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チームスタッフとはメンタルの話をしにくい? ラグビー選手が助けを求める相手の調査結果

日本の男子ラグビー選手を対象に、メンタルヘルス上の助けを必要とするときの相談相手を調査した結果が報告された。所属チームのスタッフに相談するとの回答は、アンケートにあった回答選択肢の中で最も少なかったという。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の小塩靖崇氏らの研究によるもので、「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に論文が掲載された。

チームスタッフとはメンタルの話をしにくい? ラグビー選手が助けを求める相手の調査結果

トップアスリートはメンタル上の問題をだれに相談したいと思っているのか?

近年、高い競技レベルで活動しているアスリートのメンタルヘルスへの関心が高まっている。アスリートのうつ病や不安症などの既往率は33.6%に上るとするメタ解析の結果も報告されている。アスリートのメンタルヘルス不調は深刻化すると本格的な精神疾患の発症リスクの上昇を招くほか、パフォーマンスの低下や引退につながることもある。その一方で、アスリートはメンタルヘルス関連の悩みを他者に相談しようとしない傾向が強いことも、小塩氏らの過去の研究などから明らかになっている。

ただ、アスリートが、実際にメンタルヘルス上の問題に直面したとき、だれに相談しようとするか、また、実際にどのくらい相談をしているのかといったことは国際的にもこれまでほとんど調査されてこなかった。そこで同氏らの研究グループは今回、日本ラグビーフットボール選手会との共同で、日本人ラグビー選手を対象とする匿名でのオンラインアンケートを行い、この点を検討した。

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日本ラグビー選手会所属の全選手への二つの質問

この研究では、日本ラグビーフットボール選手会に所属している18歳以上の全選手612人に、アンケートページのURLを送信して回答協力を依頼した。本論文で解析に用いた質問項目は2問だった。

最初の質問は、「気分の落ち込みや不安などのこころの不調でどのくらい苦しんでいるか、といったような、 自分のメンタルヘルスのことについて、あなたはどのくらい気軽に話せると思いますか?」という質問であり、所属先・球団関係者、家族・親戚、友人・知人、メンタルヘルスの専門家、ラグビー関係の先輩、チームメイトという6者について、1~5点のリッカートスコアで評価してもらった(点数が高いほど話しやすいことを表す)。

2番目の質問は、「この3ヶ月の間で、実際に気分の落ち込みや不安などのこころの不調について、相談したり、専門家の支援を受けましたか?」という質問であり、「はい」を選択した場合は、誰に相談したかを上記と同じカテゴリーから複数回答可で選択してもらった。

メンタルの話をしやすい相手は家族や親戚、友人

このオンラインアンケートに、227人(37.1%)の選手が回答。外国人選手を除いて219人の回答を解析対象とした。そのうち5人に1人(19.6%)は、日本代表チームの経験を有していた。

そのほかの主な特徴は、年齢層は25~29歳が45.7%と最多で、20~24歳が27.9%、30~34歳が21.5%、教育歴は大半(97.3%)が大学卒であり、ほぼ半数(51.6%)が未婚者だった。居住環境は家族やパートナーとの同居が47.9%、寮生活が30.1%、独居が21.9%だった。

所属チームのスタッフとはメンタル関連の話をしにくい

最初の質問(メンタルヘルス関連の会話のしやすさ)に対するリッカートスコアは、所属先・球団関係者が2.90±1.33点、家族・親戚が3.96±1.21点、友人・知人が3.96±1.18点、メンタルヘルスの専門家が3.63±1.11点、ラグビー関係の先輩が3.59±1.30点、チームメイトが3.73±1.26点となった。

家族・親戚、友人・知人が最高値で、所属先・球団関係者が最低値という結果であり、所属先・球団関係者のスコアは他の5者に比べて有意に低かった(p<0.001)。

実際に相談した相手は家族や親戚が最多

二つ目の質問(過去3カ月以内にメンタル関連の助言を求めた相手)の回答は、所属先・球団関係者を挙げた選手は14人、家族・親戚を挙げたのは41人、友人・知人は30人、メンタルヘルスの専門家は13人、ラグビー関係の先輩は34人、チームメイトが37人、その他1人だった。

チームスタッフへの相談はマイナス評価につながるという懸念が影響か

以上より、日本の男子ラグビー選手の多くが、所属先・球団関係者にはメンタルヘルス関連の話をしづらいと感じていて、実際にそのような話をスタッフとする選手が少ないことも明らかになった。

この理由について著者らは、「競争の激しいスポーツ界では、メンタルヘルス上の問題は身体的健康の問題よりも優先順位が低いとみなされやすい。また選手の側には、所属先・球団関係者が自分のメンタルヘルス上の問題を認めた場合に、チーム内での自分の立場に影響が生じるのではないかとの懸念を抱くと考えられる」と考察。「アスリートの活躍には心理的に安全な環境が不可欠であり、チーム内での対応が困難であれば、組織外のサポート体制を構築することも検討に値するのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Mental health help-seeking preferences and behaviour in elite male rugby players」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2023 May 26;9(2):e001586〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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