日本人は培養肉の受け入れに消極的? 国際調査で明らかになった培養肉に対するイメージの違い 弘前大学
動物の個体からではなく、細胞を体外で組織培養することによって得られる培養肉について、一般市民がどのように捉えているかを国際間で比較した調査結果が報告された。弘前大学と東京大学の研究グループの調査結果であり、「第6回細胞農業会議(8月29日・東京)」ならびに「日本社会心理学会第65回大会(8月31日・東京)」で発表されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが発表された。
研究の概要
弘前大学と東京大学の研究グループは、「培養肉に関する意識の国際比較調査」を実施した。対象は、日本、シンガポール、オーストラリア、デンマーク、イタリアという各国の20~59歳の一般男女、計4,416人。シンガポールとイタリアでは、培養肉が環境問題に役立つ可能性に賛同している人が多いなど地域による違いがみられるとともに、条件が整った場合には、日本を含め各国で5割以上の人が培養肉を食べてみたいと答えた。
調査実施の背景、目的
世界的な人口増加やライフスタイルの変化により、将来、地球規模での食肉消費量の増加が見込まれている。一方で、家畜の生産には大きな環境負荷がかかることや、飼料や土地の不足が大きな問題となっている。アスリートは動物性タンパク質の摂取量が多いことから、この問題は他人事ではない。
動物の個体からではなく、細胞を体外で組織培養することによって得られる培養肉は、家畜を肥育するのと比べて地球環境への負荷が低いことや、畜産のように広い土地を必要とせず、厳密な衛生管理が可能といった利点があるため、従来の食肉に替わるものとして期待されている。
培養肉は、今までにない手法で作製された革新的な食品であることから、社会に受け入れられるかどうかは未知数だが、世界的に注目は高まりつつある。研究グループは、これまで日本で培養肉に関する大規模意識調査を実施してきた。このたび、諸外国と比べたときの日本の人々の意識の特徴はどのようなものかを明らかにするため、「培養肉に関する意識の国際比較調査」を実施した。
調査方法
調査にはインターネットが用いられ、有効回答人数は日本が2,000人で、そのほかの国は約600人。20~50代を各年齢層かつ男女で人数が等しくなるように割り付けた。調査期間は、日本では2023年12月4~6日、そのほかの国では2024年2月1日~3月4日だった。
調査結果
「培養肉は世界の食料危機を解決する可能性がある」という意見には、日本では46%の回答者が賛成を示しており、培養肉を積極的に推進しているシンガポールと同程度の割合が示され、培養肉が社会課題の解決策として一定の理解を得られていることが推測された(図1)。一方、「培養肉を試しに食べてみたい」と考える回答者は日本では3割強であるのに対して、シンガポールで6割、「反培養肉法案」を採用したイタリアでも5割強となっており、海外での受容性と日本の受容性との間にやや開きがあることがわかった(図2)。
図1 培養肉は世界の食料危機を解決する可能性がある
図2 あなたは培養肉を試しに食べてみたいと思いますか?
世界的に培養肉が期待されている背景には、環境問題への貢献につながる可能性を有していることがある。シンガポールやイタリアでは、培養肉が地球温暖化問題の軽減につながる可能性に賛同する回答割合が、比較的高いことが明らかになった(シンガポール54%、イタリア61%)。それに対して日本の賛同割合は32%と、比較的低いことが明らかになった(図3)。
図3 培養肉は畜産がともなう地球温暖化の影響を軽減する
培養肉が不安視されている背景の一つに、食文化への影響がある。イタリアでは、自国の食文化に誇りを持つ人の割合が高いことが示された(図4)。ただし、ほかの国と比べてイタリアでは培養肉の受容性も比較的高く、食文化への関心が培養肉の導入と結びつく可能性も示唆された。また、不安視されているほかの理由には、安全性の問題も挙げられるが、「安全性が確保された場合に食べてみたい」と答える回答者は、日本で5割まで上がることが明らかになった(図5)。
図4 自国の食文化に対してどの程度誇りを持っているか
図4 安全性が保証され、牛肉と変わらない美味しさを有する培養肉ができたら食べてみたいと思いますか?
培養肉に対する注目が高まるなか、国際的な動向について確認することが重要。日本でも認知度を上げ安全性を確認しつつ、食料問題への貢献や食文化とのつながりを議論することで、一般の人々の培養肉の受容性が向上する可能性が示唆された。
プレスリリース
「培養肉」に関する意識の国際調査を実施~「培養肉」への関心に各国の意識の差~(弘前大学)