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アスリートの体重や体組成を調整するための食事に関する推奨の変遷 スコーピングレビュー

アスリートの体重や体組成を調整するための食事・栄養の摂り方に関する推奨事項が、これまでどのように進化してきたのかという視点で行われた、スコーピングレビュー論文を紹介する。著者らは、脂質、食物繊維、微量栄養素に関する推奨が限られており、また用語の定義が曖昧という課題を指摘している。

アスリートの体重や体組成を調整するための食事に関する推奨の変遷 スコーピングレビュー

体重・体組成の調整のための推奨をスコーピングレビューで総括する研究

時代とともに、さまざまな競技に多くの男性および女性が参加するようになり、またスポーツにおいて栄養が重要であることのエビデンスがより強固になるとともに、多くの団体がアスリートの食事・栄養に関する推奨を策定してきている。それらの推奨を包括的に捉えるため、この論文の研究では、スコーピングレビューという手法が採用された。著者らは、スコーピングレビューは、既存の文献が言及している範囲を特定し、残されている課題を抽出するうえで理想的なツールだとしている。

スコーピングレビューのためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-ScR)に則して、SCOPUS、PubMed、SPORTDiscusなどの文献データベースを用いた検索が2023年5月19日に実施され、2024年8月2日に追加の文献の有無が確認された。

包括基準は、18歳以上のあらゆるレベル(Tier1~5)のアスリートに対して、体重または体組成を調整するための食事に関する推奨事項を示した、専門家集団・団体・組織(競技統括団体、栄養関連学術団体、オリンピック協会など)による文献であり、査読システムのあるジャーナルに英語で発表されたものとされた。除外基準は、パラアスリート、疾患を有するアスリート、兵士、非アスリートや運動不足の集団(Tier0)を対象とする推奨、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)禁止物質の推奨を含む文献、および、著者に連絡をとるなどの手順を踏んでも全文を入手できないものなどとされた。

一次検索で6,068件がヒットし、重複削除後、まずその10%を用いて、2名の研究者が独立してタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。研究者間の採否の判定の信頼性を確認後、残りのすべての文献をスクリーニングした。採否の意見の不一致は、両者の討議または3人目の研究者との討議により解決した。

73件のコンセンサスステートメントなどを特定

全文精査を経て、最終的に73件が適格と判断された。

それらの文献は、14団体(25カ国、328人の専門家)から発表されていた。大半は、世界陸上競技連盟(19件)、国際オリンピック委員会(15件)、国際スポーツ栄養学会(15件)、世界水泳(7件)の4団体により策定されており、種別は合意声明(コンセンサスステートメント)が45件、立場表明(ポジションスタンド)が27件、実践的推奨(プラクティスガイドライン)が1件だった。研究者の国の分布としては、米国が138人と最も多く、次いで英国が43人で、以下、ポルトガル、オーストラリア、カナダ、ドイツ、スイスと続いた。対象とする競技は、陸上19件、水泳7件、団体競技5件であり、その他は少なかった。

策定されていた主な項目は以下の通り。

目標設定について

  • 個々のアスリートにあわせて体重と体組成の目標を設定する(12件)
  • 体重と体組成の目標を設定する際に、スポーツ/競技の要件を考慮する(8件)
  • 男性アスリートでは体脂肪率5%以下、女性アスリートでは12%以下を回避する(7件)
  • 体重と体組成の目標を設定する際には遺伝的因子を考慮する(5件)
  • 現実的な体重と体組成の目標を設定する(5件)
  • 健康的であり、かつパフォーマンスをサポートする体重と体組成の目標を設定する(5件)
  • 体重と体組成の目標を設定する際には、年齢を考慮する(5件)
  • 除脂肪体重を維持し、脂肪量を減らして体重を減らすことを目指す(5件)
  • 体重と体組成の目標を設定する際に、アスリートの性別を考慮する(3件)
  • 体重と体組成の目標を設定する際に、選手の競技上のポジションを考慮する(3件)
  • 体重と体組成の目標を設定する際に、アスリートにとって最適な値が、安全のために必要な最低値を上回ることもあり得ることを認識する(3件)
  • 体脂肪率が、不自然に低い/低すぎる/生物学的にあるべき値より低い、という状態を避ける(3件)
  • 体重と体組成の目標を範囲として設定し、特定の目標や絶対値としては設定しない(3件)
  • パワーおよびパワー/体重比の上昇を伴わない体重増を避ける(除脂肪体重の増加には上限がある)(3件)
  • パワー対体重比の上昇を目指す(3件)
  • 競技やイベント固有の体重・体組成データを参照する(3件)

目標到達速度について

  • 体重を徐々に減らすことを目指す(9件)
  • 体重/脂肪量を0.5~1.0kg/週または1~2ポンド/週の速度で減らすことを目指す(7件)

目標設定のタイミングについて

  • シーズンの早い段階、またはシーズンが始まる前に、体重変化を目指す(9件)
  • オフシーズンに体重の変化を目指す(8件)
  • プレシーズン/準備段階全体で体組成の変化を目指す(8件)
  • 季節を通して体組成の周期的な変化を目指す(3件)

これらに基づき、本スコーピングレビューでは、アスリートの体重や体組成を調整するための食事・栄養の摂り方に関する推奨事項の現状と将来について、以下の3点にポイントをまとめている。

  1. ほとんどの推奨事項は、実践における安全性の重要性を強調している。資格のあるスポーツ栄養士または栄養学者を採用する、結果と食事の目標を個別に設定する、カロリーとタンパク質の摂取量を調整する、ほとんどのサプリメントは不要であると考えられ基本的な食事の原則を遵守する、アスリートの健康をサポートするために30kcal/kg除脂肪体重/日という最小エネルギー利用可用性を目標として確保すること――などが挙げられる。
  2. 本レビューにより、体組成に関する推奨事項が、何を、誰が、いつ、どこで、どのようにということが具体的に行動的な言葉で示されることは、希少であることが明らかになった。より行動的なアプローチを採り入れることで、推奨事項をアスリートとスタッフの双方にとって、より実用的かつ実行可能なものにする必要性が認められる。
  3. 体重や体組成の調整に関する推奨事項を策定することは、アスリートが競技目標を達成するための健康的な環境を実現するための一歩に過ぎない。こうした推奨事項がどの程度実践されているか、またどのような要因がその実施に影響を与えるかについて、さらなる研究を行うことで、スポーツおよびスポーツ栄養に関する政策と実践がさらに進歩するだろう。

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary Recommendations for Body Mass and Composition Manipulation in Male and Female Athletes: a Scoping Review of Consensus Statements, Position Stands and Practice Guidelines from International Expert Groups」。〔Sports Med. 2025 Aug 21〕
原文はこちら(Springer Nature)

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