子どもの頃にスポーツ漫画を読んでいると、成人後の活動量が多く、メンタルも良好に 中国のWeb調査
子どもの頃にスポーツ漫画を読むという体験が、小児期の身体活動ばかりでなく、大人になってからの身体活動の多さと関連しているという研究結果が報告された。さらに、小児期および成人後の身体活動の多さが、成人後のうつや不安レベルの低さと関連しているという。中国からの報告。
小児期に身についた習慣は、成人後の長期的な健康に影響を及ぼす
身体活動が健康に良いことは誰でも知っている。また、からだを動かすと、ストレスが軽くなり、メンタルヘルス上の問題も少なくなる。その効果を実感したことのある人は決して少なくないだろう。
それでも身体活動を始めたがらない人がいる。世界的にはむしろ、一般人口の身体活動レベルが低下している傾向が報告されている。
一方、小児期はスポーツへの関心を高める重要な時期とされる。子どもの頃のスポーツへの参加によってその関心が高まり、身体活動の習慣が自然と身についていく可能性がある。そのような習慣は成人後も長期にわたって維持され、心身の健康を保護するように働くと考えられる。
では、小児期のスポーツへの関心の高さは、何が左右するのだろうか?
今回紹介する論文の著者らは、その答の一つは、子どもの頃にスポーツ漫画を読むという体験にあると仮定した。そして、子ども時代にスポーツ漫画を読むことが、小児期のスポーツ参加の頻度や成人後の身体活動を増やし、それによって成人期のメンタルヘルスが良好になるのではないか、とのパスウェイの存在を想定し、バス解析による検討を行った。
約1,200人の成人にwebアンケート
この研究のためのアンケート調査は、2021年9月にインターネットを通じて中国で実施された。まず、大学生50人が募集され、SNSなどを介してスノーボール方式で回答協力者を増やしていった。年齢は18歳以上とした。
最終的な解析対象は1,202人(男性66.47%)で、年齢は27.48±7.11歳。
質問項目とその回答
アンケートの質問項目とその回答は以下のとおり。
子どもの頃にスポーツ漫画を読んだ経験
「子どもの頃(12歳以下)、スポーツの漫画をどのくらいの頻度で読んだか?」という質問に対する回答を「全く読まなかった」~「ほぼ毎日読んでいた」から選択してもらい、6点満点のリッカートスコアで評価した。
集計結果は、「全く読まなかった(never)」7.57%、「ほとんど読まなかった(seldom)」15.97%、「まれに読むことがあった(occasionally)」25.79%、「時々読んでいた(sometimes)」28.12%、「よく読んでいた(usually)」10.23%、「ほぼ毎日読んでいた(almost every day)」12.32%。
子どもの頃のスポーツ体験
「子どもの頃、どのくらいの頻度でスポーツに参加したか?」という質問に対する回答を、上記と同様のリッカートスコアで評価した。
集計結果は上記と同順に、3.16%、17.30%、29.28%、34.44%、6.40%、9.40%。
現在のメンタルヘルス状態
現在のうつレベルを患者健康質問票(Patient Health Questionnaire;PHQ-9)、不安レベルを全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)質問票(GAD-7)を用い、過去2週間での各種症状の出現頻度を「全くない(0点)」~「ほぼ毎日(3点)」で回答を得て評価した。
集計結果は、うつレベルが合計27点満点中4.99±5.08点、不安レベルは合計21点満点中4.27±4.63だった。
現在の身体活動習慣
前月の身体活動の頻度と強度について、それぞれ1~7点のリッカートスコアで評価した。集計結果は、頻度が3.45±1.85点、強度は2.55±1.41点だった。
公衆衛生戦略にスポーツ漫画を!
パス解析の結果、子ども時代にスポーツ漫画を読むという体験が、小児期のスポーツ参加や成人後の身体活動、メンタルヘルス状態に、以下のような有意な影響を及ぼしていることが明らかになった。
- 小児期のスポーツ漫画の読書頻度が高いほど、小児期のスポーツの参加頻度が高い(β=0.302,p<0.001)
- 小児期のスポーツの参加頻度が高いほど、成人期の身体活動が多い(β=0.377,p<0.001)
- 小児期のスポーツ漫画の読書頻度が高いほど、成人期の身体活動が多い(β=0.114,p<0.001)
- 小児期のスポーツの参加頻度が高いほど、成人期のうつレベルが低い(β=-0.087,p=0.014)
- 小児期のスポーツの参加頻度が高いほど、成人期の不安レベルが低い(β=-0.095,p=0.004)
- 小児期のスポーツ漫画の読書頻度が高いほど、成人期のうつレベルが低い(β=-0.041,p<0.001)
- 小児期のスポーツ漫画の読書頻度が高いほど、成人期の不安レベルが低い(β=-0.044,p<0.001)
なお、性別による小児期のスポーツ漫画の読書頻度への有意な影響が認められ、男児は女児よりもスポーツ漫画の読書頻度が高かった(β=-0.117,p<0.001)。ただし、小児期のスポーツの参加頻度へは、性別による有意な影響は認められなかった。
また、年齢は成人期のうつレベル(β=-0.166)と不安レベル(β=-0.139)に有意に負の影響を及ぼしていた(高齢であるほど、うつや不安のレベルが低かった。いずれもp<0.001)。
これらの結果を著者らは、「子どもの頃にスポーツ漫画を読む経験が、成人期の身体活動と精神的健康を間接的に促進する可能性があることを示唆するもの」とし、「政策立案者は、一般市民の身体活動を促す公衆衛生戦略として、優れたスポーツ漫画を利用すべきではないか」と提言している。
文献情報
原題のタイトルは、「Can sports cartoon watching in childhood promote adult physical activity and mental health? A pathway analysis in Chinese adults」。〔Heliyon. 2022 May 14;8(5):e09417〕
原文はこちら(Elsevier)