レストラン経営者は利用客の健康やSDGsを、どのように考えて経営しているのか?――国内横断研究
外食が肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病のリスクを押し上げていることは、長年指摘され続けている。また、食品廃棄物の多くが外食産業で発生しており、「持続可能な開発目標(sustainable development goals;SDGs)」の達成を阻む要因となっている。国民の健康維持・増進や、SDGsの一部の目標の達成可能性の鍵を、外食産業が握っていると言っても過言ではない。では、レストランの経営者は、このような問題をどの程度認識しているのだろうか? お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系の赤松利恵氏らが、国内のレストラン経営者を対象に行った調査から、その実態が報告された。
日本人の健康と環境の未来は外食産業が左右する?
調査結果をみる前に、この研究のバックグラウンドをもう少し掘り下げてみよう。
国内では全年齢の男性の約4割、女性の約3割が週に1回以上、外食を利用していて、20~50歳の男性ではその割合が約5割に上る。外食で提供されているメニューは概して、高エネルギー、高脂肪、高食塩であり、実際に外食頻度が高い人は肥満該当者が多いことを示すデータもある。
また、利用客の満足度を高め、コストパフォーマンスの良さを強調するには、提供する料理の量をできるだけ増やすことが求められる。結果として食品廃棄物が増える。食品廃棄物のリサイクル率は、食品製造業では95%であるのに対して、外食産業は32%にすぎないと報告されている。
一方、生活習慣病の増加を抑止し、食品廃棄物を減らすことを目的として日本は、「健康日本21」の策定や「食育基本法」の制定などの国レベルの対策を進めている。外食利用者が増えている現代、これらの実現は、外食産業の協力ないしはマーケティングのパラダイムシフトが起きなければ達成が困難だ。
赤松氏らはこのような背景のもとで、レストラン経営者が「健康的な体重の維持」、「食品廃棄物の削減」という2つの国家目標をどの程度意識しているかを調査し解析した。
400人近いレストラン経営者を対象に調査
この調査の実施期間は新型コロナ感染症パンデミック前の2019年5月28~30日で、調査会社のデータパネルを用いたインターネットによる横断調査として行われた。
対象はハレの日の利用が多い店舗を除いた昼食を提供しているレストランの経営者であり、年齢や性別、外食業界での経験年数、店舗(企業)の規模などとともに、「健康的な体重の維持」と「食品廃棄物の削減」という国家的な2大目標への取組みの状況を質問した。
なお、夕食のみを提供しているレストランは解析対象から除外した。理由は、レストランでの夕食は人々の食生活の一部というより、何らかのイベントとして利用されることが多いためである。また、回答者が複数の店舗を経営している場合、昼食の売上が最も大きな店舗について回答してもらった。
回答者の主な特徴
412人の回答者のうち387人(93.9%)が適格と判断され解析対象とされた。69.0%が40~50代で男性が73.9%、56.6%は外食業界での勤務経験が20年以上だった。店舗の規模については、大半(87.1%)が従業員数5人未満の小規模店舗の経営者だった。
また、約3分の1(35.4)%の経営者は、栄養学の履修経験を有していた。一方、店舗(企業)の運営に栄養士が関与しているとの回答は、6.6%にとどまっていた。
SDGsの認識については、74.7%が「聞いたことがない」、10.9%が「聞いたことはあるが内容はわからない」と回答。「SDGsの実践を心がけている」のは2.8%にすぎなかった。ただし本調査の実施時期は前述のとおり2019年5月であり、SDGsの認知度は2020年過ぎから顕著に上昇していることが報道されている。
食品廃棄物削減については約6割が、実践中または準備中
では、本題である、「健康的な体重の維持」と「食品廃棄物の削減」という2大目標への取組みの状況をみてみよう。
なお、本調査では、目標への取組み状況を、「すでに行動を起こしている」、「行動を起こす予定」、「まだ計画していないが行動を起こしたい」、「行動を起こすのが難しい」、「その目標は自分に無関係」から五者択一で回答してもらっている。解析に際しては、前三者を「より高い準備ができている」と定義し、後二者を「準備ができていない」と定義した。
「健康的な体重の維持」への取組みの状況
32.6%が「より高い準備ができている」に該当し、67.4%は「準備ができていない」に該当した。
「食品廃棄物の削減」への取組みの状況
61.0%が「より高い準備ができている」に該当し、39.0%は「準備ができていない」に該当した。
栄養学の履修や栄養士の関与の有無などで、取組み状況に有意差
「健康的な体重の維持」と「食品廃棄物の削減」の双方に対して「より高い準備ができている」のは29.2%、双方の「準備ができていない」のは35.7%であり、残りの35.1%は、いずれか一方のみ「より高い準備ができている」に該当していた。この傾向は、回答者の年齢や外食産業での経験年数、店舗(企業)の規模別に比較しても、とくに有意差はみられなかった。
一方、回答者が栄養学の履修経験を有している場合や、店舗(企業)の運営に栄養士が関与している場合には、双方の目標に対して「より高い準備ができている」割合が有意に高いことがわかった。また、SDGsの認識レベルで比較した場合も、同様の結果が得られた。
経営規模、SDGsの認識が、独立した関連因子
続いて、「健康的な体重の維持」と「食品廃棄物の削減」の双方に対して「より高い準備ができている」ことを従属変数、回答者の特徴を独立変数とするロジスティック回帰分析を施行。年齢、性別、店舗の地域を調整後、以下に記すように、店舗(企業)の規模、SDGsの認識が、それぞれ独立して「より高い準備ができている」ことに関連していることがわかった。
店舗(企業)の規模については、従業員数5人未満を基準として、それ以上の規模ではOR2.27(95%信頼区間1.11~4.62)。SDGsの認識については「SDGsという言葉を聞いたことがない」を基準として、それ以外の場合はOR4.06(2.36~6.88)。
なお、店舗(企業)の運営に栄養士が関与していることや、栄養学の履修経験を有することは、単変量解析では有意ながら多変量解析では有意ではなかった。外食産業の経験年数は単変量解析でも有意ではなかった。
SDGsを知ることがスタートラインになる可能性
以上一連の結果をもとに著者は、「食品廃棄物を抑えるという国家目標の達成に貢献するための行動を開始している国内のレストランは、ごくわずかである結果が示された。SDGsへの注目が高まる中、これらの目標達成のために外食産業の企業責任も問われるのではないか」とまとめている。
また、2大目標への取組みに、店舗(企業)の規模、およびSDGsを認識していることがそれぞれ独立して関与していることから、「たとえ小規模店舗であっても経営者のSDGsの認識次第で、目標達成への行動につながる可能性が高い」と期待を述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Restaurant managers’ readiness to maintain people’s healthy weight and minimise food waste in Japan」。〔BMC Public Health. 2022 Apr 26;22(1):831〕
原文はこちら(Springer Nature)