格闘技選手の急速な減量は、回復を阻害し、筋肉の損傷と疲労を増加させ、怪我のリスクを高める可能性
格闘技において、パフォーマンスを間接的に低下させ得る因子である、睡眠や回復、筋損傷・怪我のリスクに、競技前の急速な減量が及ぼす影響を包括的に検討することを目的とした、スコーピングレビューの結果が報告された。睡眠の質への影響は顕著ではないものの、その他の因子へは負の影響が認められるという。

格闘技の競技前の急速な減量による、直接的なパフォーマンス影響以外の側面
多くの格闘技は体重別階級が設けられていて、選手はより低い階級で戦うために、試合前に急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行っている。RWLのためのエネルギーや水分の摂取制限、トレーニング量の極端な増加がパフォーマンスに及ぼす直接的な影響については多くの知見があり、また、睡眠や回復、筋損傷など、間接的にパフォーマンスに及ぼす影響を個別に検討した研究もみられる。しかし、今回取り上げる論文の著者によると、それらの間接的な影響は相互に関連している可能性があるが、そのような関連性に焦点をあてた研究はみられないという。
文献検索について
スコーピングレビューのためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-ScR)に則して、PubMed、Scopus、Web of Scienceという文献データベースを用いた検索を2025年5月20日に実施。また重要な報告を見逃すリスクを抑制するため、ヒットした論文の参考文献をスノーボール形式で追加しハンドサーチを行った。
包含基準は、格闘技アスリート(全年齢と性別・競技レベル)の急速な減量(RWL)と、睡眠、回復、筋損傷、傷害発生率との関連を、査読付きジャーナルに報告した研究であり、プレプリントであっても入手可能なものは対象に含めた。RWLに用いた手段は制限しなかった。
一次検索で2,784報がヒットし、重複削除後の1,816報を2名の研究者が独立して、論文のタイトルと要約に基づきスクリーニングを実施。103報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は討議または3人目の研究者の意見によって解決した。
解析対象研究の特徴
最終的に17件の研究報告が適格と判断された。
17件中13件は男性のみを対象、1件は女性のみを対象とし、3件は男性と女性の両方を対象としていた。1件は性別の記載がなかった。参加者の年齢は、最も若いものが17.79±0.75歳、最も高齢の研究が30.1±7.5歳であり、多くは平均19~25歳の範囲だった。
参加競技は、レスリング、柔道、テコンドー、ブラジリアン柔術、総合格闘技、ムエタイなどが多く、競技レベルはナショナルレベルのアスリート対象研究が多かった。研究デザインは多様で、ランダム化比較試験は3件、クロスオーバー試験は2件であり、その他は反復横断研究、横断研究などだった。
RWLの影響の評価は、ベースライン、RWL中、RWL後、競技前計量時点、競技後、回復期など、最長14カ月にわたるさまざまな時点で行われており、筋損傷はクレアチンキナーゼなど、回復は自覚的疲労感などで評価され、そのほかにコルチゾール、睡眠の質、傷害発生報告状況などが報告されていた。
減量法としては主に、食事・水分制限、サウナの利用、発汗スーツ着用、トレーニング量の増加などが記されていた。ただし、多くの報告で方法論については詳細な記載は限られていた。
RWLで筋損傷、疲労、傷害発生などが増加する懸念
急速な減量(RWL)は、筋損傷のマーカーであるクレアチンキナーゼ(ピーク時713.4±194.6U/L)、自覚的疲労感(41.8±0.9~51.3±2.0任意単位〈a.u.〉)、および傷害発生率(女性においては1,000機会あたり45.62件)の増加と関連していた。コルチゾール反応については、RWLにより増加したとする複数の研究(499.9±107.8nmol/L~731.6±80.2nmol/L)と、低下したとする複数の研究(603.2±146.8nmol/L~505.8±118.4nmol/L)が混在していた。
睡眠の質については、軽度悪化(5.15±1.83a.u.~5.52±1.71a.u.)し、RWL後の回復感は低下(101.40±2.52 AU~87.63±2.47AU)することが報告されていた。
格闘技の急速減量が招くリスク
まとめると、格闘技におけるRWLは、睡眠の質への影響はそれほど顕著ではないものの、回復を阻害し、筋肉の損傷と疲労を増加させ、怪我のリスクを高めることが示唆された。ただし、方法論の一貫性の欠如やサンプルサイズが十分でないことによって、解釈が制限された。また、女性および高齢のアスリートについては、よりサンプルサイズが小さく、性特異的な傷害リスク、加齢に伴う回復の遅延などを考慮すると、得られた知見の適用範囲はさらに制限されると考えられた。
著者らは、本スコーピングレビューにより、RWLの影響を評価するというトピックについて、現時点においては減量プロトコル、アウトカム指標、研究デザインのばらつきなど、標準化された方法論が欠如していることが明らかになり、また女性アスリートのより広範な参加、そして長期的な影響を評価するための縦断的研究の必要性のあることが示されたと述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effects of Weight-Cutting Practices on Sleep, Recovery, and Injury in Combat Sports: A Scoping Review」。〔J Funct Morphol Kinesiol. 2025 Aug 18;10(3):319〕
原文はこちら(MDPI)







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