血圧管理に有効である可能性があることを示唆している」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Community-based intervention for monitoring of salt intake in hypertensive patients: A cluster randomized controlled trial」。〔PLoS One. 2024 Nov 22;19(11):e0311908〕
原文はこちら(PLOS)

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