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日本人ラグビー選手のメンタルヘルス実態調査 3割以上が過去1カ月に心理的ストレス

2021年02月20日

ジャパンラグビートップリーグの男性ラグビー選手を対象とする、メンタルヘルス不調の実態調査の結果が報告された。3割以上の選手が過去1カ月間に心理的ストレスを経験していたことなどが明らかになった。国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部、認知行動療法センター、日本ラグビーフットボール選手会のグループが行った調査の結果であり、「Int J Environ Res Public Health」に論文掲載されるとともに、NCNPのサイトにニュースリリースが掲載された。

日本人ラグビー選手のメンタルヘルス実態調査 3割以上が過去1カ月に心理的ストレス

研究の概要:日本発では初めて国際誌に報告されたアスリートのメンタルに関する知見

この調査は、2019年12月~2020年1月に、ジャパンラグビートップリーグの男性ラグビー選手を対象に実施された。調査に回答した251名のうち32.3%の選手が、過去1カ月間に心理的ストレスを、4.8%がうつ・不安障害の疑い、5.2%は重度のうつ・不安障害の疑いに相当する状態を経験していた。また、7.6%は過去2週間に希死念慮を経験していた。

著者らは、「海外の先進諸国では近年、アスリートのメンタルヘルス支援策に関する議論が盛んに行われているが、日本人アスリートにおける専門的支援が必要な状態を含めたメンタルヘルス上の課題について国際学術誌で報告したのは本研究が初めて。海外諸国との国際的な議論の場に日本が加わるための大きな一歩だと考えている。本知見は、海外アスリートと同様に日本のラグビー選手でもメンタルヘルスの問題は珍しくないことを示しており、日本でもアスリートのメンタルヘルス支援の整備を検討する必要があると考えられる」と述べている。

研究の背景:日本人アスリートのメンタルヘルスの実態を把握する必要性

近年、スポーツ界では、"メンタル(心の状態)"が注目されている。ただし、その多くはメンタルタフネスやストレングスなど、「より強くなるためにどうしたら良いのか?」という文脈で使われており、メンタルヘルスは日本ではあまり注目されていない。しかし、メンタルタフネスやストレングスを鍛えるには、良好なメンタルヘルス(心の健康)が欠かせない。

国際的には、アスリートのメンタルヘルスケアの開発が進められている。国際オリンピック委員会などから、この数年で少なくとも7件の声明が発表された。その声明では、「アスリートのメンタルヘルス不調の経験は珍しくない」「競技パフォーマンスにも影響する」「身体の不調と同様に早めの気づきと適切な対処が大切である」「回復可能である」「アスリートのためのメンタルヘルス支援策の整備が急務である」ことが述べられている。

これらの声明は多くの調査研究に基づくものだが、それらの知見は欧米、オーストラリアからの発表がほとんどで、日本からの研究は含まれていなかった。アスリートのメンタルヘルスケアは、日本では個人やチームレベルの実践は存在する可能性があるものの、体系的な整備には至っていない状況。そこで、本研究グループでは、日本のアスリートのメンタルヘルスの実態を把握するため、ジャパンラグビートップリーグ選手の心理的ストレス、うつ・不安障害が疑われる状態や希死念慮を抱える選手の割合、それらのリスク要因を調査した。

研究の方法と主な結果

研究の方法

2019年12月〜2020年1月に、日本ラグビーフットボール選手会から各選手にWebアンケート調査が配布され、調査説明に同意した選手から回答を得た。調査項目には、うつ病・不安障害が疑われる状態(K6)※1および希死念慮の評価(BDSA※2のうち1項目)のほか、基本属性や生活上の出来事、体調の変化なども含まれていた。

※1 K6(Kessler6):過去30日間のメンタルヘルス状況の評価スケール。合計得点は0~24点で、得点が高いほど心理的ストレスが強いことを意味する。5~10点は心理的ストレス、11~12点はうつ・不安障害の疑い、13~24点は重度のうつ・不安障害が疑われる状態の可能性がある。
※2 BDSA(Baron Depression Screener for Athletes):アスリートに特化した抑うつの評価スケール。合計得点は0~20点で、得点が高いほどうつ症状の傾向が強いことを意味する。本調査では、10項目のうち「自分の人生を終わらせることを考えている」という質問により希死念慮の有無を評価した。

主な結果

251名から回答があり、このうち、32.3%(81名)がこの1カ月間に心理的ストレス、4.8%(12名)はうつ・不安障害の疑い、5.2%(13名)は、重度のうつ・不安障害の疑いに相当する状態を経験していた(重度とは社会機能に支障をきたす程度)。また、7.6%(19名)は、過去2週間に希死念慮(自分の人生を終わらせることを考えること)を経験していた(図1)。

図1 メンタルヘルス不調者の割合―海外アスリートや一般成人との比較

メンタルヘルス不調者の割合―海外アスリートや一般成人との比較
(出典:国立精神・神経医療研究センター)

何らかのメンタルヘルス不調(心理的ストレスから重度のうつ・不安障害の疑い)を抱える選手では、不調のない選手に比べて、「疲労、食欲の変化、体重の変化、睡眠の問題、お酒関係のトラブル、経済的な変化、試合に出られなかった、競技力の低下、引退後の生活について考えた」といった経験や体調の変化を高い割合で経験していた(図2)。

図2 トップリーグのメンタルヘルス不調者の傾向

トップリーグのメンタルヘルス不調者の傾向
(出典:国立精神・神経医療研究センター)

結果から言えること

本調査に参加した選手では、2.4人に1人の割合で、何らかのメンタルヘルス不調を経験していた。10人に1人は、うつ・不安障害の疑いあるいは重度のうつ・不安障害が疑われる状態だった。希死念慮は、13人に1人に認められた。この結果は、海外で示されてきた知見と似通っていた。日本のアスリートであるラグビー選手において、海外アスリートや、一般人と同様にメンタルヘルス上の課題を経験している可能性があることが示された。

今後の展望

本調査は、アスリートと研究者の共同プロジェクトから生まれた取り組み。このプロジェクトは、日本のスポーツ界において、メンタルフィットネス※3への意識を高め、アスリートへの有効なメンタルヘルス支援策を開発することを目的にしている。

本研究では、科学的根拠に基づく支援策の開発のため、最初のステップである実態把握を行った。ただし、日本のアスリート全体の傾向をより正確に知るには、他競技のアスリートや女性アスリートでも同様の調査が必要。また、より具体的な不調要因の検討には、シーズン中を含めて経時的な変化を捉える縦断的調査を行う必要がある。

なお、このプロジェクトでは今回の研究に関連して、アスリートがメンタルフィットネスに関するメッセージを発信するWebサイト「よわいはつよいプロジェクト」を立ち上げた(https://yowatsuyo.com/)。アスリートが、心の状態を認識し、受け入れ、困難への柔軟な対応力を高めるための情報を発信していく。また、つらいことを一人で耐えるという対処ではなく、解決すべき課題として信頼できる人と共有し支え合い、ともに問題を解決して前に進むというメッセージの発信を行う「場」を提供している。

同プロジェクトチームは、「研究者、臨床家、アスリートの小規模のメンバーで構成されるため、その活動規模に限界があることも認識している。国内アスリートのメンタルフィットネスに関する研究規模の拡大と同時に、持続可能な組織体制の構築も必要。そのためには、今後、民間企業等との協働も含めて、領域全体で発展しなければならないと考えている」と語っている。

※3 メンタルフィットネス:心の状態を正しく認識し、受け容れて、柔軟に対応する力。心の健康やそのケアの必要性について、より受け入れやすいフレーズとして、ニュージーランドラグビー協会が発案し使用している。

関連情報

ラグビー選手におけるメンタルヘルスの実態 ~ジャパンラグビートップリーグ選手におけるメンタルフィットネスの調査からの報告~(国立精神・神経医療研究センター)
よわいはつよいプロジェクト

文献情報

原題のタイトルは、「Anxiety and Depression Symptoms and Suicidal Ideation in Japan Rugby Top League Players」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Jan 29;18(3):1205〕
原文はこちら(MDPI)

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