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ランニング中の腹部症状を大規模調査 男性アスリートは消化器症状と栄養が強く関連

ランニング中に生じる腹部症状の発現率や関連因子を、約二千人のアスリートを対象に調査した研究結果が報告された。女性や若年層、およびランニング強度が高い場合に腹部症状が多くみられ、一方、栄養との関連は男性の下部消化器症状との関連が強く認められたという。

ランニング中の腹部症状の大規模調査報告 男性アスリートは下部消化器症状と栄養との関連が顕著

運動関連腹部症状の発現率やふだんの食生活との関連を大規模サンプルで調査

運動に伴う腹部症状、例えば腹痛や下痢、嘔気、嘔吐などは持久系アスリートでよくみられる症状であり、その有病率は報告により3~9割と差が大きい。その理由は、腹部症状の定義、対象集団、調査方法が異なるためと考えられる。一般的には、食物繊維や浸透圧の高い飲料の摂取などが腹部症状の発現頻度と関連しているとされているが、ふだんの食習慣との関連については知見が少ない。今回紹介する研究では、対象者が二千人近い大規模なサンプルで、運動関連腹部症状の有病率や食事・栄養素摂取状況との関連が検討されている。

オランダとベルギーのランナー約二千人が調査に回答

この調査は、2021年7月にオランダとベルギーの陸上競技団体や競技会、およびソーシャルメディアなどを通じて募集されたアスリートを対象に実施された。2022年6月に募集を締め切った時点で3,643人が調査に関心を示していた。

調査内容は、トレーニング歴や腹部症状などに関するものと、日常の食習慣に関するものの2部で構成されていた。

腹部症状は、嘔気・嘔吐、逆流症状、腹痛(脇腹の痛み)、膨満感、鼓腸、便意、便失禁、下痢、便秘という9項目について質問。それぞれの症状がランニング中~終了3時間以内に発現するか否かと、発現する場合は症状の強さを各々0~100点、合計900点で評価してもらった。なお、解析時には嘔気・嘔吐、逆流症状の二つを上部消化器症状、その他の七つを下部消化器症状として分類した。食習慣については過去1カ月を対象として、食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)にて把握した。

これら二つの調査に回答したランナーは2,118人だった。研究参加者の適格基準(18歳以上、過去1年以上にわたり週1回以上のトレーニングを継続していること)を満たしていないランナー、および、摂取エネルギー量が極端に多いまたは少ないと判断された回答を除外し、最終的に1,993人の回答を解析対象とした。

腹部症状が現れるランナーと現れないランナーの主な違い(食習慣以外)

解析対象者の主な特徴は、性別が男性891人(44.7%)、女性1,095人(54.9%)、その他または不明が7人(0.4%)、年齢は中央値44(四分位範囲34~54)歳で、49%はランニング歴が10年以上であり、74%は自分のランニングレベルが中級と判断していた。週あたりのトレーニング回数は中央値3(同2~4)回、走行距離は30(20~42)km/週だった。また、摂取エネルギー量は2,095(1,700~2,538)kcal/日だった。

腹部症状の発現率は女性で有意に高く、重症度が高い傾向

1,139人(57%)のランナーが、ランニング中またはランニング直後に腹部症状が発現すると回答した。その割合は、男性(45%)より女性(67%)のほうが有意に高かった(p<0.001)。

症状発現部位

発現部位は、302人(15%)が上部消化器、1,115人(56%)が下部消化器の症状であり、これらのうち278人(14%)は上部と下部双方の消化器症状を報告した。上部消化器症状で最も多いのは逆流症状で11%、下部消化器症状では鼓腸で36%だった。

発現率を性別で比較した場合、9種類すべてで女性の方が有意に高かった(すべてp<0.001)。

重症度

重症度の合計スコアは中央値75(四分位範囲30~145)だった。多くの症状で女性のスコアのほうが有意に高かったが、嘔気・嘔吐、逆流症状、膨満感、鼓腸には有意差がなく、男性のほうがスコアの高い症状はなかった。

トレーニングや競技への影響

上部消化器症状のために、トレーニングを「しばしば、または、いつも中断する」と回答した割合は、男性5%、女性8%、競技中に「しばしば、または、いつも中断する」と回答した割合は男性・女性ともに3%だった。一方、下部消化器症状のために、トレーニングを「しばしば、または、いつも中断する」と回答した割合は、男性4%、女性11%、競技中に「しばしば、または、いつも中断する」と回答した割合は男性1%、女性2%だった。

腹部症状の発現と関連のある因子

ランニングにより腹部症状を来すランナーの多く(67~88%)は、運動前または運動中の食事によって症状発現が増えると回答し、男性より女性のほうがそのような回答が多かった。一般に、食べ過ぎやランニングの直前に食べることが症状発現を増やすと考えられていた。ただし、ランニング前の食事が少なすぎることや、ランニング中の食事も関連因子として挙げられた。

水分の摂取は、腹部症状との関連因子であるとする回答が、食品の摂取よりは少ないながら25~45%は関連を指摘した。

腹部症状を来さないランナーとの違い

腹部症状を報告しなかったランナーとの対比では、男性と女性ともに、上部消化器症状と下部消化器症状の双方を訴えるランナーは、より若年で、より高強度のトレーニングを行っていた。また男性では、症状が発現すると回答したランナーのほうが競技レベルが高いという差がみられた。女性については、症状が発現するランナーのほうが競技歴が短く、BMIが低く、週あたりの走行距離が長かった。

腹部症状が現れるランナーと現れないランナーの食習慣の違い

次に、食習慣の違いに着目すると、以下にまとめるように、上部消化器症状の有無での比較では、有意差のある項目は少なく、一方で下部消化器症状ではとくに男性において、有意差のある項目が多く認められた。

上部消化器症状の有無での比較

男性

上部消化器症状を来す男性ランナーは、症状を来さない男性ランナーに比べて、脂質(101 vs 91g/日、p=0.010)、および加糖飲料・フルーツジュース(116 vs 52g/日、p=0.001)、および非健康的とされる食品(ケーキ、菓子、スナックなど。172 vs 147g/日、p=0.005)の摂取量が有意に多かった。

女性:

上部消化器症状を来す女性ランナーは、症状を来さない女性ランナーに比べて、全粒粉製品の摂取量が有意に少なかった(70 vs 86g/日、p=0.035)。

下部消化器症状の有無での比較

男性

下部消化器症状を来す男性ランナーは、症状を来さない男性ランナーに比べて、摂取エネルギー量が有意に多く(2,446 vs 2,306kcal/日)、炭水化物、タンパク質、脂質の摂取量も有意に多かった(すべてp≦0.001)。また、非健康的とされる食品の摂取量も、前者のほうが有意に多かった(160 vs 144g/日、p=0.001)。

そのほかに、食物繊維、全粒粉製品、精製穀物、ナッツ、茶(tea)の摂取量は、下部消化器症状を来すランナーのほうが有意に多く、果物の摂取量は症状を来さないランナーのほうが有意に多いといった差がみられた。

女性

下部消化器症状を来す女性ランナーは、症状を来さない女性ランナーに比べて、非健康的とされる食品の摂取量が有意に多かった(122 vs 108g/日、p=0.002)。そのほか、茶(tea)の摂取量が、症状を来す女性ランナーで多かった。

文献情報

原題のタイトルは、「Exercise-related abdominal complaints in a large cohort of runners: a survey with a particular focus on nutrition」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2023 Jun 2;9(2):e001571〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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