レストランのメニューにCO2排出量を表示すると、地球にやさしいメニューが選ばれやすい
地球温暖化に漠然と不安を抱いている人は少なくないだろう。しかし、対策として自分が何をすればよいのかわからないという人が多いのではないだろうか。そんな人たちは、少し後押しされれば、温暖化防止に向けたアクションを起こす可能性がある。レストランのメニューに、二酸化炭素(CO2)排出量の多寡をわかりやすい色付きラベルで表示すると、多くの人はCO2排出量が少ないメニューを選択することがわかった。
ナッジを用いてSDGsの達成に近づける
外食産業が、その国の人々の健康に影響を及ぼしていることが、複数の研究結果として示されている。また近年では、国連が提起した「持続可能な開発目標(sustainable development goals;SDGs)」のためにも、外食産業が大きな役割を演じることが期待されている。ただし、現状ではそのための動きは遅々としており、外食産業はSDGs達成のマイナス要因として捉えられている。
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一方、外食産業の利用者も、SDGsが気になるとは言いながら、現状では結局のところ、好きなメニューやコストパフォーマンスの良いメニューを注文することが多いと言えるだろう。しかし、外食店利用者のSDGs志向をわずかに刺激するという、行動科学の知見に基づき「ナッジ」(わずかに後押しする行為)が、この問題の解決につながる可能性がある。本論文の研究者らは、その可能性の実証を試みて、以下のシミュレーションを行った。
CO2排出量ラベルなし/ありの2種類のメニューで来客の注文は変わるか?
この研究の参加者は、ソーシャルメディア(Facebook、Instagram)での募集に応募した、ドイツ在住の一般市民265人。参加者に、価格のみのメニュー、または価格に加えてCO2排出量がラベル付けされたメニューを無作為に提示。選択されるメニューに差が生じるか否かを検討した。
用意したメニューは合計9種類のカテゴリーからなり、そのうち6種類はメインディッシュを1つ選び、かつ、サイドメニューを加えることも可能だった。料理のジャンルは、ハンバーガー、中華、ドネルケバブ(トルコ料理)、インド料理、メキシカン、オリエンタル。他の3種類は単品メニューで、ジャンルはドイツ料理、ギリシャ料理、イタリア料理。
CO2排出量については、高排出量の場合(1.29~3.05kg CO2e.eはequivalentの略。地球温暖化係数〈global warming potential;GWP〉を用いてCO2相当量に換算した値)は「赤」、中程度の場合(0.64~1.84kg CO2e)は「黄色」、低排出量の場合(0.13〜1.38kg CO2e)は「緑」、でラベル付けした。
9種類すべてのカテゴリーの料理に「赤」、「黄色」、「緑」のオプションがあり、来客は自由な組み合わせを選択できた。例えば中華料理のメニューには、食材を牛肉(赤)、鶏肉(黄色)、豆腐(緑)の中から選択できた。また、ドイツ料理やギリシャ料理、イタリア料理のメニューには、玉ねぎのビーフロースト(赤)、ザジキのジャイロ(黄色)、野菜中心のスパゲッティ(緑)など。
なお、本研究はシミュレーションとして実施され、実際の料理は提供しなかった。
排出量ラベルありのメニューを提示すると、CO2排出量が310g減少する
研究に参加した265人の平均年齢は35.78±12.89歳であり、女性が81%を占め、ベジタリアンが7.5%含まれていた。
解析の結果、価格だけでなくCO2排出量がラベル付けされたメニューが提示された場合、人々の選択するメニューは価格だけのメニューを提示された時に比べて、高排出量メニューからの選択が有意に減り、低排出量メニューからの選択が有意に増えた。そして、注文内容のCO2排出量は、CO2排出量がラベル付けされたメニューが提示された場合、310g減少することが明らかになった。
このほか、男性は女性よりCO2排出量の多いメニューを選択する傾向があり、また、ふだん肉料理を食べる頻度が高い人はCO2排出量の多いメニューを選択する傾向があった。ただし、いずれについても、CO2排出量ラベル付けメニューの提示により、CO2排出量が少ないメニューが選択されることがわかった。
メニューには、栄養スコアと環境負荷スコアを併記すべきか?
欧州のいくつかの国では、レストランのメニューに栄養素スコアをラベル表示する試みが実施され、来店客の健康維持・増進に対する有用性が既に報告されている。本論文の著者らは、健康維持と生態系への負荷の双方を組み合わせたラベルを開発し、その有用性を評価すべきではないかと提言している。
文献情報
原題のタイトルは、「How can carbon labels and climate-friendly default options on restaurant menus contribute to the reduction of greenhouse gas emissions associated with dining?」。〔PLOS Clim. 2022 May 11;1(5): e0000028〕
原文はこちら(PLOS)