大学野球選手の栄養摂取状況 競技レベル別の比較で明らかになった意外(?)な結果
国内の大学野球部部員の栄養素摂取量を調査し、競技レベルとの関連を詳細に検討した結果が報告された。中部大学生命健康科学部/大学院生命健康科学研究科の飯尾洋子氏、伊藤守弘氏らの研究によるもので、「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に論文が掲載された。全体的に摂取エネルギー量が不足しており、また、栄養素摂取量が最も適切なのは1軍の選手ではなく、その座を狙う2軍の選手だったという。
男子大学野球部員の栄養素摂取状況は、競技レベルで異なるのか?
栄養がスポーツパフォーマンスの向上に重要であることについては強固なエビデンスが存在し、実際、ハイレベルのアスリートに対する栄養サポートが広く行われている。しかし、大学生アスリートは学業とトレーニングを両立せねばならず、またプロレベルの選手のような栄養面の指導やサポートを受ける機会が限られている。研究面においても、大学生アスリートの栄養素摂取量を、単一の競技参加者で調査した報告は少ない。
これらを背景として飯尾氏らは、大学野球部の学生を対象とする栄養素摂取量を調査し、学年や競技レベルとの関連の検討を行った。なお、野球は有酸素運動という要素は少ないものの、試合時間は3時間以上続くことがあり、かつ1日に複数の試合を行うこともあって、持久力と疲労からの迅速な回復が求められ、栄養サポートの重要性が高い競技の一つと言える。
競技レベルで4段階に分類して検討
この研究は、5年に1人のペースでプロ野球選手を輩出している、競争力の高い大学野球部に所属する男子学生を対象に実施された。2022年10月下旬の秋季リーグ戦終了直後に、インターネット(Googleフォーム)アンケートにより、居住形態(実家、下宿、寮)や食習慣、および食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いた栄養素摂取量などの調査を行った。116人の部員のうち100人が回答し、有効回答は92人(92.0%)だった。
学年の内訳は、1年生が34人(37.0%)、2年生が32人(34.8%)、3年生が26人(28.3%)だった。競技レベルについては4段階に分類。1軍(公式戦レギュラー選手)が12人(13.0%)、2軍(公式戦ベンチ入り選手)が14人(15.2%)、3軍(2軍入りの可能性がある選手)が34人(37.0%)、4軍(その他の選手)が32人(34.8%)。居住形態は、実家52.2%、下宿41.3%、寮6.5%だった。
全体的に摂取量が不足しているが、2軍選手は比較的良好な摂取状況
摂取エネルギー量とエネルギーバランス
対象全体の摂取エネルギー量は2077.4kcal(中央値〈以下同様〉)であり、「日本人の食事摂取基準」の推奨と比較し、大幅に少なかった。栄養素バランス(摂取エネルギー量に対する比〈%エネルギー;%E〉)については、タンパク質13.3%E、脂質24.5%E、飽和脂肪酸7.7%E、炭水化物62.0%Eだった。
これを学年別に比較すると、摂取エネルギー量については1年生が2205.2kcal、2年生が2018.9kcal、3年生が2022.5kcalであり、1年生が多い傾向があった(2年生との比較でp=0.057)。栄養素バランスは差がなかった。
競技レベル別に比較すると、摂取エネルギー量については1軍が2055.1kcal、2軍が2304.2kcal、3軍が2085.8kcal、4軍が2009.3kcalであり、2軍が最も高値であり4軍との間に有意差が認められた(p<0.01)。一方、タンパク質摂取量は同順に、13.5、12.9、13.3、13.5%Eであり、2軍が最も低値であり4軍との間に有意差が認められた(p<0.05)。タンパク質以外の%エネルギーは差がなかった。
居住形態、BMIカテゴリー、および朝食摂取頻度別の比較では、摂取エネルギー量、栄養素バランスに有意差は認められなかった。
競技レベルと栄養素摂取量の関係
次に、栄養素摂取量(重量)と競技レベルの関係を検討。炭水化物、カルシウム、亜鉛、銅、マンガン、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、不溶性食物繊維、ヨウ素、モリブデンについて、群間の有意差が認められた。
多重比較から、全体的に、2軍の栄養素摂取量が高い傾向が観察された。例えば、炭水化物の摂取量は2軍が最も高く、3軍(p=0.031)や4群(p=0.002)との間に有意差が存在した。また、不溶性食物繊維、カルシウム、亜鉛、銅、ヨウ素、モリブデンについては、2軍と4軍の間に有意差があり、前者のほうが多く摂取していた。
なお、1軍については他群との比較で摂取量に有意差のある栄養素は特定されなかった。
競技レベルと食品群別摂取量の関係
続いて、食品群別の摂取量と競技レベルの関係を検討すると、穀物、砂糖、乳製品について、群間の有意差が認められ、いずれも2軍は4軍より多く摂取していた。1軍については前記の栄養素摂取量との関係と同様に、他群との比較で摂取量に有意差のある食品群は特定されなかった。
大学野球選手の栄養の最適化には組織的・戦略的な対策が必要
これらの結果の総括として、著者らは以下のような考察を加えている。
まず、総じてエネルギー量や栄養素量の不足傾向が認められた中で、2軍選手についてはエネルギー量、炭水化物やその他の栄養素摂取量が多く、4軍の選手は低い傾向にあったことを指摘し、「2軍の選手は1軍入りを目指すというモチベーションをもち、栄養面の改善という点でも努力していることの現れではないか。一方、4軍の選手の摂取量不足に関しては、怪我のためにカテゴリーを下げたうえで調整中の選手が含まれていたことの影響も考えられる」としている。
一方、最も競技レベルの高い1軍の選手の摂取量が他の群と有意差がなかったことについては、「1軍の選手は常時試合に出場しているために、コンディションの『向上』よりも『維持』に重点を置いていて、とくに本調査がシーズン終了直後に実施されたため、この理由による影響が強く現れた可能性がある」という。
論文の結論は、「大学野球選手の摂取エネルギー量と、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、カルシウムなどの栄養素摂取量が不足している実態が浮かび上がった。また、食品群では、ジャガイモ、豆、野菜、果物、卵、乳製品などが不足していた。これらの不足の改善には、個人レベルの努力だけでなく、組織的かつ戦略的な対策が必要ではないか」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Survey of nutritional intake status in college baseball players」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2459090〕
原文はこちら(Informa UK)