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陸上競技の指導者はアスリートの摂食障害をどのくらい認識できているのか?

陸上競技のコーチがアスリートの摂食障害を正確に特定する力は高くないかもしれないが、専門的な治療を受けるようにアドバイスをする可能性は高いとする研究結果が報告された。また、コーチ経験の長さや、メンタルヘルスリテラシーの高さが、アスリートへのそのようなアドバイスに関連しているという。英国とアイルランドの研究者の報告。

陸上競技の指導者はアスリートの摂食障害をどのくらい認識できているのか?

やせているほうが有利なことのある競技で多い摂食障害

やせていることが試合で有利となることの多いスポーツのアスリートは、不健康な食行動のリスクが高い。例えば陸上競技の選手は、乱れた食行動(disordered eating;DE)や摂食障害(eating disorder;ED)のハイリスク集団とされる。DEやEDにオーバートレーニングが重なると、容易にスポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S)の状態となり、健康への深刻かつ長期的な影響のリスクが高まる。

一方、コーチはアスリートにとって最も身近な存在と言え、アスリートのDEやEDを見いだし、適格な助言や対応を行うことが期待される。ただ、これまでにコーチがアスリートのDEやEDを見いだす力や、DEやEDのアスリートにどのような対応をとるかという調査はなされていない。

摂食障害やRED-Sを表す架空の設定を示して対応力を調査

この研究の参加者は、英国またはアイルランドで陸上競技のコーチとしての資格を有している18歳以上のコーチ185人。摂食障害を来しているアスリートを描写した複数の状態(架空の設定)を示し、それがどのような状態か、また、どのように対応すべきかを質問した。対照群として、コーチ資格を有さない一般成人105人を設定し、同様の質問を行い、この対照群とコーチ群との差や、設定アスリートの性別による差などを検討した。

摂食障害の架空の設定とは、例えば、食事を制限しながら高いトレーニング負荷を維持し、足に痛みを訴えているアスリートといったもの。この場合、足の痛みは骨損傷の発生を意味し、RED-Sの状態にあることを示している。アスリートの名前は女性の名前と男性の名前にして、女性であれば過去6カ月間にわたって月経がないという情報、男性であれば近ごろ軽い病気にかかることが多いといった情報を追加した。

摂食障害のタイプは、神経性食欲不振症(anorexia nervosa;AN)のパターンの設定と、神経性過食症(bulimia nervosa;BN)のパターンの設定を提示した。

また、35項目の質問からなる調査票で、メンタルヘルスリテラシー(mental health literacy;MHL)を評価した。

研究参加者の特徴

コーチ群185人は、平均年齢46.12±11.99歳(範囲18~77歳)、男性53.5%であるのに対して、対照群は24.27±7.62歳(18~55歳)、男性34.3%であり、後者のほうが若年で女性が多かった。

一方、メンタルヘルスリテラシー(MHL)は、コーチ群128.84±10.85、対照群131.00±10.74であり有意差はなかった(p=0.13)。

コーチ群と対照群とで摂食障害の特定に至るオッズ比に有意差なし

結果について、まず、コーチ群と対照群を区別せずに全参加者の回答をみると、神経性食欲不振症(AN)の設定では184人(65%)の参加者が、提示されたアスリートが摂食障害(ED)であると特定。そのうち105人はANとまで特定し、さらに7人はRED-Sも指摘した。一方、神経性過食症(BN)の設定では、120人(45%)がEDと特定し、そのうち32人はBNまで特定、さらに2人はRED-Sも指摘した。

全体として、BNよりもANの設定を提示した時に、EDであると特定するオッズ比が高かった(OR4.67〈95%CI;2.66~8.20〉)。

提示される設定が女性だと、EDの特定に至りやすい

次に、上記の結果を回答者がコーチ、回答者が女性の対照群、提示する設定が女性アスリートというケースごとに、摂食障害(ED)の特定に至るオッズ比をみると、コーチはED特定のオッズ比が対照群全体と有意差がなかった。

それに対して、対照群の中で女性の回答者は、神経性食欲不振症(AN)によるEDの特定(OR1.95)と、神経性過食症(BN)によるEDの特定(OR1.82)のオッズ比が有意に高かった。また、提示する設定が女性アスリートの場合、ANによるEDの特定のオッズ比が有意に高かった(OR2.26)。

コーチのMHLは神経性過食症特定のオッズ比の高さと関連

続いて、コーチ群について、メンタルヘルスリテラシー(MHL)の高低、コーチの資格レベル、週あたりのコーチングセッション数、有給かボランティアか、およびコーチ経験年数という因子と、ED特定のオッズ比との関連を検討。すると、MHLのみが、神経性過食症(BN)によるED特定のオッズ比の高さと関連していた。

具体的には、MHLが高いことにより、BNによるED特定のオッズ比が1.05(1.01~1.09)であり、BNにまで特定に至るオッズ比が1.06(1.00~1.12)だった。なお、MHLも含め、神経性食欲不振症(AN)によるEDの特定と関連のある因子はみられなかった。

コーチは、受診を勧める助言のオッズ比は有意に高い

最後に、アスリートに対して専門家のもとで治療を受けるように助言するという行動について、同様に検討した。

アスリートが神経性食欲不振症(AN)の設定では、コーチ群で助言に至るオッズ比の有意な上昇が認められた(OR1.82)。また、メンタルヘルスリテラシー(MHL)が高い場合も、助言に至るオッズ比が有意に高かった(OR1.04)。

一方、神経性過食症(BN)の設定では、MHLの高さは有意な関連があったが(OR1.04)、コーチ群で助言に至るオッズ比の有意な上昇は認められなかった。

コーチのMHLと経験年数が受診勧奨のオッズ比の高さと関連

コーチ群の中で、メンタルヘルスリテラシー(MHL)の高低、コーチの資格レベル、週あたりのコーチングセッション数、有給かボランティアか、およびコーチ経験年数という因子と、アスリートへ受診を促すという行動のオッズ比との関連を検討。すると、MHLとコーチ経験年数が、神経性食欲不振症(AN)、神経性過食症(BN)双方のアスリートに対する受診勧奨のオッズ比の有意な高さと関連していた。

具体的には、MHLが高いことにより、ANのアスリートへの受診勧奨のオッズ比が1.06(1.02~1.11)であり、BNのアスリートへの受診勧奨のオッズ比は1.08(1.04~1.14)であった。また、経験年数が長いことにより同順に、OR1.12(1.03~1.24)、1.07(1.01~1.16)だった。

以上より著者らは、「陸上競技コーチ資格取得のフレームワークには、アスリートの乱れた食行動(DE)や摂食障害(ED)に焦点を当てたメンタルヘルスリテラシー(MHL)プログラムを組み込むべき」であり、「教育と介入の取り組みに際しては、男性アスリートもDEやEDを発症するリスクがあることに留意する必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Investigating coaches’ recognition of symptoms of eating disorders in track athletes」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2022 Aug 18;8(3):e001333〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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