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加齢に伴う身体機能低下を捉える上で、「下肢の骨格筋の質」が重要な指標である可能性 亀岡スタディの解析結果

加齢によって、骨格筋の量よりも、筋力や「骨格筋の質」がより速いスピードで衰えていき、特にその変化は下肢で顕著にみられる可能性あるとする研究結果が報告された。京都府亀岡市で行われた地域在住高齢者対象疫学研究「亀岡スタディ」のデータを解析した結果であり、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所および京都先端科学大学(現:東北大学大学院医工学研究科スポーツ健康科学分野)の山田陽介氏、筑波大学体育学系の浅野優次郎氏らによる論文が「Experimental Gerontology」に掲載された。

加齢に伴う身体機能低下を捉える上で、「下肢の骨格筋の質」が重要な指標である可能性 亀岡スタディの解析結果

加齢による身体機能の低下を最も早く予測し得る指標はなにか?

人口の高齢化により、身体機能の低下をより早期に検出して介入することが、重要な公衆衛生上の課題となっている。これまでの研究から、筋力や身体機能の低下速度は筋量の低下速度よりも速いことが知られており、その一因として「骨格筋の質」の低下が関与している可能性が考えられている。これを背景に、サルコペニアの診断項目に、骨格筋の質に関する指標を追加すべきとする提案もなされている。

骨格筋の質の評価法はまだ標準化されていないが、非侵襲で施行可能な生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis;BIA)やその分光法(bioelectrical impedance spectroscopy;BIS)による位相角(phase angle;PhA)や細胞外/細胞内水分比(extracellular/intracellular water ratio ; ECW/ICW)、または超音波検査でのエコー強度などが、簡便かつ実用的な指標として用いられるようになってきている。ただし、それらの指標が加齢によりどのように変化するのか、測定部位による違いや性差はあるのかといったことは、いまだ不明点が多く残されている。

浅野氏らはこれらについて、亀岡スタディ参加者のデータを横断的に解析し検討した。

筋量・筋力・筋肉の質・身体機能は、すべて加齢とともに低下

亀岡スタディは、亀岡市に居住する65歳以上の高齢者を対象とするコホート研究であり、本研究では要介護認定を受けておらずデータ欠落のない1,370人(73.0±5.6歳、男性49.0%、BMI22.5±2.8)を解析対象とした。

評価項目と対象者の特徴

筋量

筋量は生体電気インピーダンス分光法(BIS)による四肢除脂肪量指数(ALMI)と超音波検査による大腿筋厚(MT)で評価した。本研究参加者のALMIは男性、女性の順に7.9、6.6kg/m2、MTは4.4、4.0cmであった。

筋力

筋力は握力(HG)と膝伸展力(KES)で評価した。本研究参加者のHGは33.7、21.4kg、KESは326.2、200.3Nであった。

機能的な骨格筋の質

機能的な骨格筋の質の評価には、握力を四肢除脂肪量で除した値(HG/ALM)、膝伸展力を大腿筋厚で除した値(KES/MT)を用いた。本研究参加者のHG/ALMは1.6、1.4kg/kg、KES/MTは74.4、51.0N/cmであった。

形態的な骨格筋の質

形態的な骨格筋の質の評価には、全身および大腿の位相角(PhA)、大腿のエコー強度、大腿の細胞外/細胞内水分比(ECW/ICW)などを用いた。本研究参加者の全身PhAは5.2、4.6°、大腿PhAは5.6、4.7°、エコー強度は20.8、25.8au、ECW/ICWは0.40、0.34であった。

身体機能

身体機能は、椅子立ち上がりテスト(5回)、タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト(TUG)、6m最大歩行速度、垂直跳び指数(記録に体重を乗じた値)で評価した。本研究参加者の椅子立ち上がりテストは男性・女性ともに8.6秒、TUGは7.2、7.5秒、6m歩行に要した時間は3.3、3.5秒、垂直跳び指数は1,558.7、926.3であった。

いくつかの指標は、より高齢になるとより急速に低下する

各評価指標と年齢との関連を検討した結果、すべての指標について、高齢であるほど低下しているという有意な相関が認められた。

また、65~74歳と75~90歳とに層別化して比較すると、複数の指標で有意な交互作用が認められた。具体的には、男性の椅子立ち上がりテスト、大腿エコー強度、女性のHG/ALM、大腿PhA、および性別にかかわらずECW/ICWは、いずれも74歳以下よりも75歳以上でより急速に変化していた。

一方で男性のKES/MTについては、74歳以下のほうが急速に低下することが示された。

骨格筋の質は筋量よりも早く低下する

次に、加齢に伴う指標ごとの変化の速度を比較するために、各指標の65歳時点の平均値を100%として標準化したうえで、1歳高齢であるごとに何%変化するかを推定した。その結果、以下に示すように、筋量よりも筋力、形態的な骨格筋の質(とくに下肢の筋肉)、身体機能の低下が速い可能性が明らかになった。

筋量

ALMIは1歳高齢であるごとに、男性は-0.8%、女性は-0.6%、MTは-0.9%、-1.1%の変化。

筋力

HGは-1.4%、-1.4%、KESは-2.0%、-2.1%の変化。

機能的な骨格筋の質

HG/ALMは1歳高齢であるごとに-0.4%、-0.3%、KES/MTは男性・女性ともに-1.3%の変化。

形態的な骨格筋の質

全身PhAは-1.2%、-1.0%、大腿PhAは-1.5%、-1.4%、エコー強度は1.2%、0.5%、大腿ECW/ICWは2.2%、1.9%の変化。

身体機能

椅子立ち上がりテストは1歳高齢であるごとに1.9%、2.0%、TUGは2.0%、2.4%、最大歩行速度(要した時間)は1.4%、1.8%、垂直跳び指数は―2.8%、―3.0%の変化。

身体機能低下リスクの早期検出のため、下肢の骨格筋の質の評価を

著者らは本研究の限界点として、横断研究であり実際の加齢変化を検討したものでないこと、自力で研究に参加できるような健常な高齢者のみを対象としておりサンプリングバイアスの影響を否定できないことなどを挙げたうえで、「加齢に伴う下肢の筋力・骨格筋の質の低下は、上肢よりも速い可能性がある。また、筋力、身体能力、および骨格筋の質の低下は、筋量の低下よりも急速と考えられる。さらに、骨格筋の質の低下によって、筋量の減少と筋力や身体能力の低下との間の存在するギャップの一部を説明できる可能性がある」と総括している。

また、これら一連の結果に基づき、「機能低下リスクがある高齢者を早期に抽出するには、筋量だけでなく、とくに下肢の骨格筋の質を評価することが重要ではないか」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sex- and age-related declines in muscle mass, strength, physical performance, and muscle quality among community-dwelling older adults: A cross-sectional study」。〔Exp Gerontol. 2025 Aug 14:210:112862〕
原文はこちら(Elsevier)

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