硝酸塩がレジスタンス運動のパフォーマンスが向上させる可能性 いくつかの指標が有意に向上
硝酸塩を摂取すると、男性においてレジスタンス運動のパフォーマンスが向上する可能性が報告された。システマティックレビューとメタ解析の結果として、評価指標の一部に有意な変化が認められたという。
レジスタンス運動とは
レジスタンス運動(e-ヘルスネット)硝酸塩のレジスタンス運動のパフォーマンスへの影響は?
硝酸塩は、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)が発表した、ハイパフォーマンスアスリートの栄養補助食品についてのコンセンサスステートメントの中で、カフェインやクレアチンなどとともに、エビデンスの裏付けが確かな5種類のサプリメントの一つとして挙げられている。硝酸塩(NO3-)は血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)の前駆体であり、多面的な機序によってスポーツパフォーマンスの向上に関与すると考えられている。
ただし、本論文の著者によると、硝酸塩に関するスポーツパフォーマンスへの影響のエビデンスはこれまでおもに、自転車やランニングなど持久系競技で多く研究されてきており、筋力パフォーマンスへの影響のエビデンスは多くないという。そこで著者らは、複数の研究の結果を統合して評価するメタ解析により、硝酸塩摂取による男性の筋力パフォーマンスへの有効性を検討した。
5件のデータベースを用いて6件の研究報告を抽出
システマティックレビューとメタアナリシスのガイドライン(PRISMA)に則して、MEDLINE、PubMed、ScienceDirect、Scopus、SPORT Discusという文献データベースを利用し、2023年3月までに発行された研究論文を対象とする検索を実施。検索キーワードには、硝酸塩、ビート根、男性、レジスタンス、トレーニング、パフォーマンス、エルゴジェニック、エクササイズ、パワー、筋力、スクワット、ベンチプレスといった語句を用いた。
検索でヒットした報告は合計1,025件で、278件の重複を削除後に、3人の研究者がタイトルとアブストラクトに基づくスクリーニングによって42件に絞り込み、それらを全文精査の対象として、最終的に6件の研究をメタ解析の対象として抽出した。なお、採否の意見の不一致は討議によりコンセンサスを得た。
すべてではないが複数の評価指標に有意な影響が観察される
メタ解析の対象とした6件の研究は、研究参加者数が11~18人の範囲であり、年齢は21~29歳で、合計92人だった。全員がレジスタンストレーニングを習慣的に行っていた。
介入にはすべての研究でビート根ジュースが使われ、1件の研究では硝酸塩(NO3-)を介入に用いる条件でも検討されていた。摂取のタイミングはパフォーマンス評価の2~2.5時間前として急性効果を検討したものや、数日間(3~6)日摂取した短期間の慢性効果を検討したものがあり、また摂取量は約6mmolから約13mmolの範囲であって、複数の用量設定で検討した研究もみられた。
介入効果は、バックスクワットで評価したものが4件、ベンチプレスで評価したものが4件だった。指標としては、失敗に至るまでの反復回数(repetitions-to-failure;RTF)、パワー(最大および平均)、挙上速度(最大および平均)など。それらの結果を順番にみていこう。
失敗に至るまでの反復回数(RTF)
RTFは5件の研究で評価されており、メタ解析の結果、硝酸塩摂取による有意なパフォーマンス向上が確認された(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉=0.427〈95%CI;0.156~0.688〉、p=0.002)。報告間で、比較的大きなデータの不均一性が認められた(I2=46%)。
ピークパワー
ピークパワーは4件の研究で評価されており、メタ解析の結果、硝酸塩摂取による有意なパフォーマンスへの影響は認められなかった(SMD=0.204〈95%CI;-0.004~0.411〉、p=0.05。異質性〈I2〉=51%)。
平均パワー
平均パワーは3件の研究で評価されており、硝酸塩摂取による有意なパフォーマンス向上が確認された(SMD=0.403〈95%CI;0.127~0.678〉、p=0.004。I2=58%)。
ピーク速度
ピーク速度は2件の研究で評価されており、介入の有無によるパフォーマンスの違いは全くみられなかった(SMD=0.000〈95%CI;-0.173~0.173〉、p=1.00)。
平均速度
平均速度は2件の研究で評価されており、有意なパフォーマンス向上が確認されたが、データの不均一性が顕著だった(SMD=0.565〈95%CI;0.07~1.061〉、p=0.025。I2=70%)。サブグループ解析
メタ解析では、硝酸塩の摂取量および評価した運動のタイプなどで層別化したサブグループ解析も行われている。
それらからは、例えばピークパワーは13mmolでは有意に向上しているが6mmmolでは非有意であること、その一方でRTFについては6.4mmolで有意、13mmmolで非有意、平均パワーはバックスクワットでは有意、ベンチプレスは非有意など、研究条件により異なる結果が示されている。ただし、いずれもメタ解析の対象となる研究の数がごく少数。
著者らは、「硝酸塩の摂取によってバックスクワットやベンチプレス時の筋持久力、パワー、挙上速度がわずかに向上する可能性がある。ただし、利用可能なデータが限られており、研究間の不均一性が高いことを考慮すると、明らかにさらなる研究が必要と考えられる」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Dietary Nitrate Supplementation on Back Squat and Bench Press Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis」。〔Nutrients. 2023 May 27;15(11):2493〕
原文はこちら(MDPI)