食べる順序を意識すると栄養状態が改善される? 日本人対象の横断研究
食事の際に野菜やタンパク質食品を先に食べている人とそうでない人では、さまざまな栄養素摂取量が有意に異なることが明らかになった。また、残っている歯の本数は、この関連にほとんど影響を与えていないものの、唯一、飽和脂肪酸の摂取量については歯の本数が少ない人のほうが多く摂取しているという。神奈川歯科大学歯科保存学講座の青山典生氏らの研究の成果であり、「Nutrients」に論文が掲載された。
野菜やおかずを先に食べると栄養素摂取量が変わる?
近年、口の中の健康状態と全身疾患の関連、とくに歯周病や残存歯数と心血管・代謝疾患との関連に関するエビデンスが蓄積されてきている。また、食事の順序が血糖や血清脂質に影響を及ぼすことも知られるようになり、糖尿病患者に対して「初めにサラダやおかずを食べるように」という栄養指導もよく行われている。それによって、インクレチン分泌が刺激されたり胃排出が緩徐になったりすることで、食後血糖抑制効果が期待される。ただ、食べる順序を意識する場合としない場合とで、栄養素の摂取量が異なるのかという点は十分検討されていない。
これを背景として青山氏らは、歯科受診患者を対象とする横断研究によって、食べる順序と栄養素摂取量の関係を検討した。また、残存歯数が少ないことも栄養素の摂取不足または偏りと関係している可能性もあるため、その点もあわせて検討した。
歯科受診者約240人を対象に横断研究
2018~21年に神奈川歯科大学附属病院を受診した20歳以上の患者のうち、研究参加の同意を得られた238人を解析対象とした。
アンケートで「食事の際に、野菜、肉や魚、主食(米、パン、麺類など)の順番で食べているか?」と質問し、「そう思う」、「ややそう思う」、「どちらとも言えない」、「あまりそう思わない」、「そう思わない」の五者択一で回答してもらった。このうち前二者を選択した177人(74.4%)を「食べる順序を意識している群」とし、その他を選んだ61人(25.6%)を「食べる順序を意識していない群」とした。栄養素摂取量は、簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)を用いて把握した。
食べる順序を意識する/しないで多くの栄養素摂取量に有意差
食べる順序を意識している群と意識していない群を比較すると、前者は若年で(68 vs 74歳)、女性が多く(69.5 vs 54.1%)、BMIが低く(22.7 vs 24.2)、残存歯数が多い(25 vs 23本)という有意差が認められた。歯周病の重症度やHbA1cには有意差がなかった。
栄養素摂取量については、以下のように、多くの項目で有意差が観察された。
主要栄養素では、脂質摂取量は食べる順序を意識している群のほうが有意に多く(摂取エネルギー比31.17 vs 30.42%)、炭水化物は反対に、意識していない群のほうが有意に多かった(50.00 vs 53.35%)。一方で食物繊維は、食べる順序を意識している群のほうが有意に多く摂取していた(8.11 vs 7.29g/日)。タンパク質については有意差がなかった。
微量栄養素では、ビタミンB1、B2、B6、葉酸、ビタミンC、α-トコフェロール、ビタミンK、カリウム、カルシウム、鉄、マグネシウム、亜鉛の摂取量に有意差があり、いずれも食べる順序を意識している群のほうが多かった。塩分の摂取量は有意差がなかった。
食べる順序を意識することが栄養素摂取量に独立して関連
次に、各栄養素の摂取量を目的変数、年齢と性別、および食べる順序を意識しているか否かを説明変数とする重回帰分析を施行。その結果、食べる順序を意識しているか否かの違いが、多くの栄養素の摂取量に独立して関連していることがわかった
続いて、説明変数に残存歯数を追加して解析したところ、結果はほとんど変化せず、同程度の標準化偏回帰係数(β)が示され、また残存歯数は有意な説明変数として残らなかった。これは、食べる順序を意識するかしないかの違いと栄養素摂取量との関連が、残存歯数に影響されないことを意味する。
ただし、飽和脂肪酸の摂取量のみは、残存歯数が有意な説明変数として抽出され、β=-0.148という負の関連が示された。これは、歯の本数が少ないほど飽和脂肪酸の摂取量が多いことを意味する。
食べる順序を意識することで栄養状態が改善する可能性
著者らは、本研究が横断研究のため因果関係は不明であること、解析に適切な研究参加者数を事前に予測していなかったこと、食事の質に影響を及ぼし得る社会経済的因子を考慮していないことなどの限界点があるとしている。そのうえで、「食べる順序を意識することが、栄養素摂取量と関連していた。野菜やタンパク質食品から食べ始めることで、栄養状態が改善される可能性があるのではないか」と結論づけている。
また、残存歯数の少なさと飽和脂肪酸摂取量の多さとの独立した関連が認められた点について、「これらは高齢者の慢性疾患や要介護リスクにつながる可能性があるため、適切な栄養指導と口腔メンテナンスが重要と考えられる」としている。
文献情報
原題のタイトルは、「Influence of Meal Sequence and Number of Teeth Present on Nutrient Intake Status: A Cross-Sectional Study」。〔Nutrients. 2023 Jun 1;15(11):2602〕
原文はこちら(MDPI)