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就学前から小学生低学年の肥満・やせが9歳時点の学業成績に関連 オーストラリアの縦断研究

幼少期のBMIカテゴリーやZスコアの変化と学業成績の間に有意な関連があるとする、縦断研究の結果がオーストラリアから報告された。肥満の場合、同国の全国テストのスコアが低いという関連のほかに、やせ(低体重)の場合にも一部のテストのスコアが低いという関連が認められたという。

就学前から小学生低学年の肥満・やせが9歳時点の学業成績に関連 オーストラリアの縦断研究

小児期の肥満と学業成績の関連

現在、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development;OECD)加盟国の子どもの6人に1人は過体重または肥満に該当する。小児期の肥満は成人後の肥満につながりやすく、生涯の疾患リスクを高める可能性が指摘されている。それだけでなく、小児肥満が学業成績の低さと関連があるとする報告もみられる。ただし、その点についての研究結果は一貫性がない。また、大半は横断研究であり、肥満が学業成績低下の理由であるとすることはできていない。そこで本論文の著者らは、幼少期のBMIとその変化が、オーストラリアの全国統一テストのスコアに関連を与えているか否かを縦断的に検討した。

なお、論文のイントロダクションの中で著者らは、肥満が学業成績に影響を及ぼすとしたら、そのメカニズムはどのようなものが想定されるかをまとめている。それによると、級友からの傷つくような発言、例えば体重に関するからかいや軽蔑的なあだ名などが自尊心と自己効力感を低下させ、学業不振につながる可能性があるという。また、教師も肥満の小児に対する陰性感情を抱くことがあり、否定的な態度で接する可能性があることも、前記の経路による学業不振を招きかねないとのことだ。加えて肥満している子どもは欠席が多いことが知られており、それも成績に影響を与えるだろうと述べている。

オーストラリアの全国共通学業テストのスコアとの関連を検討

この研究は、同国メルボルン都市圏に存在するさまざまな社会経済地域から抽出された、65の幼稚園と71の保育園で実施されている縦断的コホート研究(Healthy Active Preschool and Primary Years;HAPPY)の参加者を対象に行われた。HAPPY研究では、子どもたちが就学前の3~5歳の時と、就学後の6~8歳の時の二度にわたり、BMIが測定された。そのBMIのカテゴリー(やせ〈低体重〉、普通体重、肥満〈過体重を含む〉)およびZスコアと、9歳時点での同国の全国学業テスト(National Assessment Program – Literacy and Numeracy;NAPLAN)のスコアとの関連を横断的に解析。また、2回のBMI評価結果の変化幅とNAPLANスコアとの関連を縦断的に解析した。なお、NAPLANは、読解、作文、計算などの5領域をテストし、合計1,000点にスコア化し評価する。

BMIカテゴリーとその変化

3~5歳時点(T1)の調査と、6~8歳の時点(T2)の調査の双方に参加し、かつ9歳時点のNAPLANスコアのある392~396人を解析対象とした(解析項目によって対象者数が異なる)。

BMIカテゴリーの分布は、T1調査の男児は普通体重が80%、肥満が16%、低体重が4%。女児は同順に80%、15%、5%。T2調査では男児が普通体重85%、肥満12%、低体重4%。女児は79%、16%、5%。

T1調査とT2調査ともに普通体重だったのは男児78%、女児77%、ともに肥満だったのは同順に7%、11%。T1では非肥満だったのがT2で肥満となったのは、6%、6%、反対に肥満であったものが非肥満となったのは、10%、6%だった。

全体的に女児は肥満と学業成績低下の関連が男児よりも強い傾向

結果に影響を及ぼし得る因子(子どもの年齢、兄弟の数、母親のBMI、教育歴、世帯構成〈片親かふた親か〉など)を調整後、T1やT2のBMIおよびそのカテゴリーの変化と9歳時点のNAPLANスコアの一部との間に、以下のような有意な関連が認められた。

BMIのZスコアとの関連:女児は男児より多くの項目で有意な関連

まず、BMIのZスコアとの関連をみると、男児については横断的な解析では、T1、T2いずれのBMI zも、9歳時点の学業成績であるNAPLANスコアとの間に有意な関連がなかった。ただし、T1からT2にかけてのBMI zの変化量(Δ)との関連という縦断的な解析からは、一部に有意な結果が示された。具体的には、ΔBMI zは計算力(β=-17.20)と言語力(β=-15.58)、および総達成度(β=-12.17)の低さと関連していた。

女児では男児よりも、より多くの有意な関連が示された。例えば横断的な解析でも、T1のBMI zが言語力(β=-13.68)の低さ、T2のBMI zが計算力(β=-17.32)、筆記力(β=15.11)、言語力(β=-21.16)、総達成度(β=-12.68)の低さと関連し、かつ、ΔBMI zは計算力(β=-22.40)、読解力(β=-18.10)、筆記力(β=-21.91)、および総達成度(β=-17.62)の低さと関連していた。

BMIカテゴリーとの関連:やせ(低体重)も学業成績の低さと関連

次にBMIカテゴリーとの関連をみると、横断的な解析では、男児はT1からT2ともに、肥満と学業成績との間に有意な関連が認められなかった。その一方で、T2調査で低体重であることは作文の能力(β=-68.32)の低さと有意な関連があった。

女児については、T1時点で肥満に該当する場合、言語力(β=-33.37)と総達成度(β=-19.14)が有意に低いという有意な関連があり、一方、T2時点では肥満との有意な関連がなく、他方、低体重が読解力(β=-45.47)の低さと関連していた。

T1からT2にかけてのBMIカテゴリーの変化との関連という縦断的な解析からは、男児では新たに肥満となった場合に、筆記力(β=-38.76)と総達成度(β=-27.70)が有意に低いという関連が認められた。一方、女児では肥満から非肥満となった場合に、読解力(β=-39.25)が有意に低いという関連がみられた。

より堅牢なデザインでの追試が必要

著者らは、本研究の限界点として、最終的な解析に利用可能だった対象が、研究参加協力を呼び掛けた対象の1割程度と少なく、選択バイアスが存在する可能性があること、実際に本研究の肥満有病率は12~16%でありオーストラリアの全国平均である25%よりも低く、母親の63%が大学卒であり、同国の一般人口を代表していないことを挙げている。また、2回の調査時点でのBMIの変化が少なく、肥満の改善や悪化の影響を十分に検討できなかったとしている。

結論としては、「過体重や肥満の学業成績との関連は、男児よりも女児で顕著に認められ、女児に対する介入の必要性が示された。ただし、本研究の結果は、より大規模で堅牢なデザインでの研究で検証する必要がある」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Longitudinal associations between weight status and academic achievement in primary school children」。〔Pediatr Obes. 2022 Sep 21;e12975〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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