カフェインガムの急性効果、女子バレーボール選手のパフォーマンス向上に有意な結果
カフェインガムが、女子バレーボール選手の一部のパフォーマンス指標を向上させる可能性が報告された。エナジードリンクなどの飲料によるカフェイン摂取は、摂取後に消化管で吸収されて体循環に入るのに対して、ガムの場合はカフェインが頬の粘膜から直接血液中に吸収されるため、作用発現が早い。セット数によって試合時間が異なることのあるバレーボールでは、この点でカフェインガムの特徴が生きてくるという。
カフェイン飲料とガムの違い
3~6mg/kg程度のカフェイン摂取が、バレーボールのパフォーマンスに関連のあるジャンプ力などに対してエルゴジェニック作用を発揮することが報告されている。ただし、その効果を示した研究は、アスリートが疲労していない状態でのみ評価しており、検討条件が長時間に及ぶ実際の試合中のジャンプタスクを正確に反映していないとも考えられる。バレーボールは1試合で250回以上のジャンプを行うことがあり、またセット数が3~5の間で変化することも考慮する必要がある。
飲料として摂取されたカフェインは腸管から吸収されて、肝臓で初回通過効果を受けたのち作用を発揮する。この間、30分以上を要すると考えられているため、カフェイン濃度が高くなりすぎることによる有害事象を回避しつつ、メリットを得られる適切な血中濃度を維持するには、試合の展開を見ながら摂取量を調整しなければならない。
それに対してカフェインガムでは、頬の粘膜を通じてダイレクトにカフェインが体循環に入って作用を発揮すると考えられる。ガムとして投与されたカフェインの85%は、5分間の咀嚼で生物学的に利用可能になると報告されている。この点は、バレーボールのような試合時間が変化しやすい競技において有利な特徴である可能性が想定される。
そこで本論文の著者らは、カフェインガムとして投与された約6mg/kgのカフェインの急性効果を、ジャンプ力やシミュレーションした試合中のパフォーマンスにより評価した。
プラセボ対照二重盲検クロスオーバー法で検討
既報研究に基づき、カフェインの有効性を統計学的に証明するには最低5人の被験者が必要と計算された。後述のように、試合をシミュレーションするテストを行うことから、研究中の脱落を考慮して12人の女子バレーボール選手が募集された。年齢は20±2歳、競技歴10±2年、習慣的なカフェイン摂取量2.7±2.1mg/kg/日。
適格条件は、筋骨格系疾患がなく、前月以降に結果に影響を及ぼし得るサプリメント(β-アラニン、クレアチンなど)を摂取しておらず、カフェインアレルギーのない、健康な非喫煙者。12人全員が、ポーランドのナショナルリーグに所属している同じクラブの選手だった。なお、12人中6人は黄体期、他の6人は卵胞期にテストが行われたが、パフォーマンスの有意差はないとする既報研究が存在することから、月経周期を考慮せずに解析した。
試験デザインは、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー法。試験期間は競技シーズン終了直後だった。プラセボ条件とカフェイン条件の試行には72時間以上のウォッシュアウト期間を設けた。また、各条件の試行の24時間前からは、栄養士によって管理された同一の栄養パターンの食事を摂るように指示し、激しい運動、カフェイン・アルコール摂取を禁止した。
テスト内容は、ボールを使わずに、最も慣れている動作でのアタックジャンプの高さと、ブロックジャンプの高さ、およびシミュレートされた試合でのパフォーマンス。なお、ジャンプ力の評価は、試合前と試合後の2回実施した。
後者のシミュレートされた試合については、プラセボ条件の選手とカフェイン条件の選手が入り混じった状態で行われ、2台のカメラで撮影。研究目的を知らされていない経験豊富なオブザーバーが、各選手のサービスポイント、サービスエラー、アタックポイント、アタックエラー、ブロックポイントなど8項目をスコア化した結果を解析に用いた。
各条件の摂取プロトコル
両条件ともに、通常のトレーニング開始時刻である午後4時にジムに入り、カフェイン400mgを含むガム、またはプラセボガムが渡され、5分間咀嚼したのち口から出し、15分間の通常のウォームアップ、5分間のランニング、およびストレッチ等を行ってもらった。その後、前述の方法でパフォーマンスを評価した。
なお、400mgというカフェイン用量を体重換算すると6.0~6.6mg/kgとなった。6.0mg/kgで統一しなかった理由は、ガムという特性上、アスリートの体重に合わせた大きさに正しい用量となるようカットすることが困難であったため。
カフェインガム、プラセボガムともに市販のものを用いた。両者はできるだけ味や色が似ているものを選択した。それらを細かくカットした状態で不透明の容器に入れ、被験者に手渡した。被験者に加え、現場の研究者も中身がどちらかを知らされていなかった。
アタックジャンプの高さで有意差
では結果だが、アタックジャンプの高さは、試合前はプラセボ条件が46.0±7.9cm、カフェイン条件は47.2±7.3cmで後者のほうが有意に高値だった(p=0.032)。試合後の評価では同順に、46.3±8.3cm、47.5±7.5cmであり、やはりカフェイン条件のほうが有意に高値だった(p=0.022)。
ブロックジャンプの高さは、試合前はプラセボ条件が32.6±5.7cm、カフェイン条件は33.0±4.5cm、試合後は同順に34.8±6.4cm、34.7±6.2cmであり、いずれも条件間の有意差はなく、また、いずれも試合前より試合後のほうが有意に高値だった。
試合のシミュレーションの評価結果には、有意差はみられなかった。
副作用は1人に発現。パフォーマンスの自己認識は有意差なし
このほか、パフォーマンスの自己評価についても条件間の有意差はみられなかった。
プラセボ条件では有害事象は皆無であり、カフェイン条件では1人が手の震えを報告した。
著者らは、「カフェインガムによってアタックジャンプのパフォーマンスが有意に向上した。また、副作用の発現率は低かった。ただし、ブロックジャンプやシミュレートした試合中の客観的評価には有意差がなかった。ふだん習慣的にカフェインを摂取していた本研究の被験者では、カフェインガムの有効性はエナジードリンクやカフェインカプセルに比較し、限られたものであるようだ」との結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Acute Effects of Caffeinated Chewing Gum on Volleyball Performance in High-Performance Female Players」。〔J Hum Kinet. 2022 Nov 8;84:92-102〕
原文はこちら(Sciendo)