米国軍人の膝痛の罹患率を、性別・階級別に比べてみてわかったこと
米国の陸海空軍および海兵隊という全軍の医療データベースを用いた調査から明らかになった、軍人の膝の痛みの実態が、全米アスレティックトレーナーズ協会(National Athletic Trainers' Association;NATA)の「Journal of Athletic Training」に掲載された。兵士においても士官や将校においても、男性より女性のほうがリスクが高いという。
兵士は膝に爆弾を抱えている?
ランニング中の着地の際には歩行時に比べて1.5~5倍程度の衝撃が足にかかり、ジャンプの着地の際には十数倍にもなるという。このような影響のため、膝関節は全身の関節の中で最も痛めやすい関節と言われる。
兵士は若くて健康だ。一般生活者であれば、若くて健康であれば膝のトラブルは少ないのがふつうだが、アスリートや兵士などの身体活動量が多い人はそうとは限らない。トレーニングに伴う膝への負荷が大きいと考えられ、実際に海軍兵学校の学生では、膝前部痛(anterior knee pain;AKP)の有病率が13.5%であり、とくに女性では25%と4人に1人に及ぶという報告もある。
今回紹介する論文は、この実態を背景として、兵士だけでなく士官や将校も含む米国軍人全体の膝前部痛(AKP)リスクを、性別、階級別に検討した研究であり、米国軍人の医療疫学データベースの2006~15年の全データを解析した結果。
兵士のAKP罹患率は1,000人年あたり13.2、士官・将校は6.2
2006~15年の間に、兵士15万1,263人、士官・将校1万4,335人が膝前部痛(AKP)の診断を受けていた。兵士の1,000人年あたりAKP罹患率は13.2であり、士官・将校は6.2であった。2006年から2015年のAKPリスクに、経時的な変化はみられなかった。
この結果について本研究では、性別や階級別に詳細に比較検討している。
女性はAKPハイリスクで陸軍の女性兵士で最多。一方、膝にやさしいのは海軍
兵士におけるAKP罹患率(1,000人年あたり。以下同)は、陸軍が最も高く16.1で、これを性別にみると男性15.3、女性20.9と女性が高かった。海軍は8.6であり四軍の中で最低の罹患率だった。性別では男性8.0、11.5でやはり女性に多かった。以下同様に、空軍は13.9(男性13.3、女性16.5)、海兵隊は12.5(12.2、16.6)であり、四軍の合計は前述のように13.2であり、性別では男性12.7、女性16.7であった。
士官・将校のAKP罹患率は全体的に兵士の半数程度だった。最も高いのは兵士と同様に陸軍の7.6で、性別にみると男性6.6、女性12.6であり、やはり女性が高かった。海軍は4.4で四軍の中で最も低く、男性3.9、女性7.4だった。以下同様に、空軍は6.1(男性5.0、女性10.8)、海兵隊は4.8(4.4、10.8)であり、四軍の合計は前述のように6.2で、性別では男性5.3、女性10.7であった。
女性兵士のAKPリスクは男性兵士の1.3倍
男性を基準として女性のAKPリスクを比較すると、兵士では相対リスク(relative risk;RR)1.32(95%CI;1.30~1.34)と約30%、有意にリスクが高かった。病型別にみた場合、とくに膝蓋骨の不安定性に伴う痛みは、RR1.56(同1.49~1.63)とリスクの差が大きかった。
女性士官・将校のリスクは男性の2倍以上で、腱障害は5倍近く
次に、士官や将校のAKPリスクを性別にみると、より大きな性差が認められた。具体的には、AKP全体のRRが2.01(95%CI;1.94~2.09)と2倍を超えていた。病型別で最も大きなリスクの差が認められたのは腱障害で、RRは4.75(同4.43~5.09)と5倍近くハイリスクだった。
部門別ではロジスティクス(兵站)が最もハイリスク
続いて配属部門別に比較した結果をみると、最もAKPリスクが高いのは、兵士、士官・将校ともに、後方から前線へ物資等の補給を担うロジスティクス(兵站)部門だった。RRは、兵士では1.38(95%CI;1.35~1.42)、士官・将校では1.42(同1.34~1.50)だった。
膝関節の痛みの修正可能なリスク因子の同定と、治療介入法の探索を
著者によると、本研究は、性別や配属、階級などを超えて現役米国軍人すべてのAKPリスクを評価した初の研究だという。結論として、「性別が女性であり、ロジスティクス部門に配属されている兵士は、AKPのリスクが相対的に高いことが明らかになった。今後はAKPの修正可能なリスク因子の対策と、効果的な治療法の確立に向けて、さらなる研究が必要とされる」とまとめている。
なお、AKPリスクは四軍の中で陸軍が最も高かったことに関連して、陸軍の軍事訓練で求められる140ポンド(約64kg)の加重をかけての2マイル(約3km)のランニングなどのトレーニングメニューに男女差がなく、女性兵士の膝により多くの負担をかけている可能性を指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Anterior Knee Pain Risk in Male and Female Military Tactical Athletes」。〔J Athl Train. 2021 Nov 1;56(11):1180-1187〕
原文はこちら(National Athletic Trainers' Association / Allen Press)