回復期リハビリの運動療法に分岐鎖アミノ酸を加えると、筋肉の質が改善する
整形外科疾患の回復期リハビリテーション治療における分岐鎖アミノ酸(BCAA)の重要性を示唆する研究結果が報告された。入院中の運動療法にBCAAを上乗せすると、筋肉の質が改善するという。昭和大学保健医療学部リハビリテーション学科の池田崇氏らの研究によるもので、「Health Science Reports」に論文が掲載された。
回復期リハ病院入院中のBCAA摂取の有用性を探る
回復期リハビリテーション施設への入院中には、集中的なリハビリによって日常生活動作(activities of daily living;ADL)を高め、自宅退院へとつなげる介入がなされる。そのリハビリ介入の主軸は筋力強化のための運動療法を中心とした理学療法だが、患者自身の能動性が求められる運動療法は、筋力が大きく低下している場合に十分な負荷をかけられず、効果が限定的になってしまうことがある。
一方、近年、サルコペニアやフレイルという疾患概念が定着し、それらに対しては運動介入とともにタンパク質を主体とした栄養介入の有用性に関するエビデンスが蓄積されてきている。とくに分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)には筋タンパク質合成刺激作用があり、運動療法にBCAA摂取を加えることが、サルコペニアやフレイルの予防・改善につながる可能性が示唆されている。
ただし、これまでのところ、回復期リハ病院の入院中のBCAA摂取の有用性は十分検討されていない。池田氏らの研究はこの点を明らかにするため、以下の検討を行った。
BCAA vs プラセボのクロスオーバー試験
研究対象は、整形外科手術後または症状発現後に回復期リハビリテーション病棟に入院した20歳以上の患者89人。施行されていた手術はおもに、骨折や外傷後の整形外科手術、人工股関節置換術などだった。除外基準として、下肢骨折後の保存療法が行われている患者、免荷の必要な患者、食事制限の必要な患者(糖尿病や腎不全など)、運動療法を十分行えない患者(心血管疾患、認知症、うつ病など)が設定されていた。
研究デザインはクロスオーバー法で、年齢に差が生じないように考慮したうえで無作為に二分し、1群は最初に運動療法+BCAA条件(以下、BCAA条件)、他の1群は運動療法+プラセボ条件(以下、プラセボ条件)として1カ月間介入。1週間のウォッシュアウト期間を置いて条件を切り替え、1カ月間介入した。
介入方法と評価項目について
BCAA条件での栄養介入は、ロイシン、イソロイシン、リジンが含まれているエネルギー量17.6kcalのサプリメント(アミノエール)を運動療法の直後に摂取してもらった。プラセボ条件では4.8kcalのでんぷんの錠剤を摂取してもらった。エネルギー量が等しくない理由は、プラセボをBCAAと同等にするには22錠服用する必要があり、アドヒアランスに支障が生じることを回避するため。
運動介入は両群ともに、筋力トレーニング、ストレッチ、歩行やADL関連の運動という三つのセッションをそれぞれ20分、1日2回、理学療法室で行った。
主要評価項目は骨格筋の質と四肢の筋力であり、二次評価項目として機能的自立度評価(functional independence measure;FIM)スコア、タイムアップアンドゴーテスト(timed up and go test;TUGT)、栄養状態(摂取エネルギー量、血清アルブミン、総タンパク質)などを設定した。骨格筋の質は下肢(大腿直筋)のエコー検査で評価し、筋力は握力と下肢の等尺性筋力を評価した。なお、これらのほかに、3軸加速度計により消費エネルギー量を把握した。
BCAA条件で筋肉の質が改善
介入期間中に退院した人などを除外し、最終的な解析対象は30人(BCAA先行群が18人、プラセボ先行群が12人)だった。
ベースライン時点ではすべての評価指標に有意差なし
ベースライン時点の年齢は、BCAA先行群が75.7±17.8歳、プラセボ先行群が76.1±15.0であり有意差がなかった(p=0.94)。また、BMI、施行された手術内容、術後または症状発現後の入院日数、併存疾患数に有意差はなかった。介入中の摂取・消費エネルギー量、血清アルブミン、総タンパク質、腎機能、介入回数にも有意差はなかった。
また、骨格筋の質や四肢筋力、機能的自立度評価(FIM)スコア、タイムアップアンドゴーテスト(TUGT)の結果にも有意差がなかった。大腿直筋の質を表すエコー強度は、BCAA先行群が115.9±20.7au、プラセボ先行群が106.8±21.9auだった(p=0.26)。
1カ月間の介入でBCAA条件では大腿直筋の質が改善
最初の1カ月間の介入後の大腿直筋のエコー強度は、BCAA先行群が96.9±21.0au、プラセボ先行群が116.0±24.8auとなり、両条件間に有意差が生じていた(p=0.03)。なお、筋肉のエコー強度は低いほど筋肉内の脂肪が少なく、質が良好であることを意味する。
筋肉のエコー強度以外の評価指標は、大腿筋断面積も含めて1カ月の介入後にも条件間の有意差はみられなかった。エコー強度が低下し筋肉内の脂肪の減少が示唆されるにもかかわらず大腿筋断面積に有意な変化がないことから、筋肉量は増加したと考えられると著者らは述べている。
有害事象は発生せず
クロスオーバーから1カ月後、大腿直筋エコー強度はBCAA先行群では上昇、プラセボ先行群では低下し、最終的な条件間の差は非有意となった。介入条件による改善率で比較すると、BCAA条件では101.4±16.7%、プラセボ条件では94.2±18.0%であり、有意差が認められた(p=0.03)。
介入期間を通じて、有害事象は報告されなかった。BCAA摂取による腎機能への影響(尿素窒素やeGFRで評価)も認められなかった。
著者らは本研究の限界点として、無作為化割り付け後の脱落が多かったためバイアスリスクが比較的高い可能性のあること、および脱落者の多くが60歳未満であったことから、若年層も含めた一般化した解釈が制限されることなどを挙げている。そのうえで、「回復期リハ病院の入院中に、運動介入にBCAA摂取を上乗せすることの有用性が示唆された。より大規模な研究でのエビデンス確立が望まれる」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect and feasibility of the combination of branched chain amino acid and exercise therapy on muscle mass and echo intensity of muscle in orthopedic patients in a convalescent rehabilitation hospital: A crossover trial」。〔Health Sci Rep. 2023 Jun 5;6(6):e1316〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)