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持続可能なスポーツ栄養のための代替ソース 今後はタンパク質を何から摂れば良いのか?

サステナビリティ、持続可能性という視点からスポーツ栄養の今後を考察した、スペインの研究者による総説が昨年発表されている。アスリートは何からタンパク質を摂れば良いのか、または近い将来、何からタンパク質を摂るようになるのだろうか――といった今日的なテーマを考える際に参考となりそうだ。

持続可能なスポーツ栄養のための代替ソース 今後はタンパク質を何から摂れば良いのか

サステナビリティは一見、スポーツと無縁のように思えるが、そうとは言い切れない。例えばアスリートは一般の人よりも通常、食事の摂取量が多い。それだけでも食糧生産に伴う環境への負荷の増大に一部、寄与しているともいえる。また、アスリートはタンパク質を多く摂取する。植物性タンパク質であれば、そのことによる環境負荷の増大はあまりないかもしれないが、アミノ酸スコアなどの点で動物性タンパク質が好まれる傾向がある。動物性タンパク源である家畜の飼育には大量の飼料が必要であり、負荷が大きくなる。

今回取り上げる論文は、タンパク質の供給源やアミノ酸の機能性などについて、スポーツ栄養という面で広範な考察を加えている。ここでは、タンパク源について述べられている箇所のみから、要旨を抜粋して紹介する。

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タンパク質を何から摂る?

栄養とスポーツは、健康的なライフスタイルを実現する上で重要な役割を果たす。とくにタンパク質の摂取は、健康に関連する多くの側面にとって重要であり、現在のエビデンスは一部のアスリートがこの栄養素の摂取量を増やす必要があることを示唆している。一方、より環境に優しい行動への社会の要求が高まっている。

一般に成人のタンパク質摂取量が0.8~1.0g/kg/日であるのに対してアスリートは1.2~2.0g/kg/日と、より多くを必要とし、とくに筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)を刺激する分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids;BCAAs)である、ロイシン、バリン、イソロイシンの摂取量が重視される。過去数十年間、スポーツ栄養で最も一般的に使用されている食品タンパク源は、牛乳、卵、肉という動物性食品であった。それらはすべて、アミノ酸プロファイルに優れた「高品質のタンパク質」食品と見なされている。

しかし、世界人口の増加と自然開発によって、食糧資源は切迫した状況となりつつある。アスリートのためのスポーツ栄養戦略を含む、世界の人々のタンパク質要件を満たすため、代替タンパク質源の必要性を検討すべき時期にきている。

昆虫タンパク質

節足動物である昆虫は、外骨格と関節を持つ小動物であり、100万種以上の種が含まれていて、既知の生物の半数以上を占めている。昆虫を食する習慣は多くの地域に存在し、古くから摂取されてきており、現在では人類の代替タンパク源として興味深い対象となっている。例えば2018年に発効した欧州の食品規則(European Regulation 2015/2283)では、商業レベルでの昆虫の販売が許可された。

昆虫は二酸化炭素と水の排出量が非常に少ないため、最も環境に優しい動物性タンパク源の一つと見なされている。昆虫は高レベルのビタミンとミネラルを提供するだけでなく、生産効率も従来の食物源と比較して優れている。そして、卵、乳、肉などの従来の動物性タンパク源に匹敵する高いタンパク質含有量である。さらに、それらは良好なアミノ酸プロファイルを持ち、不可欠アミノ酸(essential amino acids;EAA)とBCAAが豊富であり、加えて筋タンパク質合成(MPS)の刺激因子として最も重要なBCAAの一つであるロイシンは大豆より高く、脱脂粉乳やカゼインに匹敵する。

そのほかにも、昆虫のタンパク質は吸収が良いという特徴をもつ。ただし、このパラメーターは、昆虫の種類と処理方法によって異なる。これは、外骨格の主成分であるキチンの存在の影響が大きい。よって食品として供給される製品は、キチンレベルを可能な限り低下させる必要がある。

昆虫タンパク質の摂取とスポーツに関連する研究は多くないながらも、いくつかは有望な結果を示している。例えば、無作為化比較対照試験で、昆虫タンパク質分離物が大豆タンパク質分離物と同様に血中EAAおよびBCAA濃度を上昇させ、MPSの代替供給源として使用できることが報告されている。また最近では、二重盲検無作為化比較対照試験によって、ミルワームタンパク質が乳タンパク質などの生物学的価値の高い古典的なタンパク質と同様のエルゴジェニック効果を発揮できることが示されている。

植物性タンパク質

スポーツパフォーマンスにおける動物性タンパク質の優位性の報告は少なくない。しかし、持続可能性、動物福祉、および倫理的な懸念により、動物性タンパク質の代替品の需要が高まりつつある。

植物性タンパク質の非劣勢を示すエビデンスとして、適切に管理された完全菜食主義者の食事は、パフォーマンスをサポートするのに十分なエネルギーと適切な範囲の炭水化物、脂質、およびタンパク質の摂取を提供することができるとの報告もみられる。実際、一部の植物性食品のタンパク質は、すべての不可欠アミノ酸(EAA)を供給し、筋維持のために動物性食品のタンパク質と同等の効果を持つようだ。

近年、植物性タンパク質をスポーツサプリメントとして使用したヒトでの研究から、有望な結果が得られている。それらサプリによって、筋力上昇、MPS向上、体脂肪量減少などの点で、動物性タンパク質から生成されたものと同等の作用が観察されたという。とはいえ、大豆を除く大半の植物性食品由来タンパク質は、ホエイプロテインより同化反応の点で劣っている。植物性食品のタンパク質はまた生物学的利用能が低く、EAAやBCAAの含有量が少ない。

しかし、食品への加工処理方法や調理法によって吸収率を高めることができる。例えば豆乳や豆腐の吸収効率は、他の加工手段よりも高くなることが報告されている。また、近年では抗栄養因子を排除する技術を用いたスポーツサプリメントが登場しており、極めて効果的であることが観察されている。さらに、スポーツサプリメントとしての植物性タンパク源の使用することは、酸化ストレスの軽減につながり、エルゴジェニックであって、かつ持続可能性という付加価値のある製品になる可能性を秘めている。

マイコプロテイン

マイコプロテインは、菌種を活用したタンパク質であり、持続可能性の高い食糧源。栄養価に関しては肉とほぼ同等であり、必須アミノ酸が豊富で吸収率が高いという特徴もある。

過去10年の間にマイコプロテインは、環境に優しく安価な供給源としてクローズアップされている。マイコプロテインは農業の副産物で合成可能であり、二酸化炭素排出量は肉製品の少なくとも10分の1にすぎない。さらに、マイコプロテインは潜在的なアレルギー誘発性は否定的であり、心血管代謝などの健康に関連するメリットも認められる。

すでに、スポーツ栄養におけるマイコプロテインのエルゴジェニック効果の可能性も報告されている。それらの中には、筋肉の顕著な同化作用を持つ有用なタンパク源になる可能性を示したものも含まれている。最近では、無作為化比較対照試験により、70gの自然食品であるマイコプロテインが、ロイシン強化乳プロテインよりも高いタンパク質合成を促したと報告された。

現時点でマイコプロテインは、牛乳などの従来の供給源と同等のMPSに対する刺激作用があり、スポーツ栄養にとって非常に興味深いタンパク源であると考えられる。極めて持続可能性の高い食品であり、また廃棄すべき部分がなく食品全体が消費されることも、環境に優しいタンパク源と言える。

代替タンパク質の需要拡大は、今後20年間続く

これらのほか、「タンパク質加水分解物とペプチド」、「関節痛に対するタンパク質加水分解物」、「抗疲労加水分解物・ペプチド」などのトピックに関してレビューが述べられている。

結論としては、「近年、代替タンパク質の需要が大幅に増加しており、今後20年間はこの傾向が続くと推定されている。これに関連して、スポーツ栄養は興味深いターゲット市場として位置づけられる。タンパク質の品質とエルゴジェニック効果、および、環境負荷の抑制につながるそれらの新製品は、アスリートに受け入れられていくだろう。代替タンパク質には大きな可能性があるが、これまでのエビデンスの多くはin vitroのものであり、今後は動物モデルおよびヒト対象研究での有効性と安全性の検証が求められる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Protein and Sport: Alternative Sources and Strategies for Bioactive and Sustainable Sports Nutrition」。〔Front Nutr. 2022 Jun 17;9:926043〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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