スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2024 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

高齢日本人女性では、食事の酸負荷の強さが要介護リスクに関連

食事性酸負荷の強さと、高齢女性の要介護リスクが関連していることを表すデータが報告された。国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターの木下かほり氏らが行った、75歳以上の地域在住高齢者を対象とする縦断的研究の結果であり、論文が「The Journal of Frailty & Aging」に掲載された。

高齢日本人女性では、食事の酸負荷の強さが要介護リスクに関連

食事による酸負荷は筋肉量低下による健康リスクを高める?

酸負荷の強い食事は、代謝性アシドーシスの潜在的なリスクとなり得る。アシドーシス状態では、体タンパク質の異化によりアミノ酸が放出され、腎臓でのアンモニア産生が増加して、酸塩基平衡の傾きを是正するように働くという適応反応が生じる。さらに高齢者では、加齢に伴い腎機能が低下するため、酸負荷の高い食事を習慣的に摂取している場合、体タンパク質の異化が促進され、それが筋肉量低下につながり、健康リスクが高まる可能性が指摘されている。実際に、筋肉量低下との関連を報告した先行研究はいくつかあるが、日常生活機能への影響については十分に検討されていない。

木下氏らは以上を背景として、地域在住高齢者を対象とする縦断的研究により、食事性酸塩基負荷と新規の要支援・要介護認定との関連の有無を検討した。

習慣的食事摂取量に基づく潜在的腎臓酸負荷(PRAL)で3群に分けて要支援・要介護認定の新規発生率を比較

この研究は、愛知県東浦町で自立した生活を送っている75歳以上の高齢者4,970人を対象に実施された。このうち、後期高齢者健診を受けて、かつ郵送による調査に回答した1,950人から、1年間の追跡期間中の死亡やデータ欠落などを除外後の1,704人(女性52.2%)を解析対象とした。

食事性酸塩基負荷は、郵送調査に含まれていた簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)の回答に基づき、潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load;PRAL)を算出して評価した。PRALは食事中に含まれる5つの栄養素(タンパク質・リン:酸性に傾ける栄養素、カリウム・カルシウム・マグネシウム:アルカリ性に傾ける栄養素)から算出され、PRALが0を超えた正の値は、日常摂取している食品が総じて酸性であることを意味し、値がマイナスの場合は摂取している食品が総じて塩基性(アルカリ性)であることを意味する。

アウトカムは、要支援・要介護の認定を新たに受けた場合とした。

ベースライン時のPRALの高低による比較

PRALと生体指標との関連は性別によって異なることを示す報告が散見されるため、解析は性別に行われた。男性と女性をそれぞれのPRALの三分位数で3群に分類すると、ベースラインにおいて以下のような相違が観察された。

女性

女性のPRALは、第1三分位群は95%信頼区間の上限がマイナスとなり、この群はアルカリ性の食生活と考えられ、第3三分位群は信頼区間の下限がプラスとなり、この群は酸性の食生活と考えられた。第2三分位群はそれら両者の中間に位置し、下限がマイナス、上限がプラスだった。

この3群間で年齢は有意差がなく、BMIは第1三分位群から順に22.7±3.3、22.0±3.2、23.1±3.8だった(p<0.001)。現喫煙者率、独居者率、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往者率には有意差がなかった。

エネルギー摂取量とタンパク質・脂質摂取量(%E)は、PRALが高い群ほど高く、炭水化物摂取量(%E)はPRALが高い群ほど低かった(すべて傾向性p<0.001)。

男性

男性のPRALは、第2・第3三分位群はともに、信頼区間の下限がプラスであり酸性の食生活と考えられた。第1三分位群は下限がマイナス、上限がプラスだった。

この3群間で年齢およびBMIには有意差がなかった。独居者率は第1三分位群から順に5.2%、6.6%、10.7%であり(p=0.040)、高血圧の既往者率は53.9%、50.4%、69.4%だった(p<0.001)。現喫煙者率、糖尿病・脂質異常症の既往者率には有意差がなかった。

エネルギー摂取量は3群間に有意差がなかった。タンパク質・脂質摂取量(%E)は、PRALが高い群ほど高く(傾向性p<0.001、0.002)、炭水化物摂取量(%E)はPRALが高い群ほど低かった(傾向性p<0.001)。

女性は第3三分位群(食事性酸負荷が最も高い群)の要支援・要介護状態の発生率が有意に高く、男性では有意差なし

追跡期間中の要支援・要介護認定の新規発生率は、PRALの第1三分位群から順に、女性は6.8%、6.7%、10.4%、男性は5.9%、5.1%、5.2%だった。

多変量調整後(年齢、BMI、エネルギー摂取量、独居、現喫煙、慢性疾患の数)、第1三分位群(食事性酸負荷が最も低い群)を基準とする解析で、女性のPRAL第3三分位群はオッズ比(OR)が1.96(95%CI;1.06~3.61)となり、要支援・要介護認定を受けた人が有意に多いことが明らかになった。

なお、女性の第2三分位群(OR1.10〈0.57~2.13〉)、および男性については第2三分位群(OR0.79〈0.35~1.76〉)、第3三分位群(OR0.81〈0.37~1.79〉)ともに、第1三分位群と有意差が認められなかった。

タンパク質は筋肉にとって大切だが食事性酸負荷を高めるため、酸負荷を和らげる食品の摂取も重要

まとめると、75歳以上の日本人高齢者において、習慣的な食事摂取量から評価した食事性酸負荷(PRAL)の高さは女性の新規要支援・要介護認定と有意に正の関連を示し、男性では関連がなかった。

論文中の考察によると、本研究はPRALの性差を明らかにすることを目的としていないが、女性ではPRALと生体指標との関連が有意で男性では非有意という結果は、除脂肪体重や2型糖尿病発症などとの関連を検討した先行研究からも報告されているという。ただし、この性差のメカニズムは明らかになっていないとのことだ。

一方、本研究における女性のPRALの第1三分位群と第3三分位群の栄養素摂取量を比較すると、先述のようにタンパク質は、第3三分位群のほうが多かったが、第1三分位群も体重あたり1.4±0.3g/kgと決して少なくはなかった。また、酸性負荷が強い動物性タンパク質の占める割合は、第1三分位群が54.9±10.5%であるのに対して、第3三分位群は64.9±9.1%と有意に高かった(p<0.001)。さらに、アルカリ性に傾ける栄養素が豊富な野菜や果物の摂取量は、第3三分位群が第1三分位群の半分程度と少なかった。

これらを基に論文の結論は、「性差については今後の検討が必要であるが、高齢者の健康リスクを抑制するには、タンパク質を豊富に含む食品に加えて、野菜や果物を多く含む食事が重要ではないか」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「High dietary acid load increases the risk of disability in women aged 75 years and older: A community-based cohort study」。〔J Frailty Aging. 2025 Feb;14(1):100004〕
原文はこちら(Elsevier)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2025前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ