食事の支度時間は1日5分足らずしかない? 世界の人々の24時間の使い方が明らかに
世界中の人々は、1日24時間をどのように使っているのだろうか? このような疑問を、各国政府や国際機関が公表しているデータを駆使して解析した研究結果が報告された。論文のタイトルは、「The global human day」。平均すると、食事の支度にあてる時間は5分に過ぎないという。
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世界銀行、ユニセフ、OECD、ILOなどのデータを統合して分析
この研究は二つのパートに分けられている。一つめは、世界銀行、ユニセフ、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development;OECD)などのデータを用いて、58カ国に暮らす人々の平均的な生活パターンを分析したもの。分析対象とした国々の人口を合計すると、世界人口の約60%を占めるという。
二つめの研究は、国際労働機関(International Labour Organization;ILO)のデータを基に、139カ国に暮らす人々の経済的活動に焦点を当てて、上記同様どのくらいの時間が費やされているかを分析した。この分析の対象は世界人口の約86%にあたるという。
分析対象期間は、2000年から2019年までとした。対象最終年を2019年とした理由は、2020年以降には新型コロナウイルス感染症パンデミックのために、世界中の人々の生活が一変したため。
分析対象として用いたそれらのデータには、人々の行動が延べ3,956種類に分けて報告されていた。これを、大分類として8種類、小分類として24種類に分け、3,956種類の行動をこれにあてはめるという手法で、世界の人々の平均的な時間の使い方を割り出した。
では、前者の分析結果からみていこう。
ベッドまたは布団の上で9時間以上過ごしている
まず、単一の行動で最も多くの時間が使われていたのは、当然かもしれないが、睡眠時間だった。全世界の人々を平均すると、1日に9.1±0.4時間、睡眠またはベッドや布団の上で過ごしていることがわかった。なお、別の研究から、世界の成人の睡眠時間は平均約7.5時間と報告されているという。今回の研究とは2.1時間もの差があるが、その理由として、今回の研究では対象が子どもから高齢者まで含まれていることが一つ、さらに睡眠時間だけでなく、ベッドや布団の中で過ごす時間も含まれていることも関係していると述べられている。
確かに、子どもは1日10時間以上眠ることも少なくなく、かつ、日本のように少子化が進行している国以外は人口に占める子どもの割合が高いことから、日本に暮らす成人の一般的な睡眠時間とは結果が大きく異なることにも納得がいく。また、日本でも、睡眠時間が少ないと言いながら、ベッドや布団の中でスマホをいじったりして時間を使っている人もいるので、そのような行動も「1日9.1時間」という結果に反映されているのだろう。
活動している時間の3分の2は自分自身のために使っている
では、ベッドや布団から出て活動している残りの約15時間はどのように過ごしているのだろうか。
この研究では、自分自身のための行動(direct human outcomes)、自分以外の人や社会に影響を及ぼす行動(external outcomes)、および、法律や社会制度などに基づいて規定される行動(organizational outcomes)という三つに大きく分け、それをさらに細分化して示している。これらのうち、最初の自分自身のための行動には9.4時間、二つめの自分以外の人や社会に影響を及ぼす行動には3.4時間、三つめの法律や社会制度などに基づいて規定される行動には2.1時間があてられているという。
自分自身のための行動の内訳:
自分自身のための行動の9.4時間は、経験(experience oriented)に6.5時間、体の維持(somatic maintenance)に1.6時間、精神的活動(deliberate neural restructuring)に1.3時間があてられていた。栄養や身体活動に関連することとしては、これらのうち、「経験」の6.5時間の中で食事(meals)として1.6±0.2時間、「体の維持」の1.3時間の中でヘルスケアに0.2±0.2時間などが行われていた。
自分以外の人や社会に影響を及ぼす行動の内訳:
自分以外の人や社会に影響を及ぼす行動の3.4時間は、食料の提供(food provision)に1.8時間、周辺のメンテナンス(maintenance of surroundings)に0.8時間などがあてられていた。最初の項目である食料の提供の1.8時間の内訳は、食料の成長と収集(food growth & collection)に0.8±0.05時間、食品の調理(food preparation)に0.9±0.1時間、食品加工(food processing)に0.1±0.01時間であった。
経済的活動は1日158分、食事の支度は5分
次に、後者の経済的活動に焦点を当てた分析結果をみると、1日約2.6時間(158分)の経済活動が行われていた。もちろんこれは、世界人口の平均であり、労働者の平均労働時間ではない。論文によると、世界の労働人口は15~64歳の約66%と考えられ、それに該当する人1人あたりに換算した場合、1週間に41時間労働していることになるという。
この経済的活動の中で最も多くの時間が使われていたのは、食料の提供(food provision)であり52分だった。その内訳は、食料の成長と収集(food growth & collection)が44分、食品の調理(food preparation)が5分、食品加工(food processing)が3分だった。
食料の成長と収集のための時間は、その国のGDPと逆相関する
上記の分析のほかに、各国の人口1人あたりのGDP(国内総生産。gross domestic product)と使われる時間との関連が検討されている。それらのうち、食料の成長と収集(food growth & collection)は、人口1人あたりのGDPが低い国ほどそれに費やされる時間が長く、1人あたりのGDPが高い国は短いという有意な逆相関が観察された。これは、低所得国では多くの人が農業や畜産によって生計を立てていることを表している。
著者らは、このようなデータは、持続可能な開発目標(sustainable development goals;SDGs)達成に向けた道標となると述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The global human day」。〔Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Jun 20;120(25):e2219564120〕
原文はこちら(National Academy of Science)