2型糖尿病患者への低炭水化物食の効果は半年限り? 1年後はLDL-Cが上昇しQOLが低下
英国医師会雑誌「BMJ」に、糖尿病患者を対象に実施された低炭水化物食による介入の無作為化比較試験を対象とする、システマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。低炭水化物食は開始6カ月時点では血糖や中性脂肪などの代謝指標に有意な改善効果が認められるものの、12カ月時点では有意でなくなる一方、LDL-コレステロールが有意に上昇しQOLは有意に低下するという結果だ。
糖尿病の寛解率で有効性を比較検討
糖尿病に対する炭水化物の摂取制限は、今からちょうど100年前のインスリン発見前までは広く行われていた。インスリン発見以降は長らく支持されていなかったが、最近になって再びその有用性に関する報告が増えてきている。それらの報告を対象とするメタ解析も既に行われているが、摂取制限が穏やかな低炭水化物食による介入試験のデータが含まれていることなどから、結果の解釈が困難だった。今回の研究では、炭水化物の摂取条件が厳格な介入試験を対象とし、かつ、糖尿病の寛解という明確な評価項目を設定して行われた。
メタ解析の対象は23件、計1,357人
システマティックレビーは、CENTRAL、Medline、Embase、CINAHL、CABなどに2020年8月25日までに公開された文献を対象とした。成人2型糖尿病患者に対し、炭水化物摂取量130g/日未満または摂取エネルギー比26%未満の「低炭水化物食」、および、炭水化物摂取量50g/日未満または摂取エネルギー比10%未満の「超低炭水化物食」による食事療法で少なくとも12週間介入した試験を検索した。解析はこの2群をあわせて「低炭水化物食群」として行った。
主要評価項目は、介入から6カ月と12カ月時点の糖尿病の寛解(HbA1c6.5%未満、空腹時血糖値126mg/dL未満で定義。血糖降下薬の使用の有無は問わない)と、体重、HbA1c、空腹時血糖値の変化、および有害事象。副次評価項目は健康関連QOL、および生化学的検査値。
検索でヒットした1万4,759報のうち、前記の適格基準を満たす23件の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の論文が抽出された。それらの研究参加者数は12~144人の範囲で、合計1,357人。平均年齢は47~67歳であり、23件中14件はインスリン療法中の患者を対象としていた。比較対照群では多くの場合(18件)、低脂肪食などの一般的食事療法が行われていた。
主要評価項目の検討:6カ月では低炭水化物食群での寛解率が有意に高い
それでは結果をみてみよう。まずは主要評価項目について。
12カ月では有意差が消失し、6カ月でも非薬物療法では有意差なし
8件のRCT(n=264)が6カ月時点での糖尿病の寛解率を報告していた。対照群での寛解は131人中41人、低炭水化物食群では133人中76人で、リスク比(RR)1.87(95%CI;1.18~2.97)と、低炭水化物食群のほうが有意に寛解率が高かった。ただし、血糖降下薬を用いない場合の寛解率を検討した5件(n=199)のRCTの解析では、RR1.24(95%CI;0.65~2.38)と、有意差がなかった。
12カ月時点での寛解率は3件(n=171)のRCTが報告されており、RR1.27(95%CI;0.99~1.64)と有意差がなく、血糖降下薬を用いない場合の寛解率を検討した2件(n=126)のRCTの解析でもRR0.79(95%CI:0.36~1.73)で有意差はなかった。
体重、HbA1c、FBGは6カ月では低炭水化物食群が有意に低く、12カ月では有意差なし
体重に関しては、6カ月時点では18件(n=882)のRCTが報告されており、平均差(MD)-3.46kg(95%CI:-5.25~-1.67)であり、低炭水化物食群のほうが有意に大きく減少していた。ただし12カ月介入した7件(n=499)のRCTの解析では、MD0.29kg(-1.02~1.6)であり、有意差がなかった。
HbA1cの変化も体重の変化と同様の結果だった。具体的には、6カ月時点では17件(n=747)のRCTが報告されており、MD-0.47%(95%CI:-0.60~-0.34)であり、低炭水化物食群のほうが、有意に大きく低下していた。ただし12カ月介入した8件(n=489)のRCTの解析では、MD-0.23%(-0.46~0)であり、効果量が半減していた。
空腹時血糖値の変化も同様で、6カ月時点では14件(n=611)のRCTが報告されており、MD-13.4mg/dL(95%CI:-21.4~-4.9)であり、低炭水化物食群のほうが、有意に大きく低下していた。ただし12カ月介入した6件(n=365)のRCTの解析では、MD-1.1mg/dL(-6.7~8.6)であり、有意差がなかった。
副次評価項目:低炭水化物食で一部の代謝指標が改善も、QOL低下などに悪影響も
続いて副次評価項目についてみてみよう。
中性脂肪とHOMA-IRは低炭水化物食群が12カ月後も有意に良好
中性脂肪は6カ月時点では19件(n=860)のRCTが報告されており、MD-26.6mg/dL(95%CI:-38.1~-15.1)であり、低炭水化物食群のほうが有意に低値だった。また、12カ月時点においても7件(n=459)のRCTの解析から、MD-28.3mg/dL(95%CI:-45.5~-10.6)であり、やはり低炭水化物食群のほうが低く、有意差が維持されていた。 インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRも同様の傾向にあった。
12カ月時点のLDL-CやQOLは、低炭水化物群のほうが不良で有意差あり
一方、LDL-コレステロールは、6カ月時点では有意差がなかったものの、12カ月間介入した6件(n=429)のRCTの解析では、MD5.4mg/dL(95%CI:0~10.8)であり、低炭水化物食群のほうが有意に高値だった。
また、QOLに関しても同様に、6カ月時点では有意差がなかったものの、12カ月時点では低炭水化物食群のほうが有意に低下していた。
短期間の低炭水化物食は有効と考えられる
有害事象、その他の指標は有意差なし
有害事象に関しては、6カ月時点、12カ月時点、および、全有害事象、重篤な有害事象について、すべて群間に有意差はなかった。
また、その他の評価指標、総コレステロール、HDL-コレステロール、炎症(CRP)は、6カ月時点および12カ月時点のいずれも、有意な群間差はなかった。
これらの解析結果から著者らは、「2型糖尿病患者に対する低炭水化物食は、6カ月までであればQOLやLDL-コレステロールへの悪影響を伴わずに血糖管理に有効と考えられる」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Efficacy and safety of low and very low carbohydrate diets for type 2 diabetes remission: systematic review and meta-analysis of published and unpublished randomized trial data」。〔BMJ. 2021 Jan 13;372:m4743〕
原文はこちら(BMJ Publishing)