女性重量挙げ選手の尿失禁有病率は30歳以上で32% 29カ国800人以上を調査
女性重量挙げ選手の尿失禁の有病率と、リスク因子に関する調査結果が報告された。29カ国、800人以上の選手全体で、中等症以上の尿失禁の有病率は3割以上であり、身体活動量が適度に多い場合は低リスク、過度な場合は高リスクである可能性があるという。
急増する女性重量挙げ選手での尿失禁の実態を探る
不随意の尿漏れと定義される尿失禁は、女性でよくみられる症状であり、米国からは20歳以上の女性の有病率は48.1%、中等症以上に限っても27.8%と報告されている。一般集団における尿失禁のリスク因子として、加齢のほかに、BMI高値、出産回数、不安・抑うつなどとともに、身体活動が少ないことが挙げられており、低強度の身体活動が尿失禁リスクを低下させることが示唆されている。それに対して高強度運動の影響は明らかでなく、女性アスリート対象の調査では、ランナーで31%、球技で50%、体操で61%、水泳で15%などの有病率の報告があるが、筋力スポーツでの報告は少ない。
近年、女性の重量挙げ選手が劇的に増加してきている。例えば、世界マスター重量挙げ選手権大会ではその参加者の45%以上が女性で占められている。このような変化により、女性重量挙げアスリートの尿失禁は、潜在的に大きな問題となっている可能性があることから、本論文の研究者らはその実態を調査した。
29カ国、824人の回答を解析
この調査はオンライン調査として実施された。国際重量挙げ連盟(International Weightlifting Federation;IWF)を通じて29カ国のマスターチェアにアンケートが送られ、各国の組織を通じてアスリート個人に回答協力が呼びかけられた。アンケートは、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語の4カ国語で作られていた。
尿失禁の有病率を把握するという目的から調査対象を30歳以上とし、30~79歳の891人から回答を得た。これらのうち、年齢や妊娠歴、競技経験などが不明の選手、および妊娠中の選手を除外し、824人(年齢中央値41歳)を解析対象とした。
評価項目について
尿漏れの有無と症状については、頻度を「まったくない」、「月に1回未満」、「月に数回」、「週に数回」、「毎日または毎晩」から選択してもらい、また尿漏れの量を「なし」、「数滴」、「小さなしぶき」、「それ以上」から選んでもらって失禁重症度指数(Incontinence Severity Index;ISI)というスコアを計算。そのスコアに基づき、尿失禁なし、軽症、中等症、重症に分類した。また、「トレーニング中または競技中に尿失禁を経験したことがあるか?」という質問も加えた。
重量挙げのパフォーマンスは、過去半年での最高記録を質問し、年齢調整した値を用いて評価した。また、直近1年間に月経がない場合や疾患治療のために誘発された閉経を自己報告してもらった。加えて、現在の抑うつレベルについて、精度検証済み更年期評価尺度で評価した。
女性重量挙げ選手は一般集団より中等症以上の尿失禁有病率が高い
解析対象824人のうち、667人は米国、117人が欧州からの回答であり、その他は32人がオーストラリア、アフリカとアジアが各4人だった。何らかのスポーツを開始した年齢は10~14歳が20.0%であり、重量挙げを始めた年齢は25~44歳が多くを占めていた。
過半数に尿失禁症状
失禁重症度指数(ISIスコア)で判定した尿失禁症状は、なしが45.9%、軽症21.4%、中等症25.3%、重症7.4%であり、54.1%が何らかの尿失禁症状を有していた。年齢層別にみた有病率は大きな違いがなかった(30~44歳52.8%、45~59歳54.4%、60歳以上61.1%)。中等症以上の尿失禁の有病率は32.6%であり、未経産婦では23.1%だった。
トレーニングや競技中に尿失禁の生ずる状況としては、スクワット中(26.3%)やクリーン&ジャーク中(25.6%)などとする回答が多かった。
中等度以上の尿失禁のリスク因子
次に、ロジスティック回帰分析により、中等症度以上の尿失禁の独立した関連のあるリスク因子を検討。以下の結果が得られた。
全体解析の結果
全体解析では、BMI高値(値が5高いごとにOR1.25〈95%CI;1.06~1.47〉)、出産経験あり(OR2.69〈1.89~3.84〉)、抑うつ症状(OR1.36〈1.14~1.62〉)が有意に関連し、年齢と閉経は有意な関連がなかった。また、ウェイトリフティングを始める前に何らかの高負荷のかかるスポーツ(high-impact sports)を行っていた経験が、有意なリスク因子として抽出された(OR1.63〈1.032.58〉)。それに対して、ウェイトリフティングを始める前に何らかの筋力スポーツ(strength sports)を行っていた経験は、有意な関連がなかった。
未経産婦での解析結果
未経産婦アスリートに限った検討では、有意な関連が認められた因子は抑うつ症状(OR1.49〈1.13~1.99〉)のみであり、年齢、BMI、閉経は関連がなかった。
クリーン&ジャーク中の症状に関する解析結果
クリーン&ジャーク中に生じる尿失禁症状に限った検討では、BMI高値(値が5高いごとにOR1.22〈1.03~1.45〉)、出産経験あり(OR2.10〈1.44~3.07〉)、抑うつ症状(OR1.32〈1.10~1.59〉)が有意に関連し、一方、高齢であることは有意な保護因子だった(5歳高齢であるごとにOR0.83〈0.72~0.96〉)。閉経は有意な関連がなかった。
上記のほかに、トレーニング以外の身体活動量との関連では、その時間が週に4~5時間程度の場合に中等症以上の尿疾患の有病率が低下するものの、それ以上の時間を割いている場合には、有病率が上昇する傾向が認められた。ウェイトリフティングの経験年数や年齢調整後の競技成績は、有意な関連がなかった。
著者らは本研究が観察研究であるため因果関係は不明であるとしたうえで、「女性重量挙げ選手は、一般集団よりも中等症以上の尿失禁の有病率が高い。とくに、ウェイトリフティングを開始する前に影響の大きいスポーツを行っていた選手、抑うつレベルの高い選手はハイリスクであることが明らかになった」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sport-related risk factors for moderate or severe urinary incontinence in master female weightlifters: A cross-sectional study」。〔PLoS One. 2022 Nov 30;17(11):e0278376〕
原文はこちら(PLOS)