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オンラインセミナーリポート 
アスリートは環境に優しくないってホント!? 
第1回 スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!<基礎編>

オンラインセミナーリポート アスリートは環境に優しくないってホント!?  スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!<基礎編>

株式会社ユーグレナ主催、一般社団法人日本スポーツ栄養協会後援による、スポーツ栄養とSDGsをテーマにしたWebセミナー「スポーツ栄養学から見たサステナビリティを学ぼう!<基礎編>」が6月24日開催されました。

講師は、日本大学文理学部体育学科教授で公認スポーツ栄養士の松本 恵 氏。松本氏は日本大学文理学部体育学科教授としてスポーツ栄養学を学生に指導するほか、日本スポーツ栄養学会理事、日本陸上競技連盟医事委員、日本サーフィン連盟理事、日本ライフセービング協会医事委員などを務め、また公認スポーツ栄養士としてトップアスリートをサポートしてきました。

昨今、テレビやネットで「サステナビリティ」あるいは「SDGs」といった言葉を頻繁に見聞きするようになりました。しかしそれがスポーツやアスリートと、どのような関係があるのでしょうか。主催者のユーグレナは、ミドリムシを使ったバイオ燃料で注目される、SDGs推進の最先端を走る企業であり、現在は「SPURT」というスポーツサプリメントも販売。やはり、スポーツとサステナビリティは、なにかしら関連があるのかも?早速、松本氏の講演を覗いてみましょう!

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サステナビリティとは

「サステナビリティ」は1980年代に現れた概念で、日本語に訳すと「持続可能性」。端的に言えば、経済優先の社会では今後、人々の健康的な生活が持続し得ないことから、環境と社会と経済の調和のとれた世界を目指そうということです。国連では2015年に、サステナビリティ実現のためのアジェンダを採択し、2030年までに達成すべき17の目標を掲げています。

さて、本セミナーでは、このサステナビリティがどのようにアスリートに関連するのかについてお話していきたいと思います。

図1 サステナビリティとは
図1 サステナビリティとは
(松本 恵)

まず、日本全体の問題として食糧自給率に着目すると、食糧自給率は4割を切っており、先進国で最低水準です。米のみはほぼ100%ですが、その他の大半の食材は輸入頼り。畜産物は64%と比較的高いように見えますが、その畜産を生育させるための飼料(穀物)は、4分の3が輸入であり、やはり輸入依存と言えます。

食糧自給率が低いということは、大量の食糧や畜産飼料を海外から船舶等で運搬しているということであり、日本人一人一人が多くの化石燃料を消費していることを意味します。近年は環境負荷のないバイオ燃料も使われ始めているものの、まだ大半は化石燃料、石油が使われています。このような食糧の運搬に伴う環境負荷を、近年では「フードマイレージ」と呼び、これを削減する努力を求める声が高まりつつあるのです。

図2 フードマイレージとは
図2 フードマイレージとは
(松本 恵)

東京2020オリンピック・パラリンピックとフードマイレージ

このフードマイレージは、東京2020オリンピック・パラリンピックにも密接に関係しています。実は、すでに10年前のロンドンオリンピック・パラリンピックから、選手村などで提供される食品のサステナビリティが考慮されるようになりました。2016年のリオ大会の食材調達計画では明確なキーワードとして「サステナビリティ」が位置づけられ、東京2020オリンピック・パラリンピックでも、2017年4月という早い段階で、「持続可能性に配慮した食材調達コード」が策定されました。

コロナの影響で規模は縮小すると考えられますが、当初の計画では東京2020オリンピック・パラリンピック会期中に100万食分の食材が必要と試算されていました。サステナビリティ達成には、これを輸入ではなく国内で調達しなければならず、生産者から流通、飲食提供体制に至るまで、多方面で綿密な計画が練られました。私自身も選手村レストランメニュー検討委員会の委員として、この数年間、多くの活動をボランティア的に行ってきました。

アスリートのフードマイレージを考える

さて、ここまでは国や組織としてのサステナビリティについてお話しました。ここからはもう少し、一人一人のアスリートに身近な問題へと話を進めます。

本セミナーのサブタイトルを「アスリートは環境に優しくないってホント!?」としましたが、実際にアスリートは一般の生活者よりも環境負荷の高い生活を送っている可能性が考えられます。例えば遠征の移動回数に応じて化石燃料を消費します。また、日々のトレーニングによるエネルギー消費を補い、筋量の増加や維持のために、摂取エネルギー量が多く、とくにたんぱく質を多く摂っています。

図3 アスリートのフードマイレージと二酸化炭素排出量
図3 アスリートのフードマイレージと二酸化炭素排出量
(松本 恵)

表1は、アスリートと一般成人のたんぱく質摂取量を比較したものです。高強度トレーニングを行っているアスリートは、一般生活者の2~3倍のたんぱく質を摂取していることがわかります。筋量を増やすために、動物性たんぱく質を積極的に摂取しているアスリートが多いと思いますが、表2を見てください。肉類の多くが植物性食品の4倍程度、温室効果ガスを排出しています。こういった見方をすると、たんぱく質を多く摂取する必要がある場合も、すべて動物性食品から得るのではなく、一部を大豆などの植物性たんぱく質に置き換えることも、環境負荷の抑制につながる行動になると考えられるわけです。

表1 アスリートと運動を習慣的に行わない人の1日あたりのたんぱく質の推奨摂取量(RDA)の違い
単位非アスリート標準的な
アスリート
高身体活動量の
アスリート
60kg 女性たんぱく質(g/day)4890150
調理済み肉
(総たんぱく質量(g/日)の
50%として計算)
92172288
80kg 男性たんぱく質(g/day)64120200
調理済み肉
(総たんぱく質量(g/日)の
50%として計算)
123230387
(Meyer N et. al. 2017から引用・改変)
表2 食物の温室効果ガス(GhGs)の排出量
低GhGs【1kg CO2 eq/kg 可食部あたり】
ジャガイモ、パスタ、パン、大麦・その他の穀物、野菜(例:タマネギ、エンドウ豆、ニンジン、トウモロコシ、青菜類)、果物(例:リンゴ、梨、柑橘類、プラム、ブドウ)、豆類/レンズ豆、砂糖菓子、香辛料
中GhGs【1-4kg CO2 eq/kg 可食部あたり】
鶏肉、牛乳、バター、ヨーグルト、卵、米、シリアル、マーガリン、種実類、ビスケット、ケーキ、デザート、果物(例:ベリー類、バナナ、メロン、サラダ)、野菜(例:マッシュルーム、グリーンピース、カリフラワー、ブロッコリー、カボチャ)
高GhGs【4kg CO2 eq/kg 可食部あたり】
牛肉、羊肉、豚肉、七面鳥、魚、チーズ
;約20-50kg CO2 eq/kg 可食部あたり。輸送トラックの平均CO2排出量は0.186kg CO2 eq/kg
(Macdiarmid JI et. al. 2017から引用・改変)

アスリートのたんぱく質摂取量は適正か?

次に、アスリートのたんぱく質摂取量は適正か? 過剰摂取しているアスリートが少なくないのではないか? という話をしてみたいと思います。

たんぱく質を多く摂取しようとするアスリートの動機は筋量増加・維持ですが、トレーニング負荷をかけずにたんぱく質を摂取しても、必要量以外は排泄されるだけで、筋量は増えません。そもそも現在の日本で一般的な食生活を送ることができていれば、たんぱく質が不足することはありません。副菜だけでなく、主食の米にも10%程度のたんぱく質が含まれていますので、ふつうの人は、たんぱく質摂取のためにサプリメントを利用する必要はないのです。

また、主食(炭水化物)を減らしてたんぱく質を増やすという食べ方をする人も増えているようですが、当然ながら体内で両者の代謝は異なります。たんぱく質を構成しているアミノ酸は窒素化合物であり、代謝過程でアンモニアとなり肝臓で尿素に変えられ、腎臓を経て尿中に排泄されます。不必要に摂取量が多ければ、尿素という“毒素”排泄に関わる肝臓や腎臓への負担が高まるということです。

サプリメントを利用する前に、まずは食事の工夫を考えましょう。そして前述のように、たんぱく質の大量摂取は、サステナビリティという面でも対策が必要とされています。アスリートの栄養指導に当たられている方は、こういった情報も適宜アスリートに伝えていっていただきたいと思います。

図4 アスリートのたんぱく質必要量は適正か?
図4 アスリートのたんぱく質必要量は適正か?
(松本 恵)

スポーツ栄養学から考えるサステナビリティ

海外ではすでに、このような考え方に基づいてアスリートの食事をサステナブルなものに変えていく取り組みが始まっています。例えば米国のコロラド大学は、アスリートのためのサステナビリティ教育農場を運営していて、地域の農家とアスリートが共同でこの課題と向き合っています。

アスリートが一般生活者に比べて食生活を通じたサステナビリティへの貢献は困難であるとする一方で、アスリートは、健康増進の理想形、社会的規範として世間から多くの注目を集める存在です。アスリートがサステナビリティに取り組むことで、その理念を社会へ拡散可能であり、影響力は小さなものではありません。

また、サステナビリティに配慮することは、アスリート個人の長期的視野での健康維持、あるいはドーピングリスクの抑制といったメリットにもつながります。

私たちは東京2020オリンピック・パラリンピックの食環境整備にあたり、常にサステナビリティの考え方を基盤としてきました。今後、この流れはよりいっそう定着していくと予測されます。この機会に、スポーツに関わる人にもサステナビリティに関心をもっていただき、できる範囲で生活に反映していけたらと考えます。

図5 スポーツ栄養学から考えるサステナビリティ
図5 スポーツ栄養学から考えるサステナビリティ
(松本 恵)
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