ベジタリアン、ビーガン、低炭水化物食の微量栄養素の充足率はサプリでどのくらい高まるか
ベジタリアン食や低炭水化物食を実践している人の微量栄養素の摂取が、サプリメントを摂ることでどの程度、補うことができているのかという実態を調査した研究結果が報告された。サプリ摂取にもかかわらず、なお充足率が低い栄養素や、許容上限摂取量を超過している栄養素も認められたという。スロベニアからの報告。著者らは、適切な栄養教育の必要性を指摘している。
特別な食事スタイルの人の微量栄養素の過不足の実態を調査
ベジタリアン食やビーガン食、または低炭水化物食への関心が高まり、それらの食事スタイルを実践する人が世界的に増加している。これらの食事スタイルでは、摂取を避ける食品群に含まれている栄養素が不足するリスクがあり、貧血や骨代謝低下などのリスク回避のためにサプリメントを用いている人も少なくない。ただ、サプリ摂取によって微量栄養素の不足を適切に補えているか、過剰になっていいないか、またはサプリ摂取にもかかわらずなお不足しているのか、といった実態は、これまでほとんど研究されていない。
ベジタリアン、ビーガン、低炭水化物食、および雑食(普通食)で比較
この研究は、スロベニア在住で栄養への関心が高い成人130人(37±10歳、女性97人)を対象とする横断研究として実施された。研究参加の条件は、やせ/肥満でなく(BMIが18.5~30〈海外における普通~過体重〉)、年齢が20~60歳で、慢性疾患に罹患しておらず、過去6カ月以上にわたり一定の食事スタイルを維持していること。除外基準は、過去3カ月で3kg以上の体重変化、何らかの薬剤(避妊薬を除く)の服用、妊娠中または授乳中。
ビーガン群の84%、全体では63%がサプリを利用
130人のうちベジタリアン群が37人、ビーガン群32人、低炭水化物高脂肪食(low-carbohydrate high-fat diet;LCHF)群24人、雑食(普通食)群37人。この4群間で、BMIや女性の割合に有意差はなかった。
エネルギー量や主要栄養素摂取量の比較
摂取エネルギー量は全体平均が2,060±630kcalで、4群間に有意差がなかったが、主要栄養素の摂取量には有意差が存在した。
炭水化物は全体平均が230±130g/日、最多がビーガン群の310±120g/日、最少はLCHF群の51±35g/日。タンパク質は全体平均が80±37g/日、最多がLCHF群の108±35g/日であり、ビーガン群とベジタリアン群で少なかった(いずれも平均は65g/日)。脂質は全体平均が88±42g/日、最多がLCHF群の151±16g/日、最少はビーガン群の64±27g/日。食物繊維は全体平均が32±28g/日、最多がビーガン群の50±43g/日、最少はLCHF群の18±21g/日。
サプリの利用状況
サプリ利用率は全体で63%とほぼ3人に2人だった。これを食事スタイル別にみると、ビーガン群が最多で84%、次いでLCHF群75%、ベジタリアン群54%、雑食群46%であり、群間に有意差があった。一方、性別、年齢、身体活動量、喫煙習慣、飲酒量、教育歴、収入、果物摂取量、野菜摂取量、主観的健康観、および食事の質(healthy eating index;HEI)との関連は、いずれも有意でなかった。
なお、利用率が最も高いサプリは、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンC、およびマルチビタミン/ミネラルという4種類だった。
食事スタイル別・サプリ利用の有無別にみた微量栄養素充足率
それでは、本研究の主題である、微量栄養素の充足率をみていく。論文中には、26種類、27の測定値(ビタミンDは冬季とそれ以外で解析)が記されているが、その中から絞り込んで紹介する。
サプリを利用していても不足しがちな微量栄養素
ビタミンD:食事のみで充足している人は食事スタイルにかかわらず0%
ビタミンDはサプリの利用/非利用、および食事スタイルにかかわらず、食事のみから摂取推奨量(20μg)を満たしている人は皆無だった。そのため当然ながら、サプリ非利用者では、食事スタイル別の4群のすべてで、充足している人の割合は0%だった。
サプリを利用している人では、充足している人の割合が4群全体で68.2%であり、食事スタイル別にみるとビーガン群(85.7%)で高く、LCHF群(40.0%)で低かった。
ビタミンB12:ビーガン群のサプリ非利用者では充足している人は皆無
動物性食品に豊富に含まれているビタミンB12については、食事のみにより推奨量(4.0μg)を充足している人の割合が、全体で33.8%であり、食事スタイル別ではLCHF群(83.3%)で高く、ビーガン群(6.3%)やベジタリアン群(16.2%)は低かった。
サプリ利用の有無別にみると、ビーガン群ではサプリを利用していない人で充足している割合は皆無(0%)だった。一方、ビーガン群のうちサプリを利用している人は食事のみでも8.0%が充足しており、サプリ利用によってその割合は84.0%となっていた。
カルシウム:ビーガン群ではサプリ利用者でも充足している人が皆無
骨代謝に重要なカルシウムについては、食事のみにより推奨量(700mg)を充足している人の割合が、全体で26.9%であり、食事スタイル別では雑食群(43.2%)で高く、ビーガン群(12.5%)は低かった。
サプリ利用の有無別にみると、ビーガン群ではサプリを利用していない人では12.9%が充足していたが、サプリを利用している人では皆無(0%)であり、サプリ利用を含めても充足している人はいなかった。
サプリ利用により過剰になりがちな微量栄養素
摂取量が許容上限摂取量(tolerable upper intake level;UL)を超えている微量栄養素は、少数ながら認められた。ULを超過していた人が最も多い栄養素はナイアシンで、サプリ非利用者で6.9%、サプリ利用者では15.4%が超過していた。
マルチビタミン/ミネラルの配合の見直しも必要か
論文の結論は以下のようにまとめられている。
サプリメントが適切に選択され利用されたなら、微量栄養素の摂取が適切である割合が高まる可能性があると結論付けることができるのだが、必ずしもそうなるとは限らないようだ。ビタミンB12やビタミンDは食事からの不足を補うためにサプリで補充されていたが、その摂取量は適切ではなかった。ビタミンK、リボフラビン、ビオチン、鉄分などが不必要に補充された一方で、カリウム、カルシウムなどは、不十分な量が充足されていなかった。
食事スタイルにかかわらず、「自分の食事はバランスがとれていて健康に良い」と考えている人の間では、実際には微量栄養素の摂取が不十分なことが一般的である。適切なサプリ摂取選択のための食事カウンセリングとサポートが必要であろう。また、ビタミンB群の用量を減らし、カリウムとビタミンDを増やすなどの変更を加えた、マルチビタミン/ミネラルの検討も望まれる。
文献情報
原題のタイトルは、「Does Dietary Supplement Use Increase Micronutrient Intake Adequacy in Healthy Adults with Habitual Omnivorous, Vegetarian, Vegan, and Low-Carbohydrate High-Fat Diets?」。〔Nutrients. 2024 Jun 11;16(12):1832〕
原文はこちら(MDPI)