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日本初! パラアスリートの排便トラブルへの栄養介入に活用できるアセスメントシートが完成

脊髄損傷や二分脊椎のアスリートの多くが排便のトラブルを抱えていることに着目し、栄養面から介入して症状改善につなげていくためのアセスメントシートが、神奈川県立保健福祉大学の小林由依氏、鈴木志保子氏 (当協会理事長)らによって開発された。

日本初! パラアスリートの排便トラブルへの栄養介入に活用できるアセスメントシートが完成

ふだんの排便方法や意図しない排便が発生しやすい状況など、評価すべき項目がリスト化されており、食事のタイミングや摂取食品の変更を提案する際に必要な情報を系統立てて把握できる。著者らは、「このアセスメントシートをダウンロードし、多くの指導者に使ってもらいたい」と述べている。

パラアスリートの排便の現状と課題を把握(アセスメント)することからスタート

パラスポーツの人気拡大に伴い、パラアスリートのパフォーマンス向上のための栄養サポートへの需要が高まっている。パラアスリートの栄養サポートには、まだ多くの課題が存在しており、その一つとして排便トラブルへの対応が挙げられる。脊髄損傷や二分脊椎など下半身に障がいがある場合、排便のコントロールに問題があり、自然排便が困難であったり、便秘・軟便・下痢を繰り返したり、意図しないタイミングでの排便、便失禁などが生じやすい。

このような症状のために本来のパフォーマンスを発揮できなかったり、便失禁を避けるために練習や試合前の摂食を控えるといった対策が、パフォーマンスの低下を招いていると考えられるケースも存在する。排便に関する症状の改善には栄養学的な介入が奏効する可能性があるものの、そのような視点で行われた研究は極めて少ない。

このような背景から、パラアスリートが抱えている排便関連の問題を的確に評価するツールが求められる。本研究において鈴木氏らは、まずパラアスリートの排便の現状を把握し、課題・問題点を抽出して、その結果に基づき、栄養介入する際に利用可能なアセスメントシートの開発を行った。

16名のパラアスリートの食事・生活・排便状況などを調査

研究の対象は、脊髄損傷または二分脊椎を有する男性アスリート16名(頚髄損傷4名、脊髄損傷8名、二分脊椎4名)。年齢は31.8±8.0歳で、競技種目は車いすバスケットボールが12名、水泳2名、車いすラグビー2名。日常生活の移動手段は全員、車いす中心だった。また、栄養サポート期間は21±11カ月だった。

研究参加への同意を得た上で、日常の食事や食生活、生活習慣、身体組成、排便の習慣・トラブルの状況などに関する聞き取りを行い、情報を収集した。

パラアスリートの排便の習慣とトラブルの実態

聞き取り調査で得られた主な結果は以下のとおり(表1)。

表1 排便状況

日本初! パラアスリートの排便トラブルへの栄養介入に活用できるアセスメントシートが完成
(出典:神奈川県立保健福祉大学誌 18(1), 35-43, 2021-03)

排便の状況

排便の状況は、排便方法、排便回数、排便のタイミング、排便に要する時間、便意の有無、排便トラブルという6項目に分類された。

排便方法: 排便方法は、自然排便が43.8%、摘便(用手的な排出)が31.3%、 下剤の使用が18.8%、 洗腸(温湯を注入しての排便)が18.8%、 浣腸の使用が12.5%、坐薬の使用が6.3%であり、25.0%は複数の方法を併用していた。

排便回数: 排便回数は、毎日が31.3%、週2回(3日に1回)25.0%、週4回(2日に1回)18.8%、週3回(2~3日に1回)18.8%、週1回6.3%だった。排便回数が毎日と回答した人は、自然排便または自己摘便のいずれかであった。

排便のタイミング: 排便日を決める人と、決めていない人が半数ずつだった。前者では、介助者の都合にあわせていたり、練習のない日や試合の前日など、意図的に排便日を決めていた。後者では、便が下りてきた時、便意を催した時などに、随時のタイミングで排便していた。

排便に要する時間: 排便に要する時間は1~2分という人から最長120分の範囲に分布し、個人差が大きかった。同じ人でも15~50分と所用時間の差が大きい人もいた。

便意の有無: 便意のある人が37.5%、代償便意(身体の違和感など)がある人が37.5%、便意のない人が25.0%だった。なお、代償便意の具体的な感覚として、首筋や感覚のある部位に汗をかく、トイレに非常に行きたいという感覚が生じる、ゾワゾワした感じなどが挙げられた。

排便トラブル: 87.5%が排便トラブルを訴えた。軟便・下痢が最も多く85.7%、便秘が28.6%、腹痛21.4%、体調不良14.3%などであり、50.0%は複数の排便トラブルを抱えていた。

排便トラブルの原因

排便トラブルの原因は、食事や食物に関することと、それ以外のことの2つに大別可能だった。その割合は、前者と後者とも78.6%に該当した。

トラブルの種類が軟便や下痢の場合、食事や食物に関することが原因と考えられるケースが多く、83.3%を占めていた。そのうち乳製品や乳酸菌含有食品によるものが70.0%であり、スポーツドリンクや水分の過剰摂取なども挙げられた。一方、軟便や下痢の50.0%には、食事や食物に関すること以外の関与が考えられ、例えば試合や合宿によるストレス、緊張といったアスリート特有の原因、および腹部の冷えなどが挙げられた。

開発された栄養アセスメントシート

調査で得られた以上の情報を整理して、排便に関する栄養アセスメントシートが開発された。排便の方法、回数、タイミング、所要時間、便意の有無、発生し得るトラブルを評価し、1枚の用紙にまとめられるスタイルであり、各項目の記入欄には、今回の調査から明らかになった主要パターンが印刷されているため、それらについては○印をつけるだけでよい。

具体的な商品名や摂取タイミングの聞き取りも必要

一方、脊髄損傷者を対象とする先行研究からは、水分やヨーグルト、冷たい牛乳、野菜、コーヒーなどを多く摂取していたり、炭酸飲料やわかめ、チーズなどを控えるといった対応をとっている障がい者が少なくないことが報告されている。

今回の調査でも、パラアスリートの排便状況は多様であり、個々にさまざまな工夫をしていることが明らかになった。また、乳酸菌含有食品の摂取をはじめ、多くの食品や特定の商品でトラブルが引き起こされている可能性のあることが明らかになった。したがって、食事や食物に関する原因については、食品の内容だけでなく、商品名や量、摂取前後の状況まで詳細に把握する必要があると考えられる。

このことに対応し、開発されたアセスメントシートにも備考事項を書き込むスペースが設けられており、個別化対応にも適している。著者らは、「排便困難なパラアスリートへの栄養ケアの指針ともなり得る、国内で初めての評価リストである。管理栄養士や公認スポーツ栄養士による栄養サポートの初回アセスメント時、排便について聞き取る際に使用すれば、早期からの現状把握と課題抽出につなげられる。パラアスリートだけでなく、一般の脊髄損傷者の排便問題に対する栄養介入時のアセスメントにも適用できる」としている。

他方、本研究の限界点として、検討対象が男性のみであること、参加している競技が3種目に限られていることなどが挙げられ、他の対象でもより的確な内容とすることが今後の課題であることを著者らは述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「脊髄損傷及び二分脊椎アスリートにおける排便に関する栄養アセスメントシートの開発」。〔神奈川県立保健福祉大学誌 18(1), 35-43, 2021-03〕
原文はこちら(神奈川県立保健福祉大学機関リポジトリ)

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