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学校給食の配食問題(2) しっかり一人前ずつに配食する方法とその有効性が明らかに

学校給食は児童の年齢(学年)ごとに、健康や成長に配慮した栄養計算に基づいて献立が立てられ、かつ調理されている。ところが、児童が実際に口にする給食の量は「給食当番」の子どもが配分することが多く、また本人の意思によって自由に量の加減が行われている。このような現状に対し一定期間、均等な配食を実践することによって、児童間の摂食量のばらつきが有意に少なくなるという研究結果が報告された。神奈川県立保健福祉大学の鈴木志保子氏 (当協会理事長)らの研究によるもの。

学校給食の配食問題(2) しっかり一人前ずつに配食する方法とその有効性が明らかに

学校給食の配食問題(1) 給食が等しく分けられていない! 児童間で大きなばらつき

研究の背景:給食の実際の摂取量は、児童たちの自由意思で大きなばらつき

終戦後に子どもたちの栄養改善を目的に開始された学校給食は、現在は、国民が健康的な食生活を身につける食育の場として重要な機会となっている。義務教育課程への栄養教諭の配置も、平成17年(2005年)度から進められ、平成30年度には全国で六千数百人の栄養教諭が現場に立っている。

給食の内容は「学校給食実施基準」に明記されているように、エネルギー量や栄養素バランスが「日本人の食事摂取基準」に基づいて学年ごとに決められ、1日の摂取量の約3分の1が供給されている。しかし、給食の配食についてはマニュアル等が普及しておらず、現場に一任されているのが現状だ。その結果、児童間で給食の摂取量に大きなばらつきが存在することが報告されている。

例えば「平成22年度 児童生徒の食事状況等調査報告書」によると、給食からの摂取量の中央値が推定エネルギー必要量(estimated energy requirement;EER)の3分の1(1食相当分)に達しておらず、EERの3分の1に200kcal以上不足している児童が約30%いることが明らかにされている。また、本論文の著者らも、児童の自由意思による加減(お増やし/お減らしと呼ばれる)による摂取量の差が大きく、給食が望ましい食事を身につける場として機能していない実態を報告している。

関連情報→ 「学校給食が等しく分けられていない! おかわりや残食なしでも摂取量に大きなばらつき」

介入対象と方法:小学校2校の4・5年生で実践

今回発表された研究は、ある都市の教育委員会からの依頼によるもの。小学校児童の給食摂取量のばらつきを把握したうえで、「一人前均等配食」の実践指導を行い、実践前後の結果を解析した。研究対象は、公立小学校2校の4年生と5年生、計353名。内訳は、4年生男子が91名、女子が66名、5年生男子が101名、女子95名。

思春期の成長スパートや疾患、スポーツなどに個別配慮して、均等配食を実践

まず、ふだんどおりに配食している状況を調査した後、以下の4点に基づく一人前均等配食を実践した。

一人前均等配食のための諸事項:

  • 1) 学級内の全員に対して、一人前を均等に配食する。
  • 2) 任意の増減(お増やし/お減らし)は行わない。
  • 3) 小食、偏食、食物アレルギーなどのため個別対応が必要な児童については、栄養教諭が学級担任、養護教諭等と連携して、児童の実態把握と十分な配慮を行ったうえで、児童とともに量を決定する。
  • 4) スポーツ、思春期の成長スパート等のため配食量の増量が必要な児童については、3)と同様に実態把握を行い、3)の児童への対応や欠席者により余った給食を追加する。

なお、この実践期間は、一方の小学校が7週間で、他の小学校は11週間だった。また、配食にあたっては、給食当番の児童が配食した後、学級担任の指導のもと、3)や4)の個別対応を行った。

一人前均等配食実践後に摂取量のばらつきが有意に減少

それでは、結果をみてみよう。まず、一人前均等配食実践前は、配食された量をそのまま(お増やし/お減らしせずに)食べた児童は45.0%だった。これに対し実践後は82.4%が、配食された量を食べていた。

エネルギー摂取量をみると、4年生は一人前均等配食実践前が599±123kcal(CV=0.21)、実践後は595±85kcal(CV=0.14)、5年生は同順に694±182(CV=0.26)、664±90kcal(CV=0.14)であり、両学年ともに変動係数が有意に小さくなっていた(4年生p=0.002,5年生p<0.001)。

個別対応が必要な児童の存在が明確になるという効果も

一人前均等配食の実践に伴い、EER(1食あたり)とエネルギー摂取量の差(ΔEER)が±100kcal以内である児童の割合が、実践前の155名(43.9%)から実践後には191名(54.1%)に増加した。

ただし、ΔEERの分布自体は実践前が-481~658kcal、実践後-580~338kcalであり、実践後も幅が広かった。これは個別配慮が必要な児童の存在が明確になったことによる影響と考えられる。とくにΔEERが-100kcal以上の児童は、実践前108名(30.6%)、実践後127名(36.0%)だった。

なお、本研究においてEERは、肥満度が「ふつう」(-20~+20%)または「やせ」(-20%以下)の場合は現体重、「肥満傾向」(20%以上)の場合は身長別標準体重を用い、身体活動レベルは「II(ふつう)」として算出した。

栄養素別にみてもばらつきが減少

このほか、栄養素別にみた摂取状況も一人前均等配食実践後に、三大栄養素をはじめ多くの栄養素でばらつきが有意に小さくなっていた。

ばらつきに有意な変化がなかったのは、4年生ではカルシウム、レチノール活性当量、5年生では鉄、ビタミンB2だった。また4年生でのビタミンB2、5年生のレチノール活性当量、ビタミンB1は、実践後において有意にばらつきが大きくなっていた。

給食の時間に栄養教諭が、より積極的に参画を

これらの結果から、著者らは一人前均等配食の実践による効果を以下のようにまとめている。

  1. 自由意思による配食量の調整(お増やし/お減らし)が減少する。
  2. エネルギー・栄養素摂取状況のばらつきが少なくなる。
  3. 個々の児童のエネルギー摂取量は、1食当たりのEERとの差が±0kcalに近づく。
  4. エネルギー摂取量と1食当たりのEERとの差が大きい児童が明確に抽出され、極端に摂取量が少ない児童に対して、個別的な相談指導につなげることができる。

また考察として、「日々の給食指導をより効果的に実践するには、適切な配食方法の教育が重要であり、栄養教諭は学校内で唯一の栄養学等の専門職として、配食方法による効果や個別的な相談指導の必要性を熟知し、学校運営に積極的に参画することが望まれる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「小学校給食における一人前均等配食の有効性の検討」。〔神奈川県立保健福祉大学誌 : human services 17(1), 59-70, 2020〕
原文はこちら(神奈川県立保健福祉大学機関リポジトリ)

学校給食の配食問題

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