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ケトン食によるアスリートの運動パフォーマンス、体組成、健康に対する影響 スコーピングレビュー

ケトン食への関心が、疾患の予防や治療、スポーツなどの広い領域で高まっている。しかし、アスリートを対象にケトン食の影響を検討した報告はまだ限られていて、システマティックレビューを実施する状況に至っていない。そこで本論文の著者らは、特定のテーマに関し、情報の整理や課題の抽出を目的とするスコーピングレビューを実施した。

ケトン食によるアスリートの運動パフォーマンス、体組成、健康に対する影響 スコーピオンレビュー

炭水化物比率5%未満で3週間以上介入した研究をピックアップ

2020年6月までに発表された英語論文を対象に、「ケトジェニック」「超低炭水化物」「アスリート」「スポーツ」「運動」などのキーワードで文献を検索。採用条件は、アスリートを対象とした研究であり、炭水化物摂取量が摂取エネルギー全体の5%未満、またはβ-ヒドロキシ酪酸がモニタリングされていて血中濃度が0.5mmol/L以上で、介入期間が21日以上であって、体組成(脂肪量および除脂肪体重)、身体的健康(血液生化学検査、pH、鉄、免疫機能)、心理的幸福(精神的健康)を検討しているもの。

抽出された報告の特徴

検索の結果、814件の報告がヒットし、採用条件を満たすものは12件だった。これらの研究の合計対象者数は101人(男性84人、女性17人)、年齢は15~41歳、競技種目は7種目だった。

栄養素のエネルギー構成比は、12件の研究中10件が脂肪摂取量が75%を超えていた。また2件は蛋白質摂取量が多く、40%に設定されていた。介入期間は、7件は3週間、4件は4週間、1件は12週間だった。

結果の概要

レビューの結果、エビテンスの強さは限定的だが、ケトン食のさまざまな影響が浮かび上がった。例えば、アスリートの体重や体脂肪量には望ましい効果がみられたが、除脂肪体重に対する影響は、さらなる検討が必要と考えられた。酸塩基平衡や粘膜免疫へのマイナス効果は観察されなかったが、便中微生物叢の変化が確認され潜在的な問題がある可能性が示唆された。パフォーマンスについては、持久力へのマイナスの影響を与える傾向もみられた。以下は評価結果の概要。

体組成への影響

2件の研究が、ケトン食による介入の結果、体重と体脂肪量の改善を報告していた。ただし、比較対照群(非ケトン食)でも体重や体脂肪量の有意な減少が観察された報告もあり、解釈には注意を要する。

アスリートに対する今後の研究では、蛋白質またはサプリメント(例えばクレアチンやロイシン)を利用したケトン食による影響の評価等が求められる。

身体の健康への影響

酸塩基平衡:

理論的にはケトン食により酸塩基平衡の緩衝に悪影響が及び、代謝性アシドーシスを引き起こす可能性が考えられ、その結果、腎結石等が惹起され運動パフォーマンスへの影響も想定される。ただし21日間のケトン食介入からは、血中pH、重炭酸塩濃度、乳酸レベルに有意差は観察されず、ケトン食が酸塩基平衡に影響を及ぼさないことが示唆された。

骨代謝:

ケトン食3週間の介入により、骨吸収マーカーが増加し、骨形成マーカーが低下したことが報告されている。これはケトン食により骨代謝に有害な影響を与える可能性があることを示唆している。

鉄代謝:理論的には、グリコーゲン制限下で運動を行うと、インターロイキン-6(IL-6)などの炎症マーカーが上昇して、ヘプシジンレベルに影響を与え鉄吸収が妨げられる可能性がある。3週間にわたりケトン食介入した競歩選手対象の研究からは、運動後のIL-6が有意な上昇が認められた。ただし、高強度の運動後のIL-6上昇は非ケトン食条件でも比較的よくみられ、ケトン食と鉄代謝との関連の理解にはさらなる研究が必要。

脂質酸化:

ケトン食の脂質酸化への影響は、運動強度や性別などの研究条件により異なっていた。脂質酸化速度の増加は骨格筋組織の脂肪酸の貯蔵や、エストロゲンレベルなどの影響を受けることが報告されている。ケトン食の脂質酸化への影響の理解にはさらなる研究が必要。

腸内細菌叢:

アスリートは、非アスリートと異なる腸内細菌叢を示すことが報告されている。その理由として、蛋白質摂取量が多いことや食事摂取量の違いが指摘されている。本検討からも、ケトン食介入による腸内細菌叢のプロファイルに有意な影響の報告が認められ、それらの中には抗炎症作用などの面で身体の健康に好影響を及ぼすことを示唆するものもあった。ただし、腸内細菌叢に関する研究そのものがまだ初期段階にあることから、エビデンスはいずれもプレリミナリなもの。

粘膜免疫への影響:

食事のプロトコルと無関係に、運動後には唾液中の免疫グロブリンA(IgA)の増加が観察され、食事間の有意差はなかった。

便中微生物叢への影響:

ケトン食が連鎖球菌などの量を増やす可能性が認められた。この変化は、硝酸塩やビート根ジュースなどの摂取によるパフォーマンス上のメリットを減弱する可能性がある。

心理的な影響

持久力アスリートを対象とした1件の研究のみが、ケトン食の心理的な影響を検討していた。この研究では、初期に気分の低下を報告していたが、その持続期間は数週間で、その後は改善。ベースラインからは大幅に上昇したことを報告していた。痛みの自覚症状や倦怠感には、ベースラインから研究期間終了まで明らかな変化はなかった。

この結果は、ケトン食開始後の初期には心理的幸福に悪影響を与え、その状態が、アスリートが食事に適応するまで数週間継続する可能性を示唆している。

スポーツパフォーマンスへの影響

8人の男性持久力アスリートを対象とした研究では、70%VO2maxを超える運動強度でのパフォーマンスに、悪影響を与えることが示された。しかし60%VO2max未満の強度では、疲労困憊までの時間に影響を及ぼさないことが報告されている。これらの結果はケトン食が、最大強度以下の運動能力には影響を及ぼさないことを示唆している可能性がある。

一方、テコンドー選手を対象とする研究では、ケトン食が2,000mのスプリントタイムを有意に短縮したことを報告している。また、競歩選手に対する研究では、VO2peakの有意な増加を観察した。

このようにスポーツパフォーマンスの結果は一致せず、さらなる研究が必要と考えられた。

結論と解釈上の制限

このスコーピングレビューに含まれる各研究のサンプルサイズはいずれも小さく(5〜37人)、統計的検出力は十分でなかった。また、研究デザインは横断的または非ランダム化であり、比較的低質だった。スポーツ栄養学の研究では、背景の一致した多数の対象を集めやすい医学・医療領域の臨床研究に比較し、高質な大規模コホート研究を実施しにくいことが認識されているが、今回のテーマであるケトン食の影響の検討も同様に、現時点で有効性に関する結論を出すことは困難と考えられた。

なお、アスリートが体重管理に行き詰ったときに、ケトン食が魅力的に感じる可能性がある。仮にケトン食を開始するのであれば、除脂肪体重(lean body mass;LBM)をモニタリングし、場合によってはサプリメント等の使用を検討したほうがよいことがある。また、本レビューの結果にかかわらず、食事介入に際しては各アスリートに対する適切な教育の確実な実施が必要とされる。

本研究の結論として、ケトン食は、体組成への影響(体重と体脂肪量の減少)と心理的幸福(長期的にはポジティブ)との間に、正の関連があることが示唆された。ただし、身体の健康とスポーツパフォーマンスへの影響については、一致した結果を得られなかった。

文献情報

原題のタイトルは、「Role of a Ketogenic Diet on Body Composition, Physical Health, Psychosocial Well-Being and Sports Performance in Athletes: A Scoping Review」。〔Sports (Basel). 2020 Sep 23;8(10):E131〕
原文はこちら(MDPI)

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