容器の厚みで飲み物の味が変わる? 厚いグラスで甘いお茶、薄いグラスで苦いお茶
飲み物を飲むときのグラスの厚みによって、緑茶の味が変化する可能性が報告された。中央大学などの研究グループの研究によるもので、「Food and Humanity」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要
これまでの研究から、グラス等の容器の材質や手触りが飲料の味や香りに影響を与えることが報告されてきた。本研究では、同じ材質かつ同じ手触りのグラスであっても、飲み口の厚いグラスは緑茶の甘味を増大させ、飲み口の薄いグラスは緑茶の苦味を増大させることが明らかにされた。この知見は、同じ飲料であっても、グラスの厚みを変えるだけで、消費者に多様な味覚を提供できる可能性、すなわち個人の好みに合わせた飲用体験を提供できる可能性を示唆している。
研究内容の詳細
背景
これまでの先行研究では、容器(グラスやマグカップなど)の色、形状、材質、手触りなどの視覚情報や触覚情報が、そこから飲む飲料(ワインやコーヒーなど)の味覚評価に影響を与えることが報告されてきた。しかし、実際に人々が飲み物を飲むとき、常にそれらの情報を入力、認識しているわけではない。例えば、飲料を飲んでいる最中、グラスの形状は視界に入らない。
そこで本研究は、飲料を飲んでいる最中に常に入力がある、容器の飲み口の「厚み」に注目した。つまり、唇からの触覚入力が、飲料の味覚評価に与える影響を調べた。
研究内容と成果
実験では、厚みの異なる2種類のグラス(飲み口の薄いグラスは1.2mm、厚いグラスは2.8mm。図1参照)に常温の緑茶を注ぎ、目隠しをした参加者に順番に飲んでもらった。参加者は、各グラスからお茶を飲むごとに、飲料の甘味、苦味、酸味、まろやかさ、コク、清涼感、美味しさを評価した。
その結果、厚いグラスで飲んだ緑茶は薄いグラスで飲んだ緑茶よりも甘く、薄いグラスで飲んだ緑茶は厚いグラスで飲んだ緑茶よりも苦く評価された(図2参照)。参加者は目隠しをしていたことから、唇における厚みの触覚入力が緑茶の味に影響を与えたことが示された。
厚みの異なるグラスは重さも異なっていたため、その後の実験では、重さの影響を調べた。その結果、上述した結果はグラスの重さだけでは説明できないが、グラスの重さも重要な要因であることがわかった。つまり、厚みと重さが自然な組み合わせであったとき、緑茶の味覚評価はグラスの厚みの影響を受けることがわかった。
図1 研究で使用したグラス(左が薄いグラス、右が厚いグラス)
図2 厚いグラスは甘味を、薄いグラスは苦味を増大させることがわかった
研究の意義
本研究より、同じ飲料であっても、グラスの厚みを変えるだけで、消費者に多様な味覚を提供できる可能性、すなわち個人の好みに合わせた飲用体験を提供できる可能性が示唆された。レストラン、カフェ、居酒屋などのサービス企業は、自らが望むような甘味や苦味の体験をしてもらうためには、適切な厚みのグラスを選択する必要性がある。
さらに、本研究の成果は、次のような現代的なビジネス課題についても示唆を提示する。
近年、環境への配慮を目的として、プラスチックストローの削減が推進されている。日本国内でもプラスチックストローを廃止し、代替品として紙製ストローを使用する企業が増えている。しかし、プラスチックストローと紙製ストローでは唇における触覚が異なるため、消費者は同じ飲料であってもこれまでとは異なる味覚を知覚している可能性がある。
本研究の成果は、環境配慮型のストローがもたらす味覚の変化を調べることの重要性を指摘しており、これに関する今後の研究が期待される。
なお、本研究は長谷川香料株式会社の支援を受けて実施された。
プレスリリース
厚いグラスで甘いお茶に、薄いグラスで苦いお茶に〜グラスの厚みと重みが飲料の味を変えることが明らかに〜(中央大学)
文献情報
原題のタイトルは、「The tactile thickness of the lip and weight of a glass can modulate sensory perception of tea beverage」。〔Food and Humanity. 2023 December;1:180-7〕
原文はこちら(Elsevier)