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糖尿病患者への遠隔栄養指導の効果を検証 徳島大学病院でのRCTで対面栄養指導と比べHbA1c低下の非劣性を明らかに

2型糖尿病患者に対する遠隔での栄養指導と対面での指導の効果を、RCTで検証した結果が報告された。両群ともに介入後にHbA1cが有意に低下し、低下幅の群間差は事前に設定されていた非劣性マージン以内だった。徳島大学先端酵素学研究所糖尿病臨床・研究開発センターの森博康氏らの研究であり、「Nutrients」に論文が掲載された。2020年の診療報酬改定より、情報通信機器を用いた外来栄養食事指導が開始されており、ICTを利活用した遠隔での外来個別栄養食事指導が始まっている。

糖尿病患者への遠隔栄養指導の効果を検証 徳島大学病院でのRCTで対面栄養指導と比べHbA1c低下の非劣性を明らかに

遠隔栄養指導の効果をRCTで検討

遠隔での栄養指導は対面に比べて時間の制約が少なく、通信等の環境が整っているのであれば介入手段の一つとして考慮される。一方、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機に、医師の診療が遠隔で行われる機会が増え、疾患管理状況との関連の知見が蓄積されつつあるが、栄養指導に関してはそのような視点での検証が十分でない。森氏らは、徳島大学病院の外来2型糖尿病患者を対象とする、無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)によって、遠隔栄養指導の有用性を検討した。

無作為に割り付けて8カ月間、合計4回にわたる介入後のHbA1cの変化を比較

研究参加者は2017年2~3月に募集された30人。適格基準は、HbA1cが6.5~9.5%の2型糖尿病患者であり、除外基準として、重篤な心血管疾患、腎機能低下、網膜症、過去3カ月でHbA1cが1%以上悪化、および、過去2年以内に栄養指導を受けたことがある場合が設定されていた。

対面での栄養指導を受ける群(15人)、遠隔での栄養指導を受ける群(15人)の2群に無作為に割り付けた。栄養指導を行う管理栄養士1人(森氏)を除き、主治医を含む医療スタッフには、割り付けの情報などは盲検化された。

栄養指導は2カ月間隔で計4回実施。遠隔栄養指導の場合、患者は院内に設けられた別室に移動し、テレビカンファレンスシステムを用いて行われた。栄養指導の内容は糖尿病治療ガイドラインに準拠し、行動変容ステージに即して個別化した指導内容とした。遠隔栄養指導で使用した情報通信機器はCISICO社製のテレビカンファレンスシステムDX80を使用した。本機器はテレビカメラやオーディオ、マイク、ノートパソコンからの資料共有システムが内蔵されており、テレビ会議未経験者でも操作可能である。また、紙媒体の指導用資料を電子媒体化(PDF、パワーポイント等)することで対象者側のテレビモニターに鮮明に映像化し、資料共有することで遠隔での栄養指導が可能となる(図1)。なお、介入期間中に両群とも、糖尿病専門医による診療が4回行われた。

図1

糖尿病患者への遠隔栄養指導の効果を検証 徳島大学病院でのRCTで対面栄養指導と比べHbA1c低下の非劣性を明らかに

糖尿病患者への遠隔栄養指導の効果を検証 徳島大学病院でのRCTで対面栄養指導と比べHbA1c低下の非劣性を明らかに

(出典:徳島大学先端酵素学研究所糖尿病臨床・研究開発センター)

主要評価項目は、ベースラインから8カ月後(4回目の栄養指導から8週間後)までのHbA1cの変化幅であり、遠隔群の非劣性と判定するマージンは、両側検定での95%信頼区間の上限が0.4%未満と設定した。標準基準とされる対面形式の栄養指導に対して、遠隔での栄養指導は指導効果が劣る可能性があるため、本研究は非劣性試験を採用することにした。なお、非劣性マージンとは、標準基準とされる治療方法(本研究では対面形式での栄養指導)よりも劣る幅として、臨床的に許容される値のことである。また、副次的評価項目は、体重、血圧、食事療法の順守に対する行動変容ステージ、エネルギー摂取量、食塩摂取量などとした。

8カ月の介入で両群ともにHbA1cが低下

対面群で1人、遠隔群で2人が介入期間中に脱落し、解析対象はそれぞれ14人、13人となった。解析対象者のベースラインデータを比較すると、年齢(対面群64.0±9.2 vs 遠隔群62.8±10.7歳)、性別の分布(男性が両群ともに4人)、糖尿病罹病期間(14.3±8.2 vs 16.9±11.1年)は有意差がなく、BMI、eGFR、合併症有病率、エネルギー摂取量、食塩摂取量、および各種血糖降下薬、スタチン、RAS系降圧薬の処方率などに有意差はなかった。

HbA1cも対面群7.1±1.0%、遠隔群7.7±1.2%で有意差がなく(p=0.166)、行動変容ステージは両群ともに関心期に相当していた。

HbA1c低下のほかに、エネルギー摂取量や食塩摂取量も同様に低下

8カ月の介入により、対面群のHbA1cは7.1±1.0%から6.8±0.8%に有意に低下し(p=0.002)、遠隔群も7.7±1.2%から7.3±1.1%へと有意に低下していた(p=0.012)。HbA1cの変化幅の群間差は-0.11%(95%CI;-0.54~0.32)と、95%CIの上限値は0.32%で事前に設定されていた非劣性マージン0.4%を下回り、遠隔群の非劣性が確認された。

副次的評価項目も両群間で同等の効果が認められた。

例えば、行動変容ステージは両群ともに関心期から実行期に進み、エネルギー摂取量は対面群が1,964±295kcalから1,841±298kcal、遠隔群は1,944±354kcalから1,847±321kcal、体重は同順に66.6±9.0kgから65.7±10.8kg、66.9±10.2kgから64.9±8.6kg、食塩摂取量は10.5±1.6gから9.5±1.5g、10.8±2.7から9.7±2.3gへと有意に減少。また収縮期血圧はベースライン時に対面群133±13mmHg、遠隔群133±7mmHgであったものが、介入後は両群ともに130±13mmHgへと有意に低下していた。

聴覚情報と視覚情報の双方がそろうことで、遠隔栄養指導が対面指導に近づく可能性

以上に基づき論文は、「対面による栄養指導と遠隔による指導は、ともに2型糖尿病患者のHbA1cの有意な低下につながることが、RCTによって確認された。また、遠隔群のHbA1cの低下幅は、対面群と比べ非劣性であるため、遠隔での栄養指導は臨床的に利活用できる指導方法であることを示した」と総括されている。

論文の考察によると、本研究以前に、音声のみによる遠隔栄養指導の効果を検討した先行研究があるが、その研究では食塩摂取量などの食事関連指標の改善は認められなかったという。一方、本研究ではエネルギー摂取量や食塩摂取量の有意な減少が観察されたことから、聴覚と視覚双方の情報がそろっていることで、遠隔栄養指導の介入効果が大きくなるのではないかと述べられている。

なお、単一施設での検討であり、サンプルサイズが小さいこと、食事摂取量は自己申告に基づくものであって客観的に評価していないこと、栄養指導を行わない対照群を設定していないことなどが、研究の限界点として挙げられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Telenutrition Education Is Effective for Glycemic Management in People with Type 2 Diabetes Mellitus: A Non-Inferiority Randomized Controlled Trial in Japan」。〔Nutrients. 2024 Jan 16;16(2):268〕
原文はこちら(MDPI)

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