公務員対象の横断研究で示された、食品群の摂取量とうつ状態との関連 卵と野菜が重要な可能性
男性は卵の摂取量、女性は卵や野菜の摂取量が少ないことが、うつ状態のリスクの高さに関連があることを示唆する研究結果が報告された。山形県立米沢栄養大学健康栄養学部の北林蒔子氏らが行った、地方公務員対象横断研究の結果であり、「BMC Nutrition」に論文が掲載された。
「栄養素」ではなく「食品群」とうつ病との関連を探る研究
バブル崩壊以降、高止まりしていた自殺者数が近年では低下してはいるものの、自殺防止は依然として公衆衛生上の主要課題の一つとして位置付けられている。労働者の自殺には、うつ病などのメンタルヘルス疾患が関連していることが少なくなく、メンタルヘルスの改善対策として、運動や睡眠と並び、食事が重要と考えられている。
実際、栄養は身体的な健康だけでなく精神的な健康と関連があることが明らかにされている。例えばn-3系多価不飽和脂肪酸や亜鉛、マグネシウム、ビタミンB12、鉄などの不足とうつ病リスクとの関連が報告されている。
また、野菜、果物、キノコ、大豆製品の多量摂取を特徴とする健康的な日本の食事パターン等との関連を検討した研究も見られている。海外では、健康的な食事パターンとして地中海式食事が注目されており、食事のパターンを構成する食品群の摂取と抑うつの関連としては、野菜、果物、肉、魚、乳類の摂取がうつ病や不安症に対して保護的に働く可能性を示唆する報告もみられる。しかし、日本人を対象とした報告では、大学生や高齢者を対象とした検討は多いが、労働者を対象とした研究は少なく、野菜との関連を検討したものが多いが食品群全体を検討したものは見られない。
以上を背景として北林氏らは、日本人労働者を対象に、食品群の摂取量とうつ状態との関連を検討する横断研究を実施した。対象者は全員が地方公務員であり、うつリスクに関連し得る社会経済的要因(収入)の影響は比較的均一な集団と考えられる。
市役所職員全員の84%を解析対象とする横断研究
山形県米沢市市役所の勤務者568人に研究趣旨を説明し、同意した503人(88.6%)が参加。1日の摂取エネルギー量が極端な人(600kcal未満または4,000kcal超)、メンタルヘルス疾患を有している人などを除外し、423人(84.1%)を解析対象とした。
食品群の摂取量は、日本人用に開発された簡易型自記式食事歴法質問票(brief self-administered diet history questionnaire;BDHQ)を用いて、67品目の食品群の過去1カ月の摂取頻度から把握。残差法に基づき摂取エネルギー量の多寡の影響を補正後に、各食品群の摂取量を三分位で3群に分類して、後述の解析を行った。
うつレベルの把握には、抑うつ状態自己評価スケール(center for epidemiologic studies depression scale;CES-D)を用いた。CES-Dは20項目の質問からなり、合計60点満点。本研究では先行研究に基づき、16点以上をうつ状態と判定した。
解析対象者の特徴
解析対象者の主な特徴は、年齢42.1±10.8歳、男性59.3%、BMI22.9±3.6、摂取エネルギー量は1,848±557kcal、睡眠時間6.5±1.1時間、運動習慣あり44.7%。CES-Dスコアは13.0±8.6点で、28.4%が16点を超過しうつ状態と判定された。
なお、本研究は2020年10~11月という、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に実施されたが、論文の考察に述べられているところによると、うつ状態該当者の割合がとくに高いということはなく、先行研究と同程度だという。
CES-Dスコアを性別で比較すると、平均値は女性のほうが有意に高く(12.1±7.5 vs 14.32±9.1点、p=0.010)、うつ状態の該当者割合も女性で高かった(24.3 vs 34.3%、p=0.028)。
うつ状態該当者は睡眠時間が有意に短い
男性・女性ごとに、うつ状態の該当者と非該当者とで特徴を比較したところ、性別にかかわらず、年齢、BMI、婚姻状況、職位、残業時間、喫煙・飲酒・運動習慣に有意差はなく、摂取エネルギー量、主要栄養素摂取量も有意差がなかった。
唯一、睡眠時間については男性・女性ともに、うつ状態該当者のほうが短いという有意差が観察された(男性・女性ともp<0.001)。なお、男性では有意水準未満ながら、運動習慣のある人の割合が、うつ状態該当者で少ない傾向が認められた(p=0.055)。
男性は卵、女性は卵とその他の野菜の摂取量の少なさがうつ状態に関連
次に、男性・女性ごとに、うつ状態の該当者と非該当者とで各食品群の摂取量を比較。すると、男性ではジャガイモ(p=0.036)、総野菜(p=0.040)、肉(p=0.044)、卵(p=0.015)に有意差が認められ、いずれもうつ状態該当者の摂取量のほうが少なかった。一方、女性に関しては、その他の野菜(緑黄色野菜でない野菜)の摂取量がうつ状態該当者で少ない傾向のみが認められた(p=0.067)。
続いて、うつ状態に該当することを従属変数とし、独立変数には前記の解析で有意差または有意傾向のあった、ジャガイモ、肉、卵、その他の野菜の摂取量(男性で有意差のあった総野菜にはその他の野菜も含まれることから、その他の野菜の摂取量を採用)を設定。各食品群の摂取量の第3三分位群(摂取量の多い上位3分の1)を基準として、年齢、睡眠時間、喫煙・飲酒・運動習慣を調整し、ロジスティック回帰分析を施行。
その結果、以下のように、摂取量の少ないことが、うつ状態に独立して関連する食品群が浮かび上がった。
男性では、卵の摂取量が少ないことが、うつ状態に該当するオッズ比の高さと関連があり、第1三分位群(摂取量の少ない下位3分の1)はOR2.59(95%CI;1.21~5.54)だった(傾向性p=0.024)。
女性も卵の摂取量の第1三分位群はOR2.68(同1.07~6.70)、第2三分位群OR2.59(1.06~6.33)と、有意なオッズ比上昇が認められた(傾向性p=0.037)。また女性では、その他の野菜の摂取量についても、第1三分位群がOR2.86(1.11~7.36)、第2三分位群がOR2.72(1.09~6.82)であり、有意な傾向性が認められた(傾向性p=0.011)。
トリプトファンや腸内細菌叢への影響がうつリスクに関与?
以上のように、男性では卵、女性では卵とその他の野菜の摂取量と、うつ状態との有意な負の用量反応関係が認められた。これは、既報の動物実験や海外からの報告と一致するという。このような関連について著者らは、本研究が横断研究のため因果関係は不明としたうえで、先行研究を基に以下のような考察を述べている。
まず卵については、うつ状態の改善に寄与することが報告されているセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが、卵には豊富に含まれていることが関与している可能性があるという。また野菜については、野菜摂取量が少ない場合に腸内細菌叢が乱れやすく、腸管透過性が亢進し、毒素等の侵入や炎症の惹起を介してメンタルヘルスを悪化させ得るのではないかとのことだ。
一方、先行研究では魚介類の摂取量とうつ病リスクの低さとの関連が報告されているが、本研究ではその関連が示されなかった。この点については、米沢市は内陸部に位置するため、魚介類の摂取量が少ないことも関係している可能性が考えられるという。
なお、著者らは本研究がCOVID-19パンデミック中に実施されたことが、結果に影響を及ぼしている可能性もあるとの考察も付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Relationship between food group-specific intake and depression among local government employees in Japan」。〔BMC Nutr. 2024 Jan 30;10(1):21〕
原文はこちら(Springer Nature)