女子サッカー選手の傷害発生率と月経周期の関連性 イングランド代表での4年間の検討
女性アスリートの怪我のリスクが月経周期と関連し、また月経周期の遅延と受傷リスクが関連することが報告された。イングランドの女子サッカー代表選手を対象とする4年間の観察的研究の結果だ。
女子サッカー選手の傷害は長引きやすい
世界的に女子サッカーのプロ化が進み、トレーニング量や試合数が近年著しく増加している。女性サッカー選手の傷害発生率は、全体的にみると男性サッカー選手と同等なものの、重傷の割合は女子サッカーのほうが高いことが報告されている。また女性サッカー選手は、主に膝と足首の靭帯損傷が多く、男性と比較して傷害による離脱が21%多いとの報告もある。
女性サッカー選手の傷害発生リスクがエストロゲンやプロゲステロンなどの生殖ホルモンの周期的な変動と関連することが知られているが、月経周期のどのステージでリスクが上昇するのかということについては、一貫した結論が得られていない。また、月経機能障害の原因としてエネルギー可用性の低さがあり、それがアスリートの怪我のリスクを高める可能性も指摘されている。食事からの摂取エネルギー量が相対的に不足している場合、エネルギーを節約するために月経周期などの重要な生理学的プロセスが犠牲になり、稀発月経または無月経に至る。アスリートは軍の新兵では、月経周期が長い場合に怪我の発生率が高いことが示されている。
エリート女子サッカー選手の23%が、摂取エネルギーが不十分(30kcal/kg除脂肪体重/日未満)であり、9.3~19.3%に月経機能障害がみられるとの報告もある。
これらを背景として本研究では、イングランドの女子代表サッカー選手を対象に、4年間にわたって収集されたデータから、月経周期による傷害発生率の変動、および月経周期の遅延と傷害発生率との関連を検討した。
月経周期と傷害リスク、月経遅延と傷害リスクの関連
この研究の対象は、女子サッカーイングランド代表チームに選出された15~20歳、23歳、およびシニアレベルの選手のうち、研究協力に同意した選手。除外基準は、初経発来前、避妊薬の使用、月経不順、月経に関するデータの欠落などとした。
月経周期は自己申告により判定し、黄体形成ホルモンのピーク日を推定した。傷害は、怪我により1日以上、トレーニングやプレーに参加できなくなった場合として定義した。
観察期間は2012~16年の4年間で、この間に113名に156件の傷害が報告されていた。27名は最大7回の傷害を報告していた。傷害時の年齢は13~35歳(中央値17歳)だった。
月経周期との傷害リスクの関連
自己申告による月経周期は、18~64日(中央値28日)の範囲だった。月経周期が短い(21日未満)の選手と長い(35日以上)を除外した場合も、中央値は28日だった。
月経周期が標準的(21~35日)である場合、卵胞期は8~16日(中央値11日)であり、黄体期は13~16日(中央値14日)と推定された。卵胞期後期は、3日間と定義した。
この月経のステージ別に傷害件数をみると、卵胞期は41件、卵胞期後期は16件、黄体期は57人であり、1,000人日あたりに換算すると、同順に31.9、46.8、35.4となった。卵胞期後期は卵胞期に比べて傷害リスクが1.47倍高く、黄体期は卵胞期の1.11倍であり、卵胞期後期に対しては0.76倍だった。
つまり、傷害発生率比は、卵胞期と比較して卵胞期後期で47%高く、卵胞期後期と比較して黄体期は24%低い(卵胞期後期が32%高い)ことが示された。
月経遅延に伴う関節や靭帯のリスク上昇
傷害全体の20%は、通常の月経サイクルが始まると予想された後に月経が開始した、月経遅延の状態で報告されていた。その場合の遅延の長さは0~40日(中央値5日)の範囲だった。
月経遅延の際に発生した傷害の36%(28件中10件)は、関節や靭帯の損傷だった。一方、通常の月経周期における関節や靭帯の損傷の割合は21%(114件中24件)だった。
月経周期と筋肉や腱の傷害リスクの関連
筋肉と腱の傷害について、月経周期との関連をみると、卵胞期と比較して卵胞期後期では発生率比が1.88と88%高く、とくに筋肉の裂傷・けいれん、腱の傷害については、卵胞期後期の発生率比が2.15であり、卵胞期の2倍以上頻発することが示された。
また、黄体期の関節および靭帯損傷の発生率は、卵胞期の約2倍(発生率比1.83)であり、卵胞期後期のほぼ3倍(同3.41)であった。
さらなる研究が望まれる研究領域
これらの結果から著者らは、「卵胞期後期の傷害発生率は、卵胞期および黄体期と比較して、それぞれ47%、32%高く、卵胞期後期の筋肉および腱の傷害発生率は他のステージのほぼ2倍だった。また、すべての傷害の20%は、月経の遅延に伴い発生していた」とまとめている。そのうえで「傷害の発生率が月経周期によって異なる可能性があり、また月経周期が傷害の種類や発生部位に影響を及ぼす可能性があることを示している」としている。
なお、「この領域の研究は始まったばかりであり、月経周期と受傷リスクの軽減に関するガイドライン策定にはさらなる作業が必要になる」と、現段階でのデータ解釈の限界に触れ、「このデータを根拠にしてトレーニングや試合参加を調整することは推奨しない」と述べている。ただし今回の知見は、「この重要な領域のエビデンスを確立していくうえで、今後の研究の基礎として役立つ可能性がある」と結論している。
文献情報
原題のタイトルは、「Injury Incidence Across the Menstrual Cycle in International Footballers」。〔Front Sports Act Living. 2021 Mar 1;3:616999〕
原文はこちら(Frontiers Media)