ジュニア相撲選手の健康状態は大丈夫? 肥満児と比較した研究 筑波大など
ジュニア相撲の選手は肥満体型だが、健康面の心配はないのだろうか? このような疑問を漠然と抱いている人は少なくないだろう。その疑問の一つの答となる研究データが報告された。筑波大学内科系スポーツ医学渡部研究室の小川美織氏らの研究によるもので、「Physical Activity and Nutrition」に論文が掲載された。
ジュニア相撲、相撲以外のスポーツをしている/していない肥満児の3群で比較
肥満は健康に良くない。それは当然だが、相撲は体格が大きいほうが有利なスポーツだ。重いほうが土俵から押し出されにくいし、皮下脂肪は取り組み中の怪我のリスクを抑制してくれる。
大相撲の選手、つまり力士は肥満であるが身体活動量が多く、脂肪だけでなく筋肉も多い。そのため力士の肥満は“健康的な肥満”と言われることがあるが、やはり代謝関連指標は基準値を超えていることが少なくないと報告されている。しかしジュニア相撲選手の健康状態に関する報告は限られている。小川氏らはこの点に着目し本研究を行った。
研究の手法は、ジュニア相撲選手と、相撲以外のスポーツを行っている肥満児、および運動習慣のない肥満児の体組成や代謝関連指標などを比較するというもの。研究参加者は全員男子で、ジュニア相撲選手は相撲クラブから募集された9~17歳の14人であり、相撲の経験年数は4.7±1年。後二者は小児肥満外来に通院している9~14歳の患者56人で、それぞれ28人。なお、後二者は単純性肥満を適格条件とし、中枢神経系や内分泌系などの特定の疾患・病態に由来する二次性肥満の患者は除外した。
各群の年齢は相撲選手群が14±2歳であるのに対し、相撲以外のスポーツ群と非運動群はともに11±1歳で、相撲選手群より有意に低年齢だった。
ジュニア相撲選手は血圧や善玉コレステロール低値に注意が必要な可能性
身体検査指標の比較
結果について、まず身体検査指標をみると、相撲選手群の身長と体重は、他の2群よりも有意に高値だった。BMI並びにBMI Zスコアは相撲選手群33.2±5.8 (2.3±0.6)、相撲以外のスポーツ群27.5±4.0 (2.0±0.3)、非運動群29.6±6.1 (2.1±0.4)であり、相撲以外のスポーツ群は他の2群に比し有意に低値だった。ウエスト身長比は同順に、0.60±0.07、0.60±0.04、0.66±0.09であり、非運動群は他の2群に比し有意に高値だった。
〔体重-理想体重(学校保健統計に基づく値)/理想体重×100〕で算出した肥満度は、同順に68.2±23.5%、49.7±18.1%、61.1±26.3%であり、相撲選手群と相撲以外のスポーツ群との間に有意差が存在した。
血圧と代謝関連指標の比較
次に、血圧レベルを年齢で調整したうえで比較すると、収縮期血圧は相撲選手群132±12mmHg、相撲以外のスポーツ群117±11mmHg、非運動群123±11mmHgであり、相撲選手群は相撲以外のスポーツ群より有意に高かった。拡張期血圧(年齢未調整)は同順に、69±6mmHg、63±8mmHg、68±17mmHgであり、群間の有意差はなかった。
続いて代謝関連指標をみると、LDL-C(悪玉コレステロール)、non-HDL-C(非善玉コレステロール)、TG(中性脂肪)、血糖値、HbA1cに群間の有意差はなかったが、HDL-C(善玉コレステロール)に関しては、相撲選手群45±5mg/dL、相撲以外のスポーツ群55±15mg/dL、非運動群50±12mg/dLであり、相撲選手群は相撲以外のスポーツ群に比べて低く有意差がみられた。
各群の平均値の基準値との関係
各群の測定値の平均を基準値と比べると、TC(総コレステロール)、LDL-C、non-HDL-Cについては全群ともに、平均値が基準値(TC220mg/dL未満、LDL-C140mg/dL未満、non-HDL-C150mg/dL未満)を下回っていた。
ただしTGに関しては、相撲以外のスポーツ群と非運動群は平均値が基準値(120mg/dL未満)を上回っていた。反対に相撲選手群ではTGの平均値も基準値を下回っていた。ところが、TGと逆相関することの多いHDL-Cは、相撲選手群のほうが他の2群よりも低値だった(平均値は前述のように相撲選手群も含めて全群基準値内〈40mg/dL以上〉)。
血糖値に関しては、基準値(100mg/dL未満)を下回っているのは相撲選手群のみだった。ただしHbA1cは全群基準値内(6.5%未満)であり、かつ95%信頼区間の上限も6.5%未満だった。
ジュニア相撲選手のメタボに対する食生活等の予防的介入の必要性
以上の結果を基に渡部研究室では、ジュニア相撲選手の健康について、既報研究の知見とあわせて詳細な考察を加えている。その一部を紹介すると、まず収縮期血圧が相撲選手群で高かった点に関しては、年齢調整後も相撲選手群は体格が大きく、体格の大きさは循環血漿量の増加を介して血圧の上昇に寄与するほか、肥満に伴うインスリン抵抗性や交感神経系の亢進といった機序の関与を挙げている。そして、ジュニア相撲選手は高血圧のリスクがあり、小児高血圧は成人期に移行しやすいため、食生活などへの介入が必要ではないかと述べている。
次に、善玉のHDL-Cが平均値は基準値内ではあるものの他の2群に比し有意に低値だった点については、20歳以上の成人の力士では肥満レベルの上昇に伴いHDL-Cが低下するとの報告があることから、将来のアテローム性動脈硬化症のリスクが示唆されるとしている。
一方、血糖値に関しては相撲選手群のみ平均値が基準値内であった点については、継続的な運動により筋肉量増加、GLUT4(glucose transporter type 4)の発現増加などが生じており、骨格筋での糖取り込みが亢進し血糖値上昇抑制に寄与しているのではないかと推察している。
結論としては、「ジュニア相撲選手は、年齢調整後も肥満児より体格が大きく血圧が高かった。この知見は、ジュニア相撲選手のメタボリックシンドロームに対する予防的介入を検討する必要性と、その方向性を示すものと言える」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Comparative evaluation of obesity-related parameters in junior sumo wrestlers and children with obesity」。〔Phys Act Nutr. 2021 Sep;25(3):36-43〕
原文はこちら(Korean Society for Exercise Nutrition)